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Zauber Karte

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#4


工藤くんがうちに不法侵入をしてきた日から1週間。
あれだけ「俺は毎日事件で忙しいんだ!テメェの勉強なんか見てやる暇はねぇよ!」と私に豪語してたくせに、そのちびっ子探偵は今、暇さえあればうちの敷居を堂々と跨いでるわけで…。


「にしてもオメー…」
「うん?」
「よくこの理解力で2年に上がれたよな。俺がオメーだったら生きる気力失くすぜ…」
「…」


しかも勝手に冷蔵庫を開けては飲み物パクってくしこうやって毎回毎回侮辱してくるわけで!
私はあんたのストレス解消マシーンじゃないっての!!


「ふーん、そっかー。でもその気持ち分かるかも。私が工藤くんだったら自分の性格の悪さに嫌気がさして自殺しちゃうかもしれな」
「ああ!?」
「…ナンデモナイデス」


工藤くんって絶対亭主関白になりそー…。
これじゃあ例え毛利さんと結婚してもすぐ実家に帰られて破局の一途を辿るね。


「…あ、そこ違う」
「え?」
「これはよくある引っ掛けだ。この場合はこれじゃなくて36ページに書いてある公式を使って…」


さっきまでは眉間に皺を寄せてあんなに怒ってた工藤くんは、いつの間にか普通の顔になっていた。
それどころか、小さい体を一生懸命乗り出して丁寧に説明してくれる工藤くん。
その態度に私は、不覚にも驚く感情を隠せなかった。
見かけは確かに小学生のチビっ子だし、話してみたら中身も小学生みたいなとこもあってガキっぽいと思ってたのに、こうやって何かを教えてる時の工藤くんは、確かに私が知ってるいつもの工藤くんそのまんまで…。


「…な、何か暑いね?」
「えっ、そうか?俺はそうでもねぇけど…」
「あ…そ、そう?だったらいいや…うん…」
「はぁ?」


置いてあった麦茶を勢いよく体内に流し込むと、いくらか体の火照りがクールダウンした様な気がした。
でもそれは所詮、私の錯覚に過ぎなくて…。


「…あれ?何だかオメー、顔が赤くなってないか?」
「え?そ、そんな事ないよ?」
「いや、赤いって絶対」
「えー?工藤くんの気のせいだって。あ、もしかしたらそれって職業病ってやつなんじゃない?ほら、何でもかんでも怪しまなきゃ気が済まないってやつ!まぁそーゆーのが出ちゃうのも無理ないのかもねぇ…何てったって平成の金田一だし?」
「金田一じゃねぇ!ホームズだ!!」
「どっちだって同じ様なもんじゃん」
「ばっ…全然違ぇよ!!」
「まぁまぁ、そうカッカしないでよ。とにかく気のせいだってば」
「……じゃあ確かめてやる」
「え?なに?何か言っ…」


工藤くんが何かをボソッと呟いた直後、自分の前髪が勢いよく掴まれた。


「なっ…!!ちょっ、やめてよなにす」
「いいからじっとしてろ。熱があったら大変だろ?」


工藤くんは私の前髪を上にあげると、その小さな顔を私に近づけ額を押しつけて来た。
この前からかわれた時と同じぐらい近づけられた距離に、私の思考回路は完全に停止していた気がする。


「あ…あの…工藤く…」
「……」


工藤くんは何も言わなかった。
というか、私が今どんな心境なのか全然分かっていないと思う。
真剣な顔で私に熱があるかどうかを確かめてるだけで、一気に狭まったこの距離に戸惑っているのは、明らかに私だけ。
額同士が当たってる時間が長くなるほど、私の思考はどんどん霞みがかって…いって…。


「んー…確かに熱いっちゃあ熱いけど、微妙だな…」


工藤くんの言葉に視線を上げると、この前間近で見た蒼い瞳が、また私の視界に広がっていた。
額から波紋の様に広がってくる工藤くんの体温と、絡み合うお互いの視線。
そのあまりの恥ずかしさに、私は工藤くんの肩を咄嗟に掴んだ。


「や…やめてよ工藤くんのバカ!!熱なんかないってば!!」


もう無理、平常心なんか保っていられるか。
自分の限界を感じ、無理矢理工藤くんを引き剥がして体を反転させた、ら……。


「っ…!?」


立てかけてあったスタンドミラーには、真っ赤に染まった自分の顔。
ううん、顔だけじゃない。
その色は、耳や首まで及んでいた。


「…かっ、」
「へ?」
「か…勘違いしないでよ!?てかされると迷惑なんだからねこっちは!!」
「…へ?何が?」
「だ…だーかーら!!べ、別に私は工藤くんが好きとかそーゆーんじゃないんだからね!?」
「なっ…!お、お前いきなり何言っ」
「でもこうやってオデコぴったんことかされちゃうとさ!や…やっぱりその…い、意識しちゃうんだよ!?一応私にとって工藤くんは生物学的には異性なんだし!!」
「い、一応って…」
「だから!こーゆー事は今後一切やらないで!!ってかやるな!!禁止!!分かった!?アーユーオッケー!?アンダースタァァァン!?」
「お…おう…」


一気に捲し立てたおかげで、私の呼吸はたった今100メートルを全力疾走で走ってきた様に切れていた。
くっ…工藤くんは分かってないんだよ一般女子の扱いが!!
私は毛利さんみたいに工藤くんの言動に慣れてるわけじゃないんだからね!?


「い…いいからさっさと問3からの答え合わせしてよ!!」
「え?あ…ああ…」


だけど…さ。
毛利さんの事が、少しだけ羨ましく思ったっていうか…。
確かに工藤くんってホームズオタクで根暗なイメージが強いけど、ルックスはまぁまぁイケてる方だし、何だかんだで頭いいし、こうやってバカな私の面倒見てくれるし…。
しょ、所詮私のタイプじゃないけどさ!?
こんな幼なじみが自分にもいれば少しは楽しい人生送ってたのかなーとか思ってみたりしちゃったわけで!!
でもこんなワンマン男子はタイプじゃないわけで…!!
ああもうやだやだやだやだ!!
何でこんなに熱いんだよ私の顔!!
この、このっ…!!
静まりたまえ今すぐに…!!


「…なぁ名字、」
「なっ、何だようっさいなぁ!!」
「…オメー何キレてんだよ?」
「べ…別にキレてないじゃん!!どこがキレてるように聞こえるわけ!?ってか何!?何か用!?用が無いなら呼ぶなよセクハラ坊主!!」
「……」
「…ふん!」


工藤くんのジトーッとした目と視線に落ち着かなくなって思わず俯くと、赤い丸がつけられたノートが目の前に差し出された。


「…なに?これ」
「なにって…オメーがさっき解いた問題」
「えっ…でも丸が多い…」
「あたりめーだろ?全問正解なんだから…」
「えっ!?ほ、ほんとに…!?工藤くんの嘘じゃない!?」
「ああ、嘘じゃねーよ」


工藤くんのその言葉に、頬が自然と緩んでいくのを感じた。
わ…私にも解けた…!


「ふっ…オメーやれば出来んじゃねーか」


柔らかくて優しい微笑み。
その工藤くんの表情に、さっき頭を撫でられた時に感じた、どこか懐かしい気持ちが胸の中に込み上げてきた気がした。


「ま、ホントはこの程度の事は1年の頃に理解してなきゃいけなかったんだけどな。オメーにしちゃあ頑張ったんじゃねぇの?この1週間」
「…」


なんか褒められてんのか貶されてんのかよく分かんないんだけど。


「ところで名字、オメーの苦手な教科って数学だけか?」
「え…?うん…他はまぁまぁかな、多分…」
「じゃあ明日から数学の授業ん時は俺の教科書使えよ」
「…は?何で?」
「オメーのその落書きだらけの教科書が今後役に立つとは到底思えねぇから」
「…」
「それに俺の教科書はオメーのとは違って要点とか詳しく書いてあるしな…。とりあえず次のテストまでは俺ので勉強しとけよ」
「え?でも工藤くん、今休学してるのにどうして…」
「バーロォ、いくら休学中だからって勉強サボってたら意味ねぇだろ?俺だって毎日暇な時は予習復習ぐらいしてんだよ」
「……そう、なんだ」


工藤くんって、何もしなくてもデキるエリートだと思ってたけど、案外努力家なんだ…。


「じゃ、俺そろそろ帰るから」
「え?もう?」
「蘭から5時までには帰るように言われてんだよ。ったく…俺は小学生じゃねーってのによー…」
「あははははは!そりゃあ仕方ないよだって工藤くん、今チビだし!」
「う、ウッセェなぁ!!もう勉強見てやんねぇぞ!?」
「そっ、それだけは…!」


今工藤くんに見放されたら私確実に留年しちゃう…!


「げっ!やっべ、もうこんな時間かよ!?じゃあな名字!明日の朝、郵便ポストに教科書入れとくから忘れずに持ってけよ!!」
「ちょっ、工藤くん!?」


工藤くんはそう叫ぶと、乱暴にドアを開けて飛び出して行った。


bkm?

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