普段親友と来るいつものカフェ。
普段通りにアイスティーをオーダーして、普段通りにいつもの席へ。
でも、今日はいつも飲むアイスティーの味が、ほんのり優しい味がした。
テーブルに置いたコップの氷が、カランて音をたてる。
「いや〜しっかし都大会での毛利は凄かったな〜」
「もう先輩ったら…さっきからそればっかりですよ?」
「だってよ、お前のあの回し蹴りは特に神業だぜ!?型も決まってたし!」
「先輩だって男子の部で優勝したじゃないですか!私ずっと見てましたよ?先輩すごくかっこよかったです!」
「そ、そうか…?はは、何か照れるな…」
あ、もしかして私いますごく恥ずかしいコト言っちゃった!?
やだ、どうしよう…
「あ、あの」
「でも毛利にそんな事言ってもらえるなんて嬉しいよ。ありがとな!」
「あ…いえ…」
やだな…
そんな笑顔されたら顔が赤くなっちゃうよ…
「あ、そういえばさ」
「え?」
「前から気になってたんだけど」
「はい?」
「毛利って工藤の事好きにならなかったのか?」
「えっ!?」
「あ、いや…小さい時から一緒なんだろ?異性として気になったりとかしなかったのかな〜って思ってさ…」
「…クスッ、私は新一に対して恋愛感情なんて持った事ないですよ?」
「え、そうなのか?」
「はい…だって産まれた時から何だかんだでずっと一緒にいましたし、新一はずっと名前の事を想い続けてましたから…仮に私が好きになってたとしても、私が割り込む隙なんて1ミリも存在してませんでしたから、きっとすぐに諦めてたと思います」
「へぇ…なんか工藤が羨ましいな…」
「え?羨ましい…?」
「だって俺の知らない毛利を知ってるんだから…」
そう言いながら外の景色を眺める先輩の顔は、どこか悲しげで…
でも私の心臓はうるさい位に悲鳴をあげていて…
よくわからない気持ちになった。
「あ、先輩は幼なじみとかいないんですか?」
「あれ?知らなかったっけ?」
「え?」
「幼なじみだよ?生徒会長の相沢遥香と」
「ええっ!?あの容姿端麗才色兼備の相沢先輩と幼なじみぃ!?」
私は気付いたらガタッ!と音を立てながら立ち上がっていたワケで…。
「あ…す、すみません…」
「ははっ、いいよ。でも何でそんなに驚くんだ?」
「えっ、だって相沢先輩って名前と同じで帝丹のマドンナって言われてるし…まさか、そんな人と幼なじみだったなんて…」
そ、そういえばこの前好きな人いるって言ってたよね…?
き、聞いてみようかな…?
「あ、あの…」
「ん?何?」
「あの…先輩、この前好きな人いるって…言ってましたよね?」
「へっ!?あ、あぁ…」
「ど、どんな人…ですか?」
「あ〜えっと…髪は長くて、顔も凄く美人で…それと…俺の1番近くにいる人…かな…」
「…!」
髪が長くて美人…
それに…1番、近く…?
じゃあ、幼なじみの相沢先輩しか、いないじゃない…
「毛利?」
「あっ…!」
「どうしたんだ?急に黙り込んで…」
「あ…ごめんなさい。何でもないです…」
ここで泣いたら変な女だと思われちゃう…!
我慢しなきゃダメよ…!
「……なぁ」
「えっ…?」
「ちょっと付き合ってくれないか?」
「あっ、ちょ…」
先輩に腕を掴まれながらお店を出た。
そして連れて来られた場所は…
「ゲ、ゲーセン…?」
「これ!やろうぜ!」
「え?」
先輩が笑顔でパンチングマシンをとんとん叩きながら私に言った。
「最近毛利さ、妙にイライラしてただろ?だからこれでストレス解消しよーぜ!」
「えっ…どうして私がイライラしてたってわかったんですか?」
「あっ、いや、その…いつも毛利を見てるから…」
「えっ??」
「あ、いや何でもないよ!」
「?」
ゲーセンの中ってうるさいから聞こえないのがちょっとね…。
「ほら!早く女主将の数字を見せてくれよ!」
「あ…はい!」
私はお金を入れてグローブをはめた。
「……あんの推理オタク野郎…名前を放置してどこほっつき歩いてんのよーーっ!!!」
────ドガァッ!!
私は渾身の怒りをパンチングマシンにぶつけた。
「どれどれ数字は…えぇっ!!?」
「ふーん…400って言われてもイマイチぴんときませんね?」
「も、も、毛利!!」
「ど、どうしたんですか先輩?そんなに慌てて…」
「ボ、ボクシング経験のある20代の男がこれやっても348だぞ!?」
「…えぇーっ!?」
やだあたし!
先輩の前で女捨てちゃった!!
「さすがだなぁ!!すげぇよお前!!」
「え…?」
「俺お前の事更に好きになったよ!」
「………え?」
す、好きに…なった…?
「あぁ違う!えーっと…今のは忘れてくれ!!な!?」
「…あ、はい…」
上がって落ちるって結構ショックだな…
でも、一瞬でも喜んだ私が悪いのよ…
だって先輩が相沢先輩を好きなのは多分間違いないと思うし…