「名前、園子…」
『うん?』
「どしたの?蘭」
「えっと…」
『うん?』
「あの…」
「何よ?」
「……」
「……」
「私…」
『蘭が?』
「どうしたの?」
「す、好きな人出来た…」
『「えぇっ!?」』
生意気な幼なじみが学校に来なくなってから数ヵ月。
最近私は、自分の気持ちに気付いた。
ううん、本当は1年間気付かないフリをしていたのかもしれない。
『空手部の…』
「鈴原慎吾先輩!?」
「うん…」
親友に好きな人を教えるって、とっても恥ずかしい気持ちになるんだなぁって感じた。
「ちょ、ほんとに!?」
「うん…」
『とうとう蘭にも彼氏が!?』
「…それは気が早いよ名前…」
『蘭!私応援するっ!』
「名前…」
「私も応援するわ!頑張ってあの爽やかイケメンGETしちゃいなさいよ!」
「園子…」
6年前の空手日本チャンピオンに憧れて始めた空手。
空手の楽しさに夢中になりながら稽古を受け続け、気付いたら私は帝丹高校空手部の女主将を務めるまでになった。
鈴原先輩は、同じ空手部の部長を務めている人。
初めて出逢った時から好印象で、空手に対する熱い思いや、たまに見せる無邪気な笑顔、試合中の真剣な眼差しや表情を見ている内に、いつしか私の視線は彼だけにいってしまう様になった。
「蘭、お疲れ〜!」
「お疲れ〜!」
今日もかっこいい鈴原先輩が見れてよかった!
ウキウキ気分で昇降口まで行って、革靴に履き替える。
「毛利!」
「あっ、鈴原先輩…」
「よかった間に合って…」
「えっ…?」
「途中まで一緒に帰らないか?」
「あ、はい!」
最近部活が終わった後は、鈴原先輩がこうやって誘ってくる。
家は正反対のはずなのに、どうしてわざわざ遠回りしてるんだろう…?
「あ、都大会優勝おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「やっぱり毛利はすごいな。6年前から始めたって聞いた時は凄く驚いたよ」
「でも習わせるんじゃなかった…ってお父さんには言われてますけどね…」
「えっ、そうなの?でも結果的には習わせて貰えて良かったじゃん」
「えっ?」
「だって習ってなかったら、俺と毛利はずっと接点無かったワケだし?」
「っ…そ、そうですね…」
鈴原先輩が何でこういう事を言ってくるのかわからないけど…
少しは期待しちゃっても、いいのかなぁ…?
「そういえば毛利の幼なじみの工藤、まだ帰って来ないみたいだな?」
「そうなんですよ!あの推理オタク、彼女の名前を放ってどこほっつき歩いてるんだか!」
「あはは…でも俺、あの2人はベストカップルだと思うな〜」
「あ、それ私も思います。あの2人って、運命の赤い糸で繋がってる気がします…」
「赤い糸、か…」
私の小指にある赤い糸は、手繰り寄せたら誰に出逢うのかな…。
「…あのさ、毛利」
「はい?」
「毛利はさ…」
「?」
「好きな男って…いるのか?」
「!!」
ここで貴方が好きですって言ったら、先輩は何て答えるんだろう…
でもそんな勇気、私には到底無い。
「えっと…い、います…」
「えっ!?い、いるのか!?」
「あ、はい…」
「誰!?」
「へっ?」
「うちの学校!?何年!?」
「え、えっと…あの…」
「あっ…ご、ごめんな?いきなり大声出して…」
「い、いえ大丈夫です…」
先輩、何でそんなに切羽詰まった顔してるのかな…?
「あ、あの…」
「えっ?」
「せ、先輩は…好きな人いるんですか?」
つ、遂に聞いちゃった!
「……うん、いるよ。すっげー大好きな子が」
「あ…そう、ですか…」
そりゃあ、いるよね…
「…毛利の好きな男ってさ、どんな男なんだ?」
「えっ!?」
な、何て答えたらいいのかな…
「えっと…とても、男らしくて、強くて、背は私より高くて…それに…」
「…それに?」
先輩の目を見なきゃいけないって思った。
「とても、逞しくて頼りになる先輩です…!」
「…先、輩?」
一瞬、私と鈴原先輩との間に風が吹いたような気がした。
「…年上、なんだ?」
「はい…あ、もううち近いので、これで…」
「あ、あのさ!」
「えっ…?」
「…明日、学校休みだろ?」
「えぇ、それが何か?」
「そのさ……2人で遊びに行かないか?」
「…ふ、2人で?」
「あ、嫌ならいいんだ、うん」
「…クスッ、ぜひ行きたいです」
「ほ、本当か!?」
「はい!」
「じ、じゃあまた後で時間とかメールするよ!」
「はい、わかりました」
「それじゃお疲れ!」
「お疲れ様でした!」
少しは進展…したかな?
どうか、私の勇気が、彼に届いていますように。