「ふあぁぁ…あれ?」
目が覚めると膝に重みがあった。
あー、そうか…。
そういや昨日、この猫が襲われないように見張ってたんだっけ。
「…………」
…今、気付いた。
俺ってすっげーいい男じゃね!?
これでにゃんこのハートをばっきゅん出来たかもしれねぇよな!?
そんな淡い期待を抱きつつ、朝陽に照らされた仔猫の顔から足の先まで、まじまじと観察する。
この子が俺の彼女になったら……なんて妄想が膨らむが、俺は肝心な事を見落としている事に気が付いた。
……コイツ、好きなヤツとかいんのかな?
後で聞いてみるか…?
いやでも初対面で聞いちまったら「僕狙ってます」って言っちゃう様なモンだよな…。
とりあえず今日はやめとくか!
へへ…。
ではその代わりと言ってはアレですが……スカートを捲らせてもらってか〜ら〜の〜?
いざ、下着の色を拝見っ!
リンゴーン リンゴーン
…と、手を伸ばした直後。
まるで俺の行動を阻止するかの如く、江古田のシンボルでもある大時計の鐘が鳴り響いた。
8時、か…。
あーあ、帰ったらお袋にこっぴどく怒られんだろうなー。
下手したらスリッパで頭刺されるかもしんねぇ…。
はぁ〜、このままにゃんこと逃げ出してぇ気分…。
「…うぇ…気持ち悪い…」
おっ!
眠り猫が活動開始したっ!
あくまでもフツーに、フツーに…!
「おはよ」
「……は?」
仔猫は眠そうな目を頑張って開けて、真上にある俺の顔をまじまじと見てきた。
やっぱキレイな目してんなー…。
「…あれ?…ここ、外?」
「ご名答。ちなみにただ今の時刻は午前8時!理解したか?飲んべえなお嬢さん」
「…何となく」
よっしゃ!
出だしは順調!
俺のテンションもアゲアゲでメーター振り切りっぱなし!
正に絶好調なワケだ。
でもこの猫、若干ピントのずれたヤツみたいで、名前より先に年齢を聞いてきた。
「…私がそう言ったの?」
「おー」
でも驚いた顔が見れたし、いーか!
「しかしオメー、なかなか俺好みの顔してんな!」
「…キミ軽いね」
「へ?そーかぁ?」
「うん」
「俺は自分に正直に生きるのがモットーなだけだぜ?」
「っ!」
えっ、顔逸らされた…。
プイッてされたっ…!
ヤベェなぁ…。
このにゃんこに嫌われちまったらショックでけぇし、ここは話題変えてみっか…。
そう思って、何でこの公園で1人で飲んでたのかを聞いてみた。
でもにゃんこは記憶が無いらしい。
「ま、無理もねぇか。ビール10缶も開けてあんなべろんべろんに酔っぱらってりゃあ嫌でも記憶なんかブッ飛んじまうだろうし」
じゃあ、あんな可愛い顔で俺をひき止めた事も覚えてねーか…。
ま、いーや。
「あ、最近この辺変質者出るって噂あるから気を付けた方がいーぞ?」
うちのババァは100パー襲われねぇけど、このにゃんこは迷わず標的にされちまうぜ…。
少なくとも俺が犯人だったら100パー襲うな。
そんでもって、あんなコトやこんなコトを……!
「…あ、あのー」
「ん?」
「キミがその変質者じゃないの?」
「…」
女の子の問い掛けに、俺の脳内で絶賛繰り広げられていた妄想が一瞬でかき消された。
そりゃ無いよ、にゃんこ!
あの鬼ババァにどやされんの覚悟で昨日から居てやったってのに…!!
この俺が襲わなかっただけでも有り難く思えってんだ!!
…って言ったら、俺の初恋はあっけなく散るだろうな。
「まぁ確かに、」
「え?」
「あの状況なら俺が押し倒しちゃってても不思議じゃなかったけどな?」
「…」
しっかし、あんな潤んだ目で見つめられてよく俺の理性吹っ飛ばなかったなー。
我ながらソコは感心するぜ。
やっぱ俺、親父の血をしっかり受け継いでんだな!
「でも俺、基本女の子には優しい男だから!」
「…つまり?」
「俺は同意の上じゃねーとそーゆーコトはしない主義って事!」
「…そっ、か」
猫ちゃんは少しだけ微笑んだ。
あれ?
もしかして俺、いい事言った!?
よし、じゃあ…!
「それに俺達まだ14だぜ?そーゆーコトするのはさすがに早いだろー?」
ここで「別に早くないよ」って返ってきたら俺2メートルぐらい飛び上がる自信あるっ!
「そうだね」
あ、うん、やっぱジョーシキ的に考えてそうだよな。
男女の仲になるのは少なくとも高1になってからじゃねーと…って。
なに考えてんだ俺はっ!
まだそんな関係じゃねぇだろ!!
「…ノド渇いた」
「じゃあ水買ってきてやっから待ってろ」
好きな仔猫ちゃんの為なら何だってしちゃうのが男ってもんだ。
これが青子だったらその辺のドブでも飲んでろって一蹴してやるけど。
ガコン
へへっ、猫はやっぱり水より牛乳だろ!
水は売り切れてたっつー事にして、早速ウォッチングだぜ!
…あ、下着の色!
鐘が鳴ったせいで見れなかった…!