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Zauber Karte

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有り得ないカンケイ


自分の耳がおかしくなってしまったんじゃないのかと疑わずにはいられない。
今、お姉ちゃんの口から有り得ない発言が飛び出してきたのは空耳だろうか。


「……あの、今、何と?」
「うん?」
「今何て言ったの!!」
「えっ…」
「私の耳が正常だったら、今あなた有り得ない事言ったよ?!」
「あ、有り得ない事って…もしかして新一と杏が付き合ってる…って事?」
「もしかしても何も、それしか無いでしょう?!」
「ど、どうして有り得ないの?」
「はあ!?だだだ、だって」
「杏と新一は、れっきとした恋人同士じゃない。先週の新一の誕生日にも、2人でトロピカルランドに…行って、たし…」
「…」


私の耳は…正常だった…。
……いやいやいや、おかしいでしょ!!
もはや名探偵コナンじゃないじゃん!!
っていうか現に毛利杏が存在してる時点でコナンじゃないなーとは思ったけど、それだけじゃなく工藤新一と毛利蘭までもが両想いじゃないって……何で!?
どういう事!?
っていうかトロピカルランドデート!?
私があのボンボン小僧と!?


「……有り得ない」
「え?」
「あんなのが彼氏なんて嫌だ…!死ぬほど嫌だっ…!!」
「…杏大丈夫?新一の言う通り、ホントに病院行った方がいいんじゃない?タクシー呼ぼっか?」
「呼ばなくていい…それより今は静かにし」
「あっ!まさかさっき新一に激しく揺さぶられたせいで脳に何か」
「もう!そんな事で頭に異常なんか出るわけ無いでしょ!?赤ちゃんじゃないんだから!お姉ちゃんはちょっと黙っててよ!」
「ハ、ハイ…」


そりゃあ、あっちの世界では工藤新一は有名人だったし!?
トリップついでに美味しく頂いてしまおうかなー、なんて邪な思いがほーんの少しだけ働いたのは認めるよ!?
でもよく考えたら工藤新一は推理オタクだよ!?
ホームズ教だよ!?
事件大好きな変人だよ!?
血の匂いに敏感で死神にストーカーされちゃってて死体見つけたら興奮のあまり駆け寄っていく変質者だよ!?
そんな奴が彼氏!?
……有り得ない!
毎日毎日ホームズについて熱く語られるのが目に見えてんじゃん!
そんなのぜっっったーーーい嫌だっ!!


「いつから!?」
「えっ?」
「私とあの工藤新一はいつから付き合ってんの!?」
「えっ、と…せ、先月だけど」
「先月の何日!!」
「え、っと…進級した直後だったから10日、だったかな?」
「これで最後!今日って何月何日!?」
「きょ、今日?5月12日だけど…」
「っ!!」


い、1ヶ月も経ってるじゃん!
や、やばい!
やばいよどうにかしなきゃ!
こうしちゃいられない!!


「あっ、ちょっと杏どこ行くの!?」


お姉ちゃんに返事をする事も無く部屋を飛び出した。
米花町の地理なんて知らない。
どこに何があるのかなんて、分かるわけがない。
なのに私の足は、自然と何かに引き寄せられるように、どこかへと向かう。
そういえばさっき、洗面所に行った時もどのドアなのか戸惑わなかったのは、やっぱり体は毛利杏だから…なの、かな…?


「っ、いた…!」


重たい体を必死に動かして走っていると、自宅に向かって歩いている新ちゃんの後ろ姿を見つけた。


「えっ……杏!?」


自分でも笑っちゃうぐらいヘロヘロになりながら、新ちゃんの服の裾を掴む。
その直後、足の力が一気に抜けて地面に座り込んだ。


「はあ、はあっ…!」


な、何なの…この体…!
そんなに…大した距離じゃ、ない、のに……す、すごく…苦し…っ…。


「オメーどうしたんだよ!」
「はあ、はあ…ちょ…と、待っ…てて…」
「っ、まさかうちからここまで走って来たのか!?」
「へ?…うん、走った、よ…?」
「バッ、バーロォ!何考えてんだこのアホっ!!」
「あ、アホってひど」
「オメー激しい運動はぜってーダメだって医者から釘さされてるだろ!もしまた長期入院にでもなったらどうすんだよ!」
「…え…」


ああ、だからさっきも熱出してぶっ倒れたってわけ…。
っていうか、ちょっと走っただけでこの息苦しさはヤバくない!?
何よもう、いちいちめんどくさい体だなぁ…!


「とにかく帰るぞ!」
「あ、ちょっ、新ちゃん待ってよ!大事な話があるの!」


そうだ!
私はこれを言うまで帰らないんだから!


「話だぁ?どうせ言い訳でもするつもりだろ!?そんなのは後だ!ほら、帰るぞ!うちまで送ってやっから!」


新ちゃんはそう言いながら私の手を取り、毛利家に戻っていく。
ちょっ、少しぐらい人の話に耳を傾けようとは思わないのかこの男はっ!


「ったく…ホントにどうしちまったんだよ?」
「えっ、何が?」
「なんか今日のオメー、いつもとおかしいぞ?」
「お、おかしいってどこが?」
「昨日までは『新ちゃん私を守って!』って感じで弱々しいオーラばんばん放ってたクセに、今日はまるでアップデートしたみてぇに強気だし」
「…私とパソコンを一緒にしないで欲しいんだけど」
「ほら、それだよそれ!昨日までのオメーだったらいちいちそんな事言わねぇって!」
「…じゃあ何て言ってたのよ?」
「え?…そーだなぁ。『うふふっ!もう新ちゃんったらぁ!』…とか?」
「あはははウケる!ちょーキモーい!」
「オメーが言えっつったんだろーがっ!!」


まぁでも、この未来の名探偵がそう断言するんだから実際そうなんだろう。
でも、私は元からいた毛利杏を演じられるほど器用な人間じゃない。
それに『自分』を殺してまでこの世界に馴染もうだなんてバカげてる。
…と、勝手に思う。


「なーんかオメーさぁ」
「うん?」
「別の世界の人間と入れ替わっちまったみてぇだな?」
「…」


えへっ、実はそうなんだぁ!
…なーんてほざいたら確実に病院送りされるわ。
しかもアッチ系の病院に。


「なーんてな!そんなバカげた事が起こるわけ」
「でも、実際そうだったら?」
「…は?」
「今新ちゃんが言った通り、昨日までの私がリアルタイムで誰か別の人と入れ替わってるとしたら、新ちゃんはどうする?」
「……」
「……」
「……」
「痛っ!!」
「オメーやっぱ酒のせいで脳みそイカれちまったんじゃねーのか!?」
「しっ、失礼だな!イカれてなんかないし!っていうかいきなり両手で頬っぺた挟むとか止めてよね!世間じゃ立派なセクハラいひゃいいひゃいいひゃい!」
「お前ホントに杏か!?誰かが変装してんじゃねーの!?」


そう言いながら新ちゃんは私の頬っぺたを限界まで引っ張ってきた。
こっ、この男は几帳面な上にオタクでしかも暴力まで奮ってくるのか!!
なんて最低な男なんだっ!!


「…あれ?変装じゃねぇのか」
「っ、当たり前でしょ!?なに本気でそんな事思っちゃってんの!?バッカみたい!」
「バ、バカってお前」
「いい!?これが私なのっ!正真正銘、れっきとした毛利杏なの!文句あって!?」
「…ああ、大有りだ!俺は昨日までの杏の方が断っ然良かったよ!」
「あーそう?ふーん、分かった。じゃあ丁度いいね。別れようか、私達」
「………は?」


勉強と運動はすこぶるダメだけど、こういう流れに持っていくのだけは得意なんだよねー、私!


「オ、オメーなに言っ」
「あ!もうこんな時間!早く帰らないとまたあの呑んだくれにぶっ叩かれて流血する!」
「えっ!?流血!?」
「ああ、大した事じゃないの。今朝うちに帰った直後お父さんにビンタされて口の中切っちゃって」
「はぁ!?だ、大丈夫なのかよ!?」
「うん平気平気!もう血は止まってるし。…あ、もうすぐ着くからここでいいよ新ちゃん」
「え」
「じゃあね〜!また明日〜!」


さて、これで心置きなく名探偵コナンの世界を堪能…。


「おい!待てよ杏!」


…うん、出来るわけ無いですよねー。
新ちゃんにがっちりと掴まれた右手を横目で見ながら、どう言い訳しようかと思考を張り巡らせた。


bkm?

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