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Zauber Karte

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決意、出発


「ふー…サッパリしたー…」


冷たい水で顔を洗って鏡を見ると、幼くなった自分自身と目が合った。


「中学生、か…」


自分の見た目にそこまで関心が湧かないのは、さっきから信じられない出来事ばかり起きているせいだと思う。
マンガの世界に飛んできちゃっただなんて、やっぱ信じられないよ…。
改めて、洗面所の鏡に映る自分の顔を見る。
姉妹の蘭ちゃんとは対称的に、私の身長は小学生の様に低く、髪色は地毛にしてはとても明るい茶色。
とりあえず、お母さんの英理さんは疎か、蘭ちゃんにすら似ても似つかないのは確かだ。
おっぱいもお尻も出てないし。


「…あれ?」


私の瞳…左右で目の色が違うんだ。
片方はブルーで、もう片方はグリーン?


「キレー…」
「杏、大丈夫…?」
「え…わっ!」


遠慮しいしい入ってきた蘭ちゃんの声で、自分の顔が鏡にキスする寸前まで近付いていた事に気付き、慌てて離れた。


「さっきお父さんに叩かれたとこ、少し赤くなってるね…」
「そ、そう?」
「うん…。ちゃんと冷やした方がいいかも…」


蘭ちゃんは心配そうな顔で、私の左頬に優しく触れた。


「あ、お母さん。お父さんは落ち着いた?」
「何とかね…。でもまだとてもじゃないけど杏を近付けていい状態じゃないわ。頭に血がのぼっててまともに話も出来ない状態よ」
「そう…。あ、私、保冷剤持ってくるね」
「ええ、お願い」


ま、まともに話が出来ない毛利小五郎ってどんな状態なんだろ…。
少し見たい気もするけど…やっぱ怖いからやめとこ。


「大丈夫?杏…」
「あ、うん大丈夫だよお母さん」


私に近付いてきたお母さんから、ふわりと良い香りがした。
この人、確か弁護士だよね?
さすが弁護士やってるだけあって知的なオーラがビンビンに放たれてるなぁ…。
いかにもクールビューティーって感じで、あの工藤有希子と張り合っただけの事はあるなって納得するわ。


「まったくあの人ったら。娘相手に手加減しないで何考えてるのかしら…」
「あはは…」


ほんと、ほんと。
まぁでも平手だっただけマシだよ。
これでグーだったら確実に首ごと吹っ飛んでたって。


「…何か嫌な事でもあったの?」
「え?」
「近頃、あなたの様子がおかしいって蘭が言ってたのよ?何か悩み事があるんなら、お母さんに話してくれないかしら?」


そう言うとお母さんはニコッと微笑んだ。
こんな美女が、私のお母さんだなんてにわかに信じられない…。


「…あ、あの」
「うん?」
「私の目…左右で色が違うん、ですね?」


私が聞くと、英理さんは少し悲しそうな顔をした。
軽い気持ちで聞いた事に、ほんの少しだけの後悔。


「あなた、また学校でいじめられたのね…?」
「え…?」


また、ってどういう…?


「…オッドアイの、何がいけないのかしらね」


そう言うと英理さんは私を優しく抱き締めてきた。
オッドアイ…?
ああ、確か虹彩異色症の事だっけ…。
…あ、そうか。
毛利杏は虹彩異色症が原因で、ずっとイジメに合ってたんだ…。
それでとうとう追い詰められて、1人ぼっちであんな場所でお酒を飲んじゃって…ってところかな。


「ごめんね杏…」
「…どうして謝るの?」
「だ、だって…」
「何も謝る事じゃないでしょ。すごくキレイな宝石みたいで、エメラルドとサファイア…っていうの?よく分かんないけど…。でも私、すごく気に入ってるよ?」
「杏…」


これは英理さんを慰めるために言ったんじゃない。
私の本心から自然と出た言葉。


「ありがとう、杏…。あなたは本当に優しい子ね。母親の私がいつも慰めてもらってばかりで…。ほんと情けないったら…」


いや、だから別に慰めてるわけじゃないんだけどなぁ…。


「お待たせ杏」
「あ…ありがとう」


蘭ちゃんが持ってきた保冷剤を頬に当てた。
五感もしっかりしてるし、やっぱり夢なんかじゃないんだ…。


「蘭。しばらく杏のそばにいてあげてくれる?私はあの人の相手してくるから」
「うん、わかった」


英理さんが出て行った後、2人が言い争う声がリビングから聞こえてきた。
テレビで聞いた事がある、ほんとは仲の良い証拠の口ゲンカ。
ああ、私ほんとに名探偵コナンの世界に来ちゃったんだ…。


「ねぇ杏」
「うん?」
「また目の事でからかわれたの…?」
「あ…いや、違う違う。ちょっと反抗心でお酒飲んじゃったっていうか…」
「そう?ならいいけど…。また変な事言われたらお姉ちゃんに言うのよ?空手で半殺しにしてあげるから!」
「あはは…」


ああ、あの電柱をも折ってしまう驚異的な技か…って…。
え…今、お姉ちゃんって言った??


「ね、ねえ?」
「うん?」
「あのさ…今、お姉ちゃんって言った…?」
「……は?」


私が聞くと蘭ちゃんは目をパチパチさせて唖然とした顔で見つめてきた。


「な、何言ってるの?杏。当たり前でしょ?」


や、やっぱりそうだったんだ…!
なんか態度とか言い方とか長女って感じしたもん!


「私達は同じ血を分けた、れっきとした双子の姉妹じゃない!」
「……へ?」


ふ、ふ、双子…!?


「えっ!?うそ!全然似てない!」
「そりゃそうよ。二卵性だもん」
「……」


何を今更、と言わんばかりのお姉ちゃんに、私はぐうの音も出ない。
だってあまりにも平然と言ってのけるから、驚く私がおかしい人みたいに感じてしまうし…。


「でも、いきなりどうしたの?」
「ううん!何でもないの!」


さっきから信じられない事ばっかりで、思考が全くついていけてない状態。
だけど、これが夢じゃない事はさっき散々思い知ったわけで…。
…じゃあ、私はどうすればいいんだろう…。
元の世界に帰る方法なんてわからないし…


「杏」
「へっ?」
「私はどんな事があっても、杏の味方だからね?何か悩みがあるなら、お姉ちゃんがいつでも聞くから」
「…」
「だから…だから1人で悩んじゃダメだよ?」


服ごしに蘭ちゃんから伝わる温もりを感じた瞬間、なぜか視界がぼやけ出した。


「…ありがとう、お姉ちゃん」


これが現実なら、いつか元の世界に戻る日までここで生きよう。
精一杯、楽しもう。
頬に流れるなま暖かいものを指で拭いながら、そう心に決めた。


「じゃあ蘭、あの暴力ヘボ探偵と杏の事よろしく頼むわね」
「うん、任せて!」
「杏?もう絶対に飲酒なんかダメよ!お酒は20歳になってから!いいわね?」
「は、はーい…」


お母さんは私達と一緒に夕飯を食べた後、自宅へと帰って行った。
お姉ちゃん曰く、家族4人揃ってご飯を食べたのは2年ぶりらしい。


「あ、新一に杏が見つかったって連絡しないと」


テレビを見ながら3人でテーブルを囲んでお茶を飲んでいた時、お姉ちゃんが思い付いたように言ってケータイを弄りだした。
新一って、あの工藤新一か。
私がいなくなって心配してるのかな?


「ったくよー…何でいちいちあの生意気な坊主に連絡しなきゃなんねーんだよ」
「当たり前じゃない!新一も昨日一緒に探してくれてたんだから!報告ぐらいしとかないと心配するでしょ!?」


さっきまで怒りを露にしてたお父さんの機嫌もすっかり直ったみたい。
うん、良かった。


「お父さん」
「あん?」
「えっと…ご、ごめんなさい。心配かけて…」
「…もう酒なんか飲むんじゃねーぞ」


そう言いながらお父さんは私の髪をくしゃっ、とした。
いや、コナンじゃないけどさ?
私見た目は子供だけど中身は成人した女なんだけどなー…
でもやっぱり体は未成年なわけで。
アルコールを摂取したせいか、体がすこぶるダルい。
…うん、お酒大好きな私としてはつらいけど頑張って自粛しよう。


bkm?

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