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Zauber Karte

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思い切りもまた一興


黙々と住宅街を進む事十数分。


「つ、着いちゃった…」


目の前に聳え立つ、妙に小綺麗な建物。
これが快斗くんの通う学校か…。


「…あ」


公立にしてはキレイな方だと思う反面、今更ながら私は気付いた。
快斗くんがまだ学校に残ってるなんて確信はどこにも無い。
念の為ケータイを確認するも、案の定快斗くんからの返信は無かった。
部外者の私が勝手に学校に入るわけにはいかないし、かといってこのままあの2人の所へ帰るわけにもいかないわけで…。
ど、どうしようかな…。


「杏ちゃーん!!」


何処からともなく男の子の声がして、声のした方を見る。
と、とある教室から上半身を乗り出して、千切れんばかりに手を振る快斗くんの姿が目に留まった。
ああ、居たんだ快斗くん…。
ホッとして手を振り返すと、快斗くんは更に身を乗り出しながらそれに応えてくれた。


「10数えながら待ってて!その間にそっち行くからー!!」


快斗くんがそう言ってから約8秒後。


「お、お待たせ杏ちゃんっ…!」


ゼェゼェと息を切らせた学ラン姿の快斗くんが、私の前に現れた。
そういえば私、学ランを着た快斗くんって初めて見る…。
学ランなんて普段見慣れてるはずなのに、何でか知らないけど快斗くんの制服姿は特別に思えてしまった。
そしてどこかで、新ちゃんよりかっこいいなって感じてしまった自分もいる。
…いや、今はそんな事ボンヤリ考えてる場合じゃない!
ホントに10秒以内で来るなんて幾ら何でも速すぎでしょ!
もう快斗くんが犬にしか見えないよ!


「あ、メール返せなくてごめんな?今反省文書かされててケータイいじれなくて…!」
「ううん、大丈夫。こっちこそごめんね?急に来ちゃったりして…」
「な、何言ってんだよ全然いいし!っつーか寧ろ大歓迎だぜ!?」
「そ、そう?なら良いけど…。あっ!あのハートマークがついたメールは友達が勝手に送りつけたメールだから気にしないでね!私が打ったものじゃないから!!」
「え?ああ、何だそっか…」


あ、あれ…?
心無しか、快斗くんの元気パラメーターの数値が減った気が…。


「ってか、快斗くん反省文は?もう終わったの?」
「もっちろーん!杏ちゃんの顔見たらみるみるうちにやる気出ちゃって3秒で仕上げてやった!」
「あんなものを平気な顔で提出するとは、随分ナメた真似してくれるな黒羽」
「げっ!せ、先生いつの間に…!」
「成績優秀は結構だが、自分が何故反省文を書かされているかをよく分かってない様だな」


ボディビルダー並に体格の良いマッチョな先生は、素早く快斗くんの腕を掴んだと思うと、見た目通りの怪力でズルズルと快斗くんを引っ張っていった。
…あれ?
快斗くん、一生懸命先生に何かを訴えてる…?


「ごめんね杏ちゃん!とんだ邪魔が入っちまって…」
「いや、私はいいけど…。それよりいいの?先生怒ってたみたいだけど…」
「いーのいーの!ちょっと時間作ってもらったからさ!」
「そう…」


チラッと快斗くんの後ろを窺うと、腕組みをしてこっちを睨んでいる先生の姿があった。
な、何か居心地悪いな…。


「それで?」
「え?」
「今日は何でわざわざ来てくれたの?」
「あ、あの…えっと…」


そ、園子のとんちんかん!
いきなり「今日デートの約束取り付けなかったら家に入れないって蘭が言ってるわよ〜」なんて悪人極まりない内容のメール送られたら誘わないわけにはいかないじゃないか!
もう腹くくるしかないじゃないかっ…!!


「わ、私が、困るから…」
「え?」
「家に、入れてくれなくなるから…。だから、仕方なく言ってみるだけで…」
「…うん?」
「えっと、その…」


これはあくまで義務。
あの2人に言わされてるだけだ。
そう自分に言い聞かせ、意を決して顔を上げた。


「こ、今度また快斗くんと一緒にどこか行きたいの!」


自分の口から出た言葉は、私が出そうとしていたものとは丸っきり違っていた。


「…そ、それほんと?」
「あ、ううん違う!いや、違うってわけじゃないんだけど!えっと、その…」


かぁーっ!!
私のバカバカバカバカ!!
違うって!
これじゃあ私が快斗くんと出掛けたいみたいじゃないか!!
何で「また今度一緒にどこか行かない?」って普通に聞けなかったのバカバカバカーーー!!


「…杏ちゃん、ちょっとごめん」
「え?」


快斗くんはそう言うと、そそくさと校門の陰に隠れてしまった。
直後、ガンガンと何かを打ち付ける音が微かにする。
…何してるんだろ?


「え…ちょ、ちょっと快斗くん!?」
「うん?」
「な、何かおでこから血が出てるけど…」
「ああ、これ?ちょっと自分を戒めてただけだから気にすんな」
「いや、そう言われると余計気にな」
「それよりデートの事!早く決めよーぜ!」
「あ、う、うん…。じゃあ来週の土曜は空いてる?場所はまた米花町になっちゃうけど…」
「いい!全然いい!杏ちゃんの為なら地の果て宇宙の果て!どこまでも俺はついて行くぜ!」
「あはは…」


この人のずば抜けた軽さには毎回ついていけない部分がある。


「場所はまたメールで決めよう。駅前にお姉ちゃん待たせてるから早く行かなきゃならないんだ」
「じゃあ俺、駅前まで送っ」
「だっ、ダメ!!」
「え?何で?」
「あ、いや…。快斗くん先生待たせてるみたいだしさ…」
「ああ、そういやそーだったな…。だけど1人で平気か?」
「平気、平気!現にここまで1人で来たんだし!」
「…そっか。分かった」
「っ…!」


なっ、何でキミはそんなに悲しそうな顔でしゅんとするんだよ…!!


「じゃ、じゃあ私もう行くから!またね!バイバイ!!」


だから会いたくなかったんだ。
このわんこに会うと、自分が自分じゃなくなっちゃうから。
…だから会いたくなかったのに!
園子のバカ!
お姉ちゃんのバカ!
快斗くんのバカ!!


「杏ちゃん!!」
「えっ?」


振り返って初めて気付いた。
快斗くん、上履きのままだ…。


「その…俺、頑張るから!!」
「…え?」


頑張る…?


「絶対諦めたりしねぇから!!」


何を?って聞かなくても、きっとそれは例の反省文の事なんだろう。
…あんなに一生懸命になっちゃって、可愛いヤツめ。
先生に襟足を掴まれながら引き摺られて行く快斗くんに手を振って、お姉ちゃん達が待つ駅前へと戻った。


bkm?

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