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Zauber Karte

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出逢い


−お前さぁ、本気で俺の事好き?−


知らない。
自分でもわかんない。


−お前の考えてる事わかんねぇ−


別に知って欲しくないし、それ以前にアンタの事なんか考えた事ない。


−お前と一緒に居てもつまんねぇ−


うん、私もつまんない。
アンタと居るぐらいなら1人で街に出た方がよっぽど楽しいわ。


「そう。じゃあ別れよ」


今回で何度目だろう。
そう言って何度も何度も男を変えてきた。
心に灰をかぶってる自分から脱出したいが為に。
でも、トキメキとやらを感じた事なんか1度も無い。
ドラマやマンガの主人公はみんな上手くいくのに。
周りの友達もみんな幸せな恋愛してるのに。
どうして私だけ?
何で私だけが幸せになれないの?
結局、現実なんていうものはちっぽけで無機質で、儚い。
おとぎ話みたいにはいかないんだ。


「…愛って、何?」


グラスに入った氷がカランと音をたてる。
この世に生を受けて二十数年。
お酒だけは裏切らない。
一口飲めば、簡単に孤独感や虚無感を洗い流してくれる。
ああ、そういえば今日は休肝日って自分で決めた曜日だったっけ。
そう思いつつバーボンを胃袋に流し込む。


−真実は、いつも1つ!−


あ、そういえばあの探偵アニメもう終わったのかなぁ?
ジンとか、ウォッカとか出てきてたっけ…。


「ふふっ、真実の愛はどこにあるんだか…」


是非ともあの熱血探偵が現実に存在していたら聞いてみたいものだ。
彼は何て答えるんだろうか。
…2次元に頼るなんてくだらない。


「寝よ…」


ボトルに残ったバーボンをらっぱ飲みで流し込むと、私は倒れ込むようにベッドへ転がった。


「明日は良い事ありますよーにぃ…」


そう祈って眠りにつくのが日課になるなんて、私の人生って一体何なんだろ…。


「…うぇ…気持ち悪い…」


それもそうだ。
バーボンのボトル3本…いや、5本ぐらい空けたんだから…。


「おはよ」
「……は?」


重い瞼をこじ開けると、真っ先に目を引いたのは紫色の瞳だった。
宝石みたいにキラキラと輝く目を持つ、とびきりのイケメン。
まるで、子供の頃に読んだ童話の王子様だ。


「…あれ?」


視界の端には青い空…。
という事は…?


「…ここ、外?」
「ご名答。ちなみにただ今の時刻は午前8時!理解したか?飲んべえなお嬢さん」
「…何となく」


どうやら私はこのイケメン王子の膝枕で寝てたらしい。
顔を横に向けると、大きな時計台が目に入った。
……ああ、そうか。
私、とうとう夢遊病患者になってしまったんだ。
そしてどこからか拾ってきた、この可愛らしいイケメン王子をこんな見知らぬ場所に誘って屋外プレイでもしてしまったんだろう。
まぁ、行きずりエッチなんて散々してきた身だから今更何とも思わないし別にいいんだけど…。


「…キミは何歳?」
「俺か?中2」
「へぇ、随分大人っぽ……えぇっ!?」


思わずガバッ、と体を起こす。
ちゅ、中2だと!?
え、いや待ってだったら私犯罪者じゃね!?
未成年者ナントカってゆー罪に問われるんじゃね!?
いや、でもそんな事今更言ったってシちゃったものは仕方ないわけで今更この子の貞操に熨斗つけてお返しするわけにはいかないわけで…!!


「なに驚いてんだよ?」
「そ、そんなの当ぜ」
「オメーだって俺と同い年じゃねーか」
「……ハイ?」
「俺が昨日聞いたら14歳だって言っただろ?」


わ、私が…じゅーよんさい?


「…私がそう言ったの?」
「おー」


この王子が嘘をついてるようには見えない。
という事は、私は本当に14歳と言ったということだ。
……いやいやおかしいでしょ。
アラサーの私が自称14歳とかどんだけ若さ欲してんの。
まさかあれか?
この王子とセックスして自分も若返った気分でいたわけ?
……お酒って怖い。


「しかしオメーなかなか俺好みの顔してんな!」
「…キミ軽いね」
「へ?そーかぁ?」
「うん」
「俺は自分に正直に生きるのがモットーなだけだぜ?」
「っ!」


そ、そんな爽やかな笑顔を向けられると罪悪感という名の波がっ…!!


「でもオメー、何でこんなとこで1人で飲んでたんだ?」
「えっ?」


ひ、1人で?


「あれ?オメー覚えてねーのか?」
「…ハイ」
「ま、無理もねぇか。ビール10缶も開けてあんなべろんべろんに酔っぱらってりゃあ嫌でも記憶なんかブッ飛んじまうだろうし」


いやー、完っ全にやっちまったわこれ…。
家でバーボンを大量に飲んだ後にここでまた飲み直して挙句の果てに未成年と野外プレイとかほんとヤバイ。
ぜんっぜん覚えてない…。
いや、覚えててもそれはそれで嫌だけど!


「あ、最近この辺変質者出るって噂あるから気を付けた方がいーぞ?」
「…あ、あのー」
「ん?」
「キミがその変質者じゃないの?」
「…」


イケメン王子は、丸い大きな瞳を数回パチパチさせた。
…っていうか、まつ毛長くない?
ビューラーしなくてもクリンってなってるよ?
重力無視してるよ?


「まぁ確かに、」
「え?」
「あの状況なら俺が押し倒しちゃってても不思議じゃなかったけどな?」
「…」


あの状況ってドンナ状況だったんでしょうか…。
し、知りたくないけど知りたい…。


「でも俺、基本女の子には優しい男だから!」
「…つまり?」
「俺は同意の上じゃねーとそーゆーコトはしない主義って事!」


私にニコニコ笑顔を向けながら、イケメン王子は得意気にそう言った。


「…そっ、か」


ふーん、そっか、ヤッてないんだ…。
ちょっぴり残念な気もするけど、とりあえず良かった。
っていうか今時、こういう男もいるなんて意外…。
なんか、こんな事言われたの初めてで何て言えばいいのか分からないけど…。
でも何だか心が暖かくなった気がする。


「それに俺達まだ中学生だぜ?そーゆーコトするのはさすがに早いだろー?」


…まだ私が中学生だって信じてるよこの人。
もしかして視力悪いのかな。


「そうだね」


でもどうせもう会わないだろうし、いちいち否定するのもめんどくさい。
それに若く見られるのは、女としてはすごく嬉しい事だし。
…決して童顔じゃないもん。


「…ノド渇いた」
「じゃあ水買ってきてやっから待ってろ」


そう言うと謎のイケメン王子は、両手をポケットに突っ込みながら自販機に歩いて行った。


「…とりあえず片付けよっかな」


鉛のように重い体を無理矢理立たせ、ベンチの周りに転がる空き缶を拾った。


bkm?

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