「お待たせしました」
「デカっ」
「うわあ…!うまそー!」
店員さんが運んできたのは、私が頼んだ苺ジュースと超ビックなチョコレートパフェ。
それを見た途端、一気に明るくなり、スプーン片手に浮かれ出した快斗くん。
…音符が出てる、気がする。
っていうか、これ1人で食べきれるつもり…?
軽く3人分はあるけど…。
「俺、甘いもんすっげー大好物なんだぁ!」
「ああ、そういえばそうだよね」
「え?俺、杏ちゃんに言ったっけ?甘いもん好きな事…」
「えっ!?あ、いや…。えと…な、何となくそう思っただけっていうか…」
「…ふーん?」
「あ…ほら!快斗くんって甘い物好きそうな顔してるっていうか、甘い物がお似合いっていうか…」
「……」
え、なにこのアホっぽい言い訳…。
何だよ、甘い物がお似合いって!
私は快斗くんにスイーツとお見合いをさせる仲人かよ!
「…なぁ、それって褒めてくれてんの?」
「えっ!?」
快斗くんが肩肘をつきながら、ニコニコ笑顔で私に聞く。
いや…えっ!?
何でそういう反応なわけ!?
何を期待してるのか分かんないけど、ここで肯定したら快斗くんにすっごく失礼な気がする…。
「し…知らない」
やめてよ、そんな顔するの。
ただ甘い物が好きな男の子って初めてだから、何か新鮮で可愛いなぁとは思うけど…。
でもそんな事聞かなくたっていいじゃん!
何考えてんだこのチャラ男は!!
「ふーん?まぁいーや。じゃあいっただっきまーす!」
「……」
ダメだ。
この人の考えてる事が全く読めない。
…もういいや。
今は快斗くんとの交流を計ろう。
「……随分、美味しそうに食べるね?」
「へっ?」
私がいきなり話しかけたからか、快斗くんは頬っぺたに生クリームをくっつけたまま顔をきょとんとさせた。
「…ついてる。ここ」
「えっ?あ…」
気になるんだよなぁ、こういうちょっとした事が…。
あ、ここの生クリーム、甘さ控えめで美味しい…。
「そういえば、快斗くんってコーヒーは飲まないの?」
「……」
「おーい、快斗くん!」
「えっ!?あ、ああ…。俺コーヒーって苦いからあんまり好きじゃねぇんだ…」
「ふーん、そう…」
意外だった。
普通、男って飲めなくてもかっこつけてコーヒーを頼む傾向があると思ってたから。
でも、こうやってかっこつけないでサラッと言えるところ、とても好感が持てる。
「…快斗くん、コーヒー似合いそう」
「えっ、そうか?」
「うん。私ね、自分が飲めないからコーヒーを好んで飲む人がすごくかっこよく見えるんだ」
「…へえ?」
「でも快斗くんは、コーヒーよりもケーキやパフェの方が1番似合うよね」
甘い物が似合う男の子って、そんなにいないし。
なーんか可愛い弟って感じ。
「……」
「…な、何?」
「べっつにー?そりゃどーも」
「…うん?」
…あ、バナナ美味しそう。
私もパフェにすればよかったかな…。
何だかお腹空いて来ちゃった。
「…食いてぇの?」
「えっ?」
「バナナ」
「……べ、別にいらないよ」
卑しい所を見せてしまった。
は、恥ずかしい…。
「…ほら」
「…え?」
「いいよ。あげる」
「え…い、いらないよ!」
「遠慮すんなって」
「……い、いいの?」
「おう!」
「…じゃ、じゃあ頂きます」
スプーンに乗せられ、差し出されたバナナ。
どこにでも売られてる普通のバナナなんだけど…。
「どう?」
「…お、美味しい!」
「だろ?あ、苺も食べる?」
「えっ、いいよいいよ!それ快斗くんのだし!」
「いーのいーの!俺はアイスが食えれば十分だから!」
「えっ…そしたらパフェ頼んだ意味が無いんじゃ」
「はい!杏ちゃん、あーんして?」
「っ…」
目の前の苺は、どこにでもある普通の苺。
それなのに、何だか妙に美味しそうに見えてしまうわけで……。
ああ、もう!
大好きな苺が目の前で輝いてたら食べたくなるに決まってるじゃん!!
「うまい?」
「……そりゃあ、もう…」
「へへっ!」
口の中に広がる甘酸っぱい苺の味。
何故だかほんのりと、幸せな気持ちになった。