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Zauber Karte

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推理之介と猫娘


「あ…新ちゃん、止まって」
「へ?」
「降ろして」
「あ、ああ…」


通りかかった一軒の文房具屋の前で、私は新ちゃんの背中から慌てて降りた。


「お、おい杏…」
「ごめん。ちょっと寄り道させて」


私のあとに続く新ちゃんに構わず、店内へ入り、目当ての物を探す。


「何か買うのか?」
「うん、ちょっとね…。あ、あった」


通りがかりに買えてよかった。
なるべく早く買いたかったけれど、なかなか時間が取れなかったから…。


「それ…日記帳か?」
「うん。今日からつけるの」
「ふーん…。何日で飽きるか見ものだな?」


新ちゃんが意地悪な口調で私を煽る。


「…続けるよ」
「…へ?」
「ちゃんと毎日書く」
「…」
「私の身に起きた事、1つ残らずここに書き留めるよ」
「…そっか」


この日記帳は、何も自分の為に買ったわけではない。
…いつか、元々いた彼女≠ェ戻ってきた時の為。
自分がいない間、彼女≠フ身の回りで何が起きたのかを、教える為のものだ。
だからなるべく早く、手元に置いておきたかった。
いつまでも、メモ帳に書き留めておく訳にはいかないし…。


「あ…」
「雨…か…」


会計を済ませ外へ出ると、いつの間にか雨が降っていた。
はぁ…困ったなぁ…。
こういう時に限って傘持ってきてないよ…。


「…ほらよ」
「えっ?」


横に並ぶ新ちゃんが、丁寧に畳まれた折りたたみ傘を私に差し出してきた。


「使えよ」
「え、でもそしたら新ちゃんが…」
「バーロー。俺は探偵だぜ?こういう事もあろうかと推理して、ちゃーんともう1本持ってきてんだ!」
「……」


いや、有り得ないでしょ…。


「ふーん…。新ちゃんって、とんでもなく変わり者なんだね」
「へっ?」
「だって、傘を2本も持ち歩く人なんて普通いないよ。だからすっごく変わり者」
「……」


全く…。
全っ然スマートじゃないんだから。


「な、なぁ…もしかしてバレてる?」
「バーカ!バレるも何も、普通騙されないから!これで騙せる人なんてうちのお姉ちゃんぐらいだから!」
「じゃあもし蘭が騙されなかったらオメーどうすんだよ?」
「ど、どうするって……。んじゃあ、千円賭ける?」
「おっ、言ったなぁ?じゃあ蘭が騙されなかったらオメー俺に千円払えよ?ぜってー払えよ!?」
「の、臨むところよ!だけどもしお姉ちゃんを騙せたら、新ちゃんは私に1万払ってよね!」
「はぁ!?何で俺だけ金額が違うんだよ!?」
「いいじゃん!金持ちの息子なんだからケチケチしないでよ!あ、それとも新ちゃん…自信ないんだぁ?」
「なっ…!んな事ねーし!」
「じゃあ決まりね!」


このやり取りをお姉ちゃんが聞いたら「勝手に私を賭けの対象にしないで!」って真っ赤な顔して怒るに違いない。
あ…そうだ。
ここの道はお姉ちゃんも通るだろうし、待ってようかな…。


「あーあ…。何で俺だけ…」
「男でしょ?グチグチ言わない!」
「…ったく。オメーより蘭の方がよっぽど可愛気あるぜ…」
「あーはいはい、どうせ私は可愛くないですよ!ほら、私の事はいいからその傘持って早く帰りなよ」
「…オメーはどうすんだよ?」
「私の事はどぉーぞお気になさらず。ここでのぉーんびり待ちますから」
「…待つ?誰を」


ちっ、しつこいなぁ…。


「だーかーらぁ!あんたが言う、その可愛気のあるうちのお姉ちゃんの事だよ!分かったんならさっさと行った行った!」
「…」


あーやだやだ、ほんっと嫌!


「…なぁ」
「は?まだ居たの?」
「…オメーなに拗ねてんだよ?」
「はぁ!?拗ねる!?この私が!?別に拗ねてませんけどぉ!?どこに拗ねる要素があるのでしょうかねぇ!?」
「…絶対拗ねてるだろ」
「拗ねてない!」
「いーや、拗ねてる!」
「拗ねてないってば!!」
「ぜってー拗ねてる!!」
「あーもう煩いなぁ!!いいから帰ってよ雨宿りの邪魔っ!!」
「……」


何なんだこの男は!!
几帳面でオタクで暴力的でそんでもって話なんかてーんで通じやしなくて挙句の果てにしつこい性格の持ち主だなんて最低最悪じゃん!!
毛利(名前)とお姉ちゃんはこの男のどこにどんな魅力を感じたわけ!?
つくづく理解出来ない!!
あームカムカする!!


「…ほら」
「……」
「…おい」
「……」
「シカトしてんじゃねーよ!」
「しつこいなぁ!だから私は借りないってさっきから何度も」
「違ぇよ!これ持ってろ!」
「…はぁ!?」


新ちゃんは私に無理矢理折りたたみ傘と鞄を押し付けると、その場にしゃがんでみせた。


「…あんた、また私に足を乗せられたいの?」
「んなわけねぇだろ!!オメーがその傘持って俺におぶされば2人共濡れねぇだろーが!いいからさっさと乗れ!」


あ、なるほど!


「さっすが新ちゃん!あったま良いー!」
「…オメー、なかなか調子いい性格してるよな」
「よっ!いいぞ未来の名探偵!それじゃあ遠慮なく乗らせて頂きまーす!」
「バーロー、俺はまだ名探偵どころか、探偵ですらなってねーよ…。よいせっ、と…」


あ、そういえばケータイ!
今朝から放置したまんまだった…!


「大丈夫、大丈夫」
「あ?」
「心配しなくても、新ちゃんはちゃんと立派な名探偵になるよ」
「…えっ?」
「それこそ、全国でその名が知れ渡る程の実力を持って、どんな難事件でも簡単に解き明かす、迷宮無しの名探偵にね。だから自信持ってよ」
「……」


あちゃ〜、快斗くんからメール入ってた…。
なになに…?
土曜は米花動物園に行こうぜ…?
ああ、そういえば園子が『米花動物園がリニューアルして以前よりも広くなったのよ!うちも当然出資したわ!』って言ってたっけ…。
動物園かぁ…、久しぶりかも。


「…日記」
「え?何?」
「その……がっ、頑張って続けろよな!」
「ああ、うん…頑張る…」


雨の降り頻る中、私は暢気にメールの返信に夢中だった。
新ちゃんの、微妙な変化に気付くわけもなく…。


bkm?

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