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Zauber Karte

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Zoo date@


「え?快斗くんと米花動物園?」


金曜の夕方。
月日が経つのは早いもので、明日はとうとう快斗くんと動物園へ行く日。
部活から帰ってきたお姉ちゃんと一緒に、夕飯の準備をしながら報告をした。


「へぇー!いいじゃない動物園!楽しんでおいでよ!」
「う、うん…」


明日の予定を正直に伝えちゃって良いものか迷ったものの、一応中学生っていう立場上、家族には共有しておいた方がいいと思ってお姉ちゃんにだけは伝える事にした。
…園子と新ちゃんには絶対に言わない様にと前置きをした上で。


「それにしても杏って、意外と大胆だったのね?」
「え?」
「だってこの前は映画デートで、次は動物園デートでしょ?快斗くんだって満更でもなさ…」
「デートじゃないよ、お姉ちゃん」
「え…?でも2人で遊びに行くんでしょ?だったらそれってデー」
「違う違う。ただ遊びに行くだけ」
「……(それをデートって言うんじゃ…)」


デートって言葉は恋人同士とか両想いのカップルが使う言葉でしょうよ…。
今回はただ…うんと……まぁ、あれだよ。
磯野ー!野球しようぜ!的なノリで行く事になったってだけで、断じてデートじゃない。


「っていうかお姉ちゃん!」
「うん?」
「絶対絶対ぜぇーーーーったい!新ちゃんと園子には言わないでよね!?あの2人に知られたらまた冷やかされるし色々めんどくさいんだから!」
「わ、わかってるって…」


あの2人に言ったら最後、冷やかされてからかわれるのが目に見えてるし、それをいちいち相手にするの疲れるもん。


「あ、ねえ杏、お弁当作ってったらいいんじゃない?」
「え…?お弁当?」
「ほら、明日お天気良いみたいだし、外で食べたら気持ちいいよきっと!」


言いながら、リビングでつけっぱなしのテレビから流れる天気予報を指差すお姉ちゃん。
明日は全国的に気温が高く、絶好のピクニック日和らしい。
…お弁当、か。


「いや、売店で買うからいい」
「えー!?なんでー!?どうせなら持っていけばいいのにー!」
「だ、だっていきなりお弁当とか重くない?付き合ってるわけでもないのに…」
「付き合ってなくてもお弁当持ってくのは普通よ!あっ、そういえば去年買ったお弁当レシピ集!どこ置いたっけ?」
「ちょっ…お姉ちゃん!?」


お肉を焼いてるフライパンそのまま放置してかないでよっ!
と、とりあえず菜箸で焦げないように動かして…!


「……はぁ」


重いため息が自然と溢れる。
遂に快斗くんとの2度目のデート…じゃない、遊ぶ日が明日になってしまった。
行きたくないわけじゃない。
寧ろ…少しだけ楽しみに思っちゃう自分がいる。
…でも、それは良くないことだっていうのも分かってる。
名前は思い出せないけれど、快斗くんにだって新ちゃんみたいに幼なじみの女の子がいたはずだ。
でもこの世界は、私が知ってる名探偵コナンの世界とは少し違ってて、本来居るはずの無い私≠ェ存在してて…。
もしかしたらその逆…つまり、その幼なじみの女の子は存在してないっていう可能性もあるのかもしれない。
何れにしても、そんな事私が気にしたって仕方が無い事だし、考えてたって何も解決しない事は明白。
例えその幼なじみが存在していようがいまいが、私にはどうでもいい事。
別に快斗くんとどうこうなりたいって気持ちも無いし、物理的に離れてるんだからそのうち疎遠になっていくだろうし…。


「……」


思えば不思議だ。
快斗くんは江古田、私は米花町。
電車を使っても20分くらいはかかる距離に私達は住んでる。
それぞれ違う場所に住んでて違う学校に通ってたら、普通自然と離れていくと思うんだけどな…。
まぁでも、それはきっと快斗くんの人懐っこい性格とかも関係してるんだろうなと思う。
メールが苦手な私の性格からして、今日まで途切れる事なく毎日続いてるって、99.9%有り得ない事だし…。
さすが近い将来、天下の大怪盗になるだけあって、手品だけじゃなく人を惹きつける魅力が彼にはあるのかもしれない。


「杏お待たせー!レシピ本あったよー…って!お肉!焦げてる焦げてる!」
「へ…?ああっ!!」


お姉ちゃんが急いで火を止め、お皿に急いでお肉を移す。
た、食べられないほどでは無いか…。


「んもう…気をつけてよね?」
「ご、ごめん…」


ぷくーっ、と頬を膨らまして怒るお姉ちゃん。
か、可愛い…。


「ぁんだあ?この肉!黒焦げじゃねーかよ!」


まぁ予想はしてたけど、案の定お父さんに怒られた。
ああ、今日も閑古鳥が鳴いてたんだなーと聞かなくても分かる。
お父さんの機嫌が悪い時は絶対そう。


「焦げてたってお肉なのは変わらないじゃん」
「はい!タレつければ気にならないよお父さん!」
「お、お前らなぁ…!」


文句あるなら食べなきゃいーじゃん!
お料理一切できない癖に!
…それは私も同じか。


「さ!杏!どれ作る?」


夕食を食べ終えて洗い物をしていた私の横で、お姉ちゃんがレシピ本を掲げながら笑顔で立っていた。


「え…ほ、ほんとに作んの?」
「うん!」
「…絶対?」
「うん!」
「…何が何でも?」
「んもう!杏ったらしつこい!動物園といったらお弁当なんだから!」
「……」


何でか知らないけど、お姉ちゃんの中でそんな理解不能な方程式があるらしい。
結局お姉ちゃんの強い押しに負け、半ば強制的にお姉ちゃんとお弁当を作る羽目になった。
そして翌日…。


「杏ちゃーん!!こっちこっちー!!」


そんなこんなで、あっという間に翌日。
すっかり油断して寝坊した私は、待ち合わせてた動物園の正門前に小走りで向かう。
少し離れたベンチに座ってた快斗くんが両手を上げて私を呼ぶのが見える。


「ごめん快斗くーん!」


ああもう!
やっぱりお弁当なんか作らないで早く寝れば良かった!!
お姉ちゃんも一緒に手伝ってくれたとはいえ、慣れない料理で夜中までキッチン立ちっぱなしだったし、目覚ましセットし忘れて寝坊した挙句、着る服に迷って30分も遅刻なんて私ってほんとバカ…!
バカの王様だよ!!
…いや、ちょっと待って。
私は女だし、この場合は王様じゃなくてお后様じゃない?
ああ、でもそしたら王様が誰になるのか考えなきゃいけないのか…。
うーん…誰が当てはまるのかな…。
なんて考えてたら、


「っ、あ!?」
「杏ちゃん危ないっ!!」


爪先に何かが当たった感覚がして、それに伴い、自分の体が地面へと倒れていくのを感じた。
ぎゅっと目を瞑り、やってくるであろう衝撃と痛みに覚悟を決める。


「……」


…が、予想に反してなにか柔らかいものが私の体を受け止めた。
…あ、あれ?
体がちっとも痛くない…。
何故?


「…あっ!」


その原因は、私のすぐ下で折り重なる様にして俯せになってる快斗くんの体だった。


「かっ、快斗くん大丈夫!?」
「……」
「ちょっと快斗くん!?快斗くんってば!!」
「へ…?あ、う、うん!ダイジョブ!!俺へーき!へーきっす!」
「よ、よかった…」


どうでもいい事を考えていたせいで石に躓き派手に転ぶだなんて、小学生とおんなじじゃん…。
っていうかこの人、野球部でも無いのにうつ伏せのままスライディングしたけど!?


「っつーか俺よりも!」
「うん?」
「杏ちゃん、怪我は無い?大丈夫か?」
「う、うん…。快斗くんがマットの役目になってくれたから…」
「なら良かった!」


ほっ、と安心した様に息を吐く快斗くん。
最後に会った時は学ランだったけど、今日は当然ながら私服。
行き先が動物園だからか、動きやすいカジュアルな服装で、とても爽やかな装いだった。
…ちょっぴり、カッコいいって思った。


「あ、あの…」
「うん?」
「ごっ、ごめんなさい!!」
「へ…?」


私が全力疾走できる体だったら。
私の手先がもっと器用だったら。
後悔先に立たず、覆水盆に返らず、えーっとあとは何があったかな……じゃなくて!!
全て後悔したって遅いわけで、早く着けなかった自分に悔しさを隠せず、精一杯快斗くんに頭を下げた。


「昨日寝たのが夜中で起きたらとんでもない時間で慌てて支度したら今度は着る洋服に迷ってこんな時間になっちゃって!しかも着いた途端こんな…め、迷惑かけちゃって!と、とにかく本っっ当にごめんなさい!」


服についた汚れを払い落とす快斗くんに精一杯謝ると、そんな私を見るなり盛大にため息をついた。


「…なーんだ、良かった」
「え…?」


快斗くんがため息混じりにそう言って、私の頭をよしよしと撫でる。


「一応連絡はもらってたけど、杏ちゃんなっかなか来なくてすげー心配してたんだぜ?どっかで具合悪くなってぶっ倒れたんじゃねーかって思って!」
「あ…ご、ごめん…」
「おいおい杏ちゃーん、さっきから謝ってばっかなんだけど!」
「だ、だって…」
「俺、謝んのも謝られんの好きじゃねーからさ、今日は謝んの禁止デーにしねぇ?」
「あ…謝るのを禁止?」
「そ!謝ったらその都度相手に100円寄付!どーだ?結構おもしれぇだろ?」
「えっ!?」


ニヤリと悪戯っ子な笑みを浮かべる快斗くん。


「な、何でペナルティ付きなの!?今月ピンチなのに!」
「だったら謝んなきゃいい話だろ?」
「うっ…」


か、快斗くんに謝る度に100円寄付か…。
お財布的には結構痛い…。


「さ!気を取り直して、無事に合流出来たわけだし、早く中に入ろうぜ!」
「あ…」


さりげなく私の手を取る快斗くん。
握られた事でぴったりとお互いの肌が触れ合い、快斗くんの暖かい温もりが伝わってくる。
…ああ、まただ。
また心臓が痙攣し始めた。


「ライオンバスに乗ったのってガキん時以来だけどやっぱ迫力あるなー!さすが百獣の王って呼ばれてるだけあって、餌を獲る瞬間なんかもうすっげーよ!」
「あはは。快斗くん、鼻息荒くなりすぎて鼻水出しちゃったもんね」
「うっ…。それは忘れて…」


快斗くんと一緒に動物園を見て回ってる間、私の心臓は終始痙攣しっぱなしだった。
私の手をしっかりと握る快斗くんの手は、成長期の男の子らしく骨ばった感触で、小柄な私より二回り程度大きい。
だけど見た目とは裏腹に、意外と華奢な指をしてて、とても温かく、柔らかい…。
ついこの前までは、こうして手を繋ぐ行為はあまり好きでは無かったはずなのに…と、不思議な感覚に胸が苦しくなった。




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