−間も無く江古田駅に到着します。お忘れ物の無い様…−
初めて降りた江古田駅は、予想に反して都会的な街並みだった。
ここがあの黒羽快斗の縄張り、か…。
っていうか、ここまで来たのはいいけどこの後どうすんの?
「あれぇ〜?おっかしーなぁ…」
「え?何がおかしいの園子?」
「だって、どこにもイケメンがいないんだもん…」
「イ、イケメン…?」
江古田に来てまでイケメン探しですか…。
この頃から園子はこういうキャラだったんだね…。
まぁでも、園子の関心が別の方向に向いてくれて一安心…。
「実はさっき、杏のケータイでクロバくんにメール送ったのよ。だけど彼、迎えに来てないっぽいのよねぇ〜…」
「…は!?」
えっ、じゃあさっき園子がメールを打ってた相手って快斗くん!?
「ま、ま、まさか園子あんた…!?」
「ふふーん、そんなに気になるなら送信メール見てみればぁ?ま、今更見たってもう遅いけどね!」
園子が言い終わらないうちに鞄からケータイを取り出し、送信メールをチェックした。ら……
「なっ…!?」
まず目についたのはモノクロ文字…ではなく、見慣れぬ赤い記号。
全体をハートマークで埋め尽くされた世にも奇妙な電子文字の羅列が目の前に映し出された。
「オーッホッホ!!いつまでも恋愛にウブなあんたに代わって、この恋愛マスター園子様が助け舟ってやつを出してあげたのよ!感謝しなさいよね?」
かっ、感謝って…!
何を思ったらこんな行動が出来るんだよ!!
「バカ!バカ!バカ!園子のバカバカバカーー!!」
「痛たたっ!」
「何でこんなメール送った!何で気色悪い絵文字付きで送った!何で私に許可取らなかったんだぁー!!」
「あーもう煩いわねぇ!送っちゃったもんは仕方ないでしょ!?諦めなさい!」
「くっ…」
どーしてくれるこのバカ園子!!
きっと快斗くん、このメール見て気持ち悪くなっちゃったから来ないんだよ!!
「へぇー、どれどれ?ちょっと私にも見せてよ杏」
「あっ!ちょ…やめて返して!!」
お姉ちゃんに取られたケータイを取り返そうと背伸びをするも、掠りもしない自分の指先。
ジャンプしてみても結果は同じだった。
「あらやだ、随分積極的に書いたのねぇ…」
「わ、私が書いたんじゃなくてこの余計なお節介お嬢が書いたんだからね!?」
「ちょっと!余計なお節介ってどーゆー事よ!?人がせっかく親切にしてやったのに!」
この場合は親切の押し売りっていうんだよ!!
恋人でも何でもない人間にいきなり『迎えに来て』だなんて、逆に私が言われたら相手の番号ごと消しかねないって!!
「ねぇ、快斗くん来てないみたいだし…どうする杏?」
いや、どうするもなにも答えは決まってるし!!
「じゃあさっさと帰」
「あ、じゃあ学校まで行ってみない?今日は珍しく蘭が部活休みだし!」
「いいねそれ!行こ行こ!」
「…」
だーかーら!
人の話を聞いてってば!!
「ごめん下さーい!江古田中学がどこにあるか教えて貰えますぅー?」
元気よく交番に駆け込むお節介園子。
あんただけだよ、江古田に来てそんなにテンション高くなる人間は…。
「よっしゃあ!地図も貰った事だし、早速行きますかぁ〜!」
「え…園子も行くの?」
「…何よ、私がついてっちゃマズい事でもあんの?」
「…別に」
この園子が一緒とか間違いなく快斗くんに迷惑がかか……いや。
もうあのメールを送ってる時点で多大な迷惑がかかってるか…。
「はぁ…」
会いたくないなぁ…。
「ははーん?さてはあんた、快斗くんの前では人格変わるわね?」
「…は?」
「うっふ〜ん!恋する乙女に変身した姿は、愛しのクロバくんにしか見せたくないのぉ〜!…みたいな?」
「思いっきり違います」
「はいはい、照れない照れない!じゃあこれ地図ね。迷ったらその辺にいる人に聞きなさいよ?」
「照れてないし!ってかこれ迷うほど複雑じゃないし!」
「杏頑張ってね!お姉ちゃん応援してるから!」
「は!?頑張るって何!?ってか応援って何!?」
「あんたの幸せを祈りながらその辺でお茶してるって事よ!んじゃ、終わったら電話ヨロシク〜!」
「あ、ちょっと待っ…」
てくれないのがあの2人なわけで…。
「はぁ…」
こうなったら行くしかない、か…。
っていうか、快斗くんがまだ学校にいるなんて考えられないんだけど。
「放課後だぜやっほーい!」って言いながらゲーセンとかで遊んでそうだもん…。
だけど行かなかったらあの2人(特に園子)に何をされるか。
それを想像しただけでどちらの方が憂鬱かぐらい、私にも分かる。
…とてつもなく気分が重い。
でも、どこかほんの少しだけ照れ臭い自分もいる。
そんな複雑な思いを抱えながら、江古田の街を歩いた。