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Zauber Karte

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どきどきデート


「んあ?オメー出掛けんのか?」
「うん。友達と映画観に行ってくる」
「へっ!休日の昼間っから映画とはいいご身分なこった!」
「……」


じゃあ一体いつ観に行けばあんたは納得するんだよ。


「いいよなぁ、オメーらガキ共はお気楽極楽で…。こっちはやる事が山ほどあって大変だってのによー…」
「…ああ、勝てない麻雀にアテの外れる負け競馬の事?いい加減学習した方がいいよ、お父さん」
「う、ウッセェ!!やり方も分かんねぇクセに偉そうな事言ってんじゃねぇ!!大体オメーはいつからそんな口が立つ様になったん」
「はいはい!どーも失礼致しましたっ!!」


あれから毎日毎日、妙に難しくて膨大な量の課題とのバトルに明け暮れてたらあっという間に快斗くんと会う日がやってきた。
でも私の少ないお味噌じゃ課題は全く進まなくて、結局新ちゃんが全部やってくれたんだけど…。
で、今日はお姉ちゃんは空手の試合が近いらしく朝から部活。
お父さんはタバコ臭い事務所でビールを飲みながら新聞と睨めっこ。
遠目から見れば世の中の時事問題をチェックしてる様に見えるけど、実際はヨーコちゃんが出演する番組欄に赤マルつける作業をしてるだけ。
…正直言って、快斗くんと会う予定が無くても出掛けてたと思う。


「あ、おい!」
「もううっさいなぁ!何!?」
「オメーちゃんと薬持ってけよ!」
「もう持ったよ!じゃあね!行ってきます!」


逃げる様に外へ出ると、雲1つ無い五月晴れの空が広がっていた。


「すー…はぁー…」


お父さんとのやり取りでイライラした気持ちを、深呼吸で落ち着ける。
…うん、身体の調子はバッチリだ。
こんな晴々とした気持ちで出掛けられるのも、新ちゃんが課題を手伝ってくれたお陰なのかもしれない。
あの人、私を過剰なほど心配…いや、監視・干渉してくるけれど、悪気があるわけじゃないからなぁ…。
昨日だって…。


−杏、今日の身体の具合はどうだ?−
−平気−
−ちゃんと宿題やったのか?−
−うん−
−あっ、朝ご飯のメニューは何だった!?弁当の中身は!?おい蘭!ちゃんと栄養バランス考えて作ってるのか!?コイツ好き嫌いあるんだからオメーが工夫してやらねーと…−
−新一うるさい!杏の食事は私がきちんと管理してるからいい加減黙ってよね!−


「……はぁ」


私の体調の事だけじゃなく、食事の事まで口を挟んでくるなんて思わなかった。
昨日なんて、ついにヤツは頭がおかしくなったのか、「俺がこれから毎週1週間分の献立考えてきてやるからその通りに作れよ蘭!」と登校中に5回も口走ってきた。
料理なんて、てんで出来ないクセにどうやって考えるっていうのよ…。
ま、まさか…私に暗黒物質を食べさせて寝たきりにさせて病院に閉じ込めるつもりじゃ…?
ま、案の定その後ぶちギレたお姉ちゃんに渾身の2発(腹パンからの正拳突き)を喰らわされて黙ったから良かったけど。
でも、もしあのうんちく帝王が私の実兄だったら、案外頼りになるんじゃないかなと私は思う。
…どうせ最初から存在しない立場なら、工藤家の娘になりたかった。
父親は推理小説家、母親は元女優。
家も豪華でお金持ち。
おまけに両親揃って容姿端麗ときた。
…何も言うこと無いじゃん!
何で寄りによって毛利家なわけ!?
父親は午前中から飲んだくれだよ!?
正直恥ずかしくて近所を歩くのも嫌になるよ!
唯一救いなのは、お母さんが工藤有希子に負けず劣らずの美人って事ぐらいしか思いつかない。
……でも、実際新ちゃんが兄だったら毎日喧嘩してるんだろうな。
几帳面だし、やたらベタベタしてくるし…。
…うん、割り切っていこ。
そうやってかなきゃ、やってられない。
溜め息1つ、いや数えきれないほど吐きながら歩いてると、やっと目的地の米花駅に辿り着いた。


「うわぁ、おっきい…」


待ち合わせ場所の駅前には、大きな花時計…ううん、これはチューリップ時計って言った方がいい。
色んな色のチューリップが所狭しと並んでいて、周りにはどこから湧いて出て来たのか、ケータイやカメラで撮影してる人達で溢れ返っていた。
これだけ豪華な花時計だもん、ちょっとした観光スポットにでもなってるんだろう。


「すみま、せん、ちょっと、通して、下さ、いっ…!」


何とか人混みを掻き分けて花時計に近付いてみる。
…うん、間近で見ると益々綺麗。
しゃがんで1番近くにあるチューリップを人差し指で突っつくと、ゆらゆらゆらゆら。
…あはっ、何だかチューリップが楽しそうに歌ってるみたい。
しばらく見とれていると、花時計についてる巨大な長針がカチッ、と待ち合わせの時間を指し示した。
途端、心臓がドキドキと鼓動を速める。
………いやいやいやいや。
速めなくていいから。
何考えてんの私ったら。
たかがお礼名目のデートにドキドキするとか意味わかんない。
それに相手は漫画の世界の人物だよ?
それ以上でもそれ以下でもな……。


「…えっ?」


不意に、誰かが私の肩をトントンと突っついた。


「かっ、快斗く…!」
「よぉ!1週間ぶり!元気してたか?」
「あ…。えーっと…こ、こんにちは」


快斗くんがとびっきりの笑顔を向けて挨拶をするものだから、それに私も応えようと、何故かお辞儀付きで挨拶をしてしまった。
…きょ、今日も相変わらずのキラキラ王子だ。
彼が通称わんこスマイルを浮かべると、何となくお花がヒラヒラ飛んでる気がするのは気のせい…?
顔を上げて快斗くんを見ると、突然パアッと笑顔が満開になった。
例えるなら、小さい子がずっと欲しかったオモチャを見つけた時の様な、そんな感じ。
……え、何で?


「っ、な…!?」
「麗しのお嬢さん、ご機嫌いかがですか?」
「えっ!?あ、えと、あの…た、大変麗しゅう、ございます?」
「はははっ!ならよかった!それにしても今日はいい天気だなー!俺、やっぱ晴れてんのが1番いいや!」


そう言いながら手をおでこに当てて空を仰ぐ快斗くん。
その横顔が太陽に照らされ、キラキラと輝く。
…ああ、わんこのクセにカッコいいな。
っていうか、晴れが好きだなんて益々犬っぽ……じゃなくて。
いやいや、有り得ないでしょ。
今この人、私の手の甲にキスしたよ?
さらっと普通に当たり前のようにしたよ?
王子が姫に跪くアレを平気でやりやがったよ!?
しかもおおお、お嬢さんて…!
この人、中学生だよね!?
まだキッドになってないにも関わらず既にキッドモードONな女ったらしに進化しちゃってるとは…。


「あれ?杏ちゃん、顔赤くねぇ?」
「…気のせいだよ」


キザで女の扱いに特化してる男にいちいち振り回されてたまるか!
ここは隙を見せない様に注意して…。


「かーわいい」
「……へ?」


今……何と…?


「初めて会った時から思ってたけど、杏ちゃんてマジで可愛いよなー。俺、ハマっちゃうかも」
「……」


ああ、私、今絶対におかしい顔になってる。
目は点だし、口は三角形になってるよきっと…。


「……あ、そ」


返答に困った挙句、やっと出てきた言葉がコレだなんて自分でも呆れた。
お礼とか言っておくべきなのかもしれないけど、そんな心の余裕なんかどこにも無い。
そもそもチャラ男の扱い方ってどうするんだっけ…!?


「それにその帽子、杏ちゃんにすっげー似合ってる」
「え…そ、そう?」
「Yes!少なくとも今ここにいる女の子の中じゃ1番Cuteだぜ!」
「……あり…がと…」


な…何よ、さっきから。
私を褒めまくったところで何か出てくるわけないのに…。
調子を狂わされてばかりで何かムカつく…!


「でもなぁ、」
「え?」
「なーんか足りないんだよなー」


そう言いながら快斗くんは私の帽子に手を添えた。


「スリー、ツー、ワン…」


直後、ポン!と軽快な音が響いて、ほのかに甘い匂いが鼻を掠めた。


「はい!これで杏ちゃんの可愛さアップー!」
「わぁ…!」


被ってた帽子を手に取って見ると、ガーベラやミニヒマワリ、それと小さなチューリップがサイドに飾られていた。


「す…凄い!快斗くん凄いよどうやったの!?プロのマジシャンみたい!」
「へへっ!気に入った?杏ちゃん可愛いから特別プレゼント!」
「ありがとう快斗くん!すっごく嬉しい!お花、とっても可愛くて素敵!」


普通こういう飾りってどうしてもケバケバしくなりがちだけど、それぞれが淡い色合いをしててサイズが小さめだから、過剰に主張していない。
快斗くんのマジックのお陰で、5月だけど気持ちが一気に春爛漫になった。


bkm?

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