be mine | ナノ

Zauber Karte

http://nanos.jp/968syrupy910/

ゆるり、ゆるりと亀裂線


屋上から出ると、廊下にはいつの間にか生徒達が溢れ出ていて、とても賑やかになっていた。
さっき通った時の静けさなんて、まるで嘘のように感じる。
ああそっか、4時間目の後はお昼休みだったな…。
そんな風に思いながら、通学鞄片手に、購買や食堂へ急ぐ生徒で溢れ返る廊下をかき分けながら進む。


「もう信じらんない!授業サボってまでする事じゃないでしょ!?どこまで推理オタク貫けば気が済むのよ!!」


教室の引き戸を開けた途端、耳に入ってきたのはもはや聞き慣れた姉の怒声だった。


「だぁーかぁーらぁ!さっきから何度も謝ってんじゃねーか!大体オメーは何でもかんでも口挟みすぎなんだよ!ちったぁ俺の迷惑も考えろよな!?」
「ちょっと!何なのよその態度!私は新一の事を思って言ってるんじゃない!少しは感謝しなさいよね!!」
「感謝しろぉ!?余計なお世話だって言ってんのが分からねーのかよ!?」
「よっ、余計なお世話ですって!?じゃあ休みの度に炊事洗濯掃除をしてあげてるのは誰よ!?誰のおかげで生活が成り立ってんのよ!?」


お互い顔を近付け合って口喧嘩をするのを眺めているうちに、この2人はよく鼓膜が破れないなと変に感心してしまった。


「あのさぁ…夫婦喧嘩だったらこんな所じゃなくて廊下でやったら?」
「「は!?こんな奴と夫婦!?冗談じゃない!」」


って、見事にハモッてるし…。
どっからどう見ても夫婦だよ、あんたらは。


「「…って、杏!?」」


まーた揃ってる…。
毎日毎日、ほんっとよく飽きないよねぇ、この2人…。
このやり取りだけでも私の目には立派な恋人同士に見えるのに、当の本人達はただの幼なじみだと頑なに否定するのはどうしてだろうか…。


「オメーいつの間に戻って来たんだよ!?」
「今だけど…。戻ってきちゃ悪いわけ?」
「そ、そんな事言ってねーだろ!?」
「ねぇ杏、1人で大丈夫だった?顔色は良いみたいだけど、途中で具合悪くなったりしてない?」
「平気、平気。それより早くお弁当にしようよ。お腹空いた」
「う、うん…」


淡々とお昼の準備に取り掛かる私とは対照的に、お姉ちゃんと新ちゃんは呆然と立ちすくんだまま私を見つめていた。
…夫婦喧嘩の仲裁、しない方が良かったかな。


「あーっ!杏!あんたやっと来たの!?」


手を洗いに行っていたのか、ハンカチ片手に戻ってきた園子。
ざっくばらんな性格の割には、こういうきちんとした部分もあったりして…。
やっぱりお嬢様だなぁと毎回思う。


「おはよう、園子」
「おはようって…。あんた今何時だと思ってんのよ?もうお昼なんだけど…」
「まぁまぁそんな細かい事は気にしない!ほら、早くお弁当食べようよ」


まぁ確かに考えてみたら、この2人みたいに友達以上恋人未満の曖昧な関係から恋人というカテゴリーに昇格する為には、何か大きなきっかけが必要なのかもしれない。
見ててヤキモキするこの2人は私の精神衛生上良くないし、今度新ちゃんに真意を聞いてみよう。
……ふふふ。
そしてあわよくば、私が上手いことキューピッドになってあげれば金持ちボンボンの息子である新ちゃんからガッポリ報酬を…!


「「せーの、おめでとう杏ーっ!!」」
「ぬわぁっ!い、いきなり何!?」


鞄からお弁当を取り出そうと探っていると、急に2人から熱いハグで出迎えられた。
最初は訳が分からなかったけど、どうやら私の運動解禁情報を既に新ちゃんが伝えていた様で、2人のオーバーすぎる喜びには薄ら恐怖を感じた。
いや……そりゃあ、私だって多少なりとも嬉しいよ?
これがきっかけで色んな場所に出掛けられる様になったわけだし。
でも体育の授業の事を考えると、手放しには喜べない様な…。


「そうそう!聞いてよ杏!」
「うん?」


4人でお弁当を食べてる途中、お姉ちゃんが興奮した様に声を荒げた。
そして、どうやら今日は新ちゃんも一緒にお昼を食べるらしい。
普段は仲の良い男子数人と食べるのに、どういう風の吹き回しだろうか…。
ま、この男の行動に一貫性が無いという事は把握済みだし、それにお姉ちゃんも普段より機嫌が良い様に見える。
お姉ちゃんが嬉しいなら、私も嬉しいし…敢えて問い詰めたりはしないでおこう。


「どうしたのお姉ちゃん?」
「新一ったらね、学校サボって図書館に行ってたらしいのよ!」


へえー?
どうせサボるなら、もっと楽しい所に行けばいいのに……って、ん?


「しかも何をしに行ったと思う!?今、全世界を騒がせてるあらゆる事件の動向を調べる為だって!そんなの授業サボってやる事じゃないわよ!ホンット信じられない!!」
「へ、へぇ…?そーなんだぁ…」


実はサボった理由が正に私が原因だなんて、そんな事絶対に言えるはずが無い。
というか、新ちゃんがついた嘘に違和感が無いのには正直驚いた。
さすが未来の名探偵、自分の事をよく分かってる…。
チラッと新ちゃんの様子を伺うと、予想通り。
“オメーのせいで無関係な俺がここまで言われてんだぞ!ありがたく思えよな!”と言わんばかりのジト目で私を睨んでいた。
…いや、私は悪くないから!
全ては勝手に逃走したあんたの責任だから!


「ってかあんた、ヤケに遅かったわね?病院そんなに混んでたの?」
「ま、まぁね…。何か今日に限ってすっごい混んでたっていうか、何ていうか…」
「ふーん?まぁ、ああいう大きい病院ってヤケに待たされるしねぇ…」


本当はそこまで混んでたわけではなかったけど、整形外科と内科の2つをハシゴしたら時間もそれなりにかかるわけで…。
あ、でも園子とお姉ちゃんの中での私は内科にしか行ってない事になってるのか…。
……あれ?
だとしたら私、かなりの時間を病院に費やしたって事になるよね…?
だって4時間目は屋上でサボってただけだし、そう考えたら内科だけってのは不自然すぎるのか…。
じゃあ何かフォローでも入れといた方がいいのかな…?
けど、何も聞かれてないのにわざわざ言わなくても…。
あー…ダメだ。
よく分かんなくなってきたから考えるのは中止だ、うん。


「おい杏」
「へっ?」
「これ、オメーにやるよ」


新ちゃんがポケットから何かを取り出し、私の手のひらに乗せた物。
それは、濃いピンク色をした卵形の物体で、片側に紐がついていた。


「今朝渡そうと思ってたんだけどよ、つい忘れててさ…」


2人に聞かれない様に耳打ちしてくるところからして、この人なりに少しは成長したのかもしれない。
…………でもさ。
これ、まさか…アレ?
いや、アレだよね…。
アレしか考えられない。
ってか、アレしか思いつかないしアレ以外考えられない。


「あ…あのさ、新ちゃん」
「ん?」
「悪いんだけど私…こんな物渡されても使う予定無いんで…」
「…はぁ?」


おずおずと答えると、新ちゃんは眉をしかめ、疑問の表情を浮かべた。


「そんなの分かんねぇだろ?いつ必要になるか分かんねーんだから…」
「いや…それはまぁ、そうだけど…」
「備えあれば憂いなし!オメーも少しはこういうモンに関心向けろよな!一応年頃なんだから」
「……」


うん、まぁ、年頃だけどさ…。
確かに備えあれば憂いなし、なんて諺もあるけどさ。
でもいくら幼なじみでもここまで干渉するのは異常じゃない?
そりゃあコレを使えば一気に感度は良くなるかもしれないよ?
けど、いくらなんでもただの幼なじみにプレゼントする代物じゃあ…。


「ねぇねぇ杏、新一から何を貰ったの?」
「ああ…これ?ピンクローター」
「ぶっ!!」
「ピンク、ローター…?」
「え?なになに?ピンクローターって何に使うの?」
「ああ、そっか。2人共知らなくて当然か…。これは女性用のアダル」
「バァーーロォォォッ!!!」


私が説明しようとした途端、新ちゃんの叫び声が反響した。
恐らく廊下まで響き渡ったと思う。


「ちょ、ちょっと!いきなり大声出さないでよ新一っ!」
「うわっ!あんた、なにお茶吹き出してんのよ汚いわねぇ!」
「ち…ちっ、ちげーよ!!!お、おおお、オメー何勘違いしてんだよ!!そそそそれはれっきとしたぼぼぼ防犯ブザーだろうがっ!!」
「…は!?」


ぼっ、防犯ブザー!?
え!?
これ、ローターじゃないの!?
色と形からどう見てもソレじゃん!!
女性専用の大人のオモチャじゃん!!


「んだよその見間違い!!ったく…」
「……」


新ちゃんはブツブツ言いながら、たった今自分が噴き出したお茶をハンカチで拭き始めた。
改めて良く見たら、確かにスイッチらしきものは見当たらない。
新ちゃんの言う通り、これは正真正銘の防犯ブザーなんだろう。
…ああ、そういえば昨日、強姦魔がどーのこーのって言ってたっけ…。
だったら初めからきちんと説明してよ!


「……」


っていうかこのオタク、顔を真っ赤にして大声で否定したって事は……。


「ふーん…?新ちゃん、その歳でピンクローターをナニに使うか知ってるなんて、実はソッチの知識も豊富なんだぁ…?」
「っな…!!!」


2人に聞こえない様に聞くと、新ちゃんの顔が一瞬で茹でダコ顔負けの色に染まった。
この慌てっぷりからして、この人…かなりのムッツリスケベだ。


「とっ、とにかく失くすなよな!?俺がわざわざ阿笠博士に作らせたんだから!」
「えっ!?」
「ん?」
「あ、あ、阿笠博士って…あの、年取ったメタボマリオの阿笠博士!?」
「「「……」」」


私がそう言った瞬間、顔が呆気にとられた表情に変わった。


「「「…プッ、」」」
「…え?」
「「「あははははははは!!」」」


と思ったら、今度は爆笑し始めた。
な…何…?


「ちょ、ちょっと…。何でみんな笑ってるのよ…?」
「だ、だってオメーが年取ったメタボマリオとか言うからだろ!?あー腹痛ぇ…!」
「マリオ…!メタボ…!ギャハハハ!!」
「もう杏ったらぁ!急に笑わせないでよー!」
「……」


だ、だって本当に似てるし、メタボだし…。
でも阿笠博士って、本当に何でも出来ちゃう人なんだ…。
まぁあの人の手にかかれば、これぐらい朝飯前なのかな…。
それにしてもド派手なピンクだ。
あのマリオがこれを作ってる所を想像すると、何だか笑えるかも…。


「でも何でわざわざ作ってもらったの?防犯ブザーなんて、普通にその辺のお店でも買えるのに…」
「ああ、それは市販のやつより大音量で鳴る様に作ってもらった特別仕様さ。それに…」


新ちゃんはそう前置きをして、自分のケータイを取り出した。


「その紐を引っ張った瞬間、俺のケータイにそのブザーの現在地が地図と一緒に送られてくるんだ。その方が万が一の時でも安心だろ?」
「へぇー…。な、何かすごいね…」
「それから、」
「え?」
「ここんとこ、指でスライドしてみろ」
「…ここを?」


新ちゃんに言われるまま、防犯ブザーの中心を親指で横にずらすと、中から黒いパネルの様な物が出てきた。


「これ…何?」
「それは指紋認証パネルだよ。万が一紐が抜けねぇ状況でも、その部分に指を乗せればブザーが鳴るって仕組みだ」
「…」


こ、こんなハイテク機器をいとも簡単に作っちゃうなんて博士スゴイ…!


「ま、その防犯ブザーが鳴らねぇ事が一番いいんだけどな…」


そう言って、新ちゃんはケータイをしまい、お姉ちゃんの作った愛妻弁当を頬張った。
それと同時に、私のスカートのポケットに入れてあったケータイが小刻みに震え、メールの着信を知らせた。
こっそり取り出すと、差出人は快斗くんらしく、お馴染みの青いランプがチカチカと点滅していた。


「……」


ここで堂々とこれを弄って、万が一園子に見つかりでもしたら……。


−ちょっとちょっと!あんた誰にメール打ってんのよ!?あっ!さては例のクロバくんね!?どれどれ、この恋愛マスター園子様に貸してみなさいな!!−


……間違いなく面倒な事になるのは火を見るより明らかだ。
だけど今返事を送らないと、あと数時間は弄れない。
一応校則ではケータイを弄る事は禁止されているし、かろうじて弄る事が出来る時といったら、先生のいない休み時間くらい。
授業中に弄ろうものなら、どうなる事やら…。
きっと反省文&放課後居残り説教コースだろう。
いや、やろうと思えばトイレで弄る事も出来るけれど、さすがにそこまでするのは私のプライドが………って!
何をゴチャゴチャと考えてるのよ私は!
こんな物、てっとり早く打っちゃえばいい話じゃん!
そ、そうだよ!
普通でいいんだよ、普通で!


「杏良かったじゃない!」
「えっ!?」
「これがあればあの3人も迂闊に近寄れないわよ!」
「あ…う、うん。そうだね…」
「だけど油断するなよ?いつどこで隙を突かれるかわかんねーんだから…」
「そうよ!だからこれからも杏は私達から絶対に離れない事!いい?」
「は、はい…」


ビックリした…。
メールしてるのがバレたのかと思って咄嗟に消しちゃったじゃん!
ええっと、もう1回返信ボタンを押して……。


「まぁアイツらもそうだけどよ、俺が今心配なのは例の連続婦女暴行事件だよ」
「あ、そのニュースなら私も昨日テレビで見た!確か犯人は、被害者の女性に道を聞くフリをして、被害者が油断した隙にいきなり襲い掛かってくるんだっけ…」
「ああ…。しかも犯人は、布の様な物で目隠しをしてくる事が被害者の証言で新たに分かったらしいぜ。これ以上被害者が出ねぇといいんだけどな…」
「………」


うーん…。
やっぱり私のメール、お姉ちゃんや園子と比べると淡白過ぎる気がする…。
これが原因で快斗くんを退屈な気持ちにさせているとしたら、少し申し訳ない様なそうでも無い様な…。


「…ねぇ、」
「なぁに?蘭」
「今って、そんなに怖い事件が起きてるの?」
「え?蘭、あんた探偵の娘なのに知らないの?」
「最近お父さん、ずっとテレビ独占しちゃってて…。ね?杏?」
「……」
「杏…?」


お姉ちゃんの呼び掛けに気付くはずも無い。
何故なら私は、自分の作ったメールが質素過ぎる事に頭を抱えている最中だったからだ。
やっぱりここは中学生らしく可愛い絵文字とか使ってみるべきなんだろうか…?
いや、いきなりは危険だ。
それまで句読点しか使ってなかった相手が何の前触れも無く使い出したら、相手が快斗くんじゃなくても不審に思う。
やっぱりここは、自称恋愛マスターの園子を見習って星マークから慣らして……いや、ちょっと待って。
よく考えたら、星ってそもそもどんな感情を意味してるんだ…?
音符マークならまだ分かるけど、星って一体…?


「ちょっと杏ってば!」
「へっ!?」
「あんた、なにさっきから机の下でコソコソやってんのよ?変な唸り声まで出して…」
「え、あ…べ、別に何も?」
「……」


咄嗟にケータイを机の中に隠すも、園子の目は明らかに私の手元を探ってる目つきに変わった。


「っていうか、何?何か聞いてきたんじゃなかったの?」
「あ、ううん!大した話じゃないから…」
「そ、そう…?ならいいけど…」


園子がお姉ちゃんと会話を再開させたのを確認してから、私は再び視線をケータイの画面へと戻した。
……わ、私も快斗くんの真似して、顔文字を使ってみよう…かな…?


「けど、その犯人ってまだ捕まってないんでしょ?何だか怖いなぁ…」
「へっ!怖いだぁ?蘭は空手があるから平気だろ」
「っ、わ、私だってもしかしたら襲われるかもしれないじゃない!」
「あのなぁ!遭遇する確率は全員同じかもしれねぇけど、その後逃げられる確率はどうなんだよ?」
「そ…それは…」
「コイツはただでさえ、同年代の奴より力も弱ぇし身体も小せぇんだ。防犯グッズの1つや2つ持たせとかねーと安心出来ねぇよ」
「…うん。そう…だよね…」
「ねぇねぇ私は!?蘭みたいに格闘技とか出来ないわよ!?」
「園子は論外。逆に襲いそう」
「ちょっと!何なのそれどーゆー意味よ!?」


……うん、諦めよう。
顔文字の種類が多過ぎてどれを使っていいものか迷うし、それにこの騒がしい環境の中でゆったりメールなんて打てる筈がない。
そう判断した私は、“学校が終わったらメールする”とだけ打ち、ケータイをポケットへしまった。
もちろん、顔文字は疎か、散々悩んでいた星マークすらつけずに。


「なぁ杏、オメーもそう思うだろ?」
「へ?何が?」
「だからぁ、武道やってる奴に防犯グッズなんか必要ねぇって思うだろ?」
「武道?あー、まぁそりゃあねー…」


確かに、その特技が立派な防犯になるからね。


「ほら見ろ。妹ですら否定しねぇって事は、やっぱり蘭には必要ねぇ物なんだよ」


新ちゃんがそう言った瞬間、周りの空気が若干凍ったと同時に、私の背中に冷や汗がタラリと流れた。
…マズイ。
知らなかったとはいえ、私はお姉ちゃんに対して大変な事を言ってしまった。


「ばっ、バッカじゃないの!?」
「へ…?」
「そんな寝ぼけた事言ってるから新ちゃんはダメなんだよ!」
「はあ?」
「ほんっと分かってないなぁ!お姉ちゃんだって女の子だよ?不意を突かれる事だってあるじゃん!そもそも武道やってるからって100%安全とは言いきれな」
「いいのよ、杏」
「…え?」
「確かに私には空手があるから、防犯グッズなんて必要ないもの…」
「……」


お姉…ちゃん…。


「これ、失くさない様にしなきゃダメよ?せっかく博士が作ってくれたんだから…」
「あ…」


心無しか、私の手を握るお姉ちゃんの手が、少しだけ震えてる様に感じた。


「あ…あのさお姉ちゃ」
「それよりも!」
「…へ?」
「きちんとしてこなきゃダメよ?」
「えっ…何を?」
「何をって…博士へのお礼よ!こんなに立派なもの貰ったんだもの、何かお礼持って行かないと!」
「あ…う、うん。そうだね…。あ、あのさ、お姉ちゃんちょっと聞い」
「ね、新一。確か今日って部活無い日よね?」
「おー、ねぇけど?」
「じゃあ放課後、杏を連れて博士の家まで行ってあげてくれない?」
「はあ!?何で俺も一緒に行かなきゃなんねーんだよ!コイツ1人で十分だろ?」
「だって杏、もう随分博士と顔を合わせてないし、私は部活があるから…。それにアイツらが帰り道に何かして来ないとも限らないし…。ね?お願い!」
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
「ありがと!大事な妹の護衛、よろしくね新一!」
「へいへい、わーったよ…」
「……」


こんなはずじゃ、ないのに…。
私は一体、何をしているんだろう…。
何の為に…存在しているんだろう…。


「それと杏、今夜はお祝いだから早く帰ってくるのよ?」
「え…?お祝い?」
「だって杏、やっと先生から運動の許可が出たんだもん。今夜はいっぱいご馳走作って、お母さんも呼んで家族みんなでお祝いしなきゃ!ね?」
「あ…うん…。ありがとう、お姉ちゃん…」


お姉ちゃんは、こんなにも私の事を考えてくれてる。
なのに、私は…。


「ほら杏!ボーッとしてないで次の音楽の準備しなきゃ!」
「う、うん…」
「あーっ!そういえば今日ってリコーダーのテストじゃ…!?」
「そうよー?あ、まさか園子…練習してきてないんじゃ…?」
「してないから慌ててるんじゃない!あーもう!どうすればいいのよー!」
「もう…そんなんじゃ成績下がっちゃうよ?」
「だってー!!」
「……」


やっぱり、私という異分子が存在していると、うまく噛み合わない部分がどうしても出てくるのかもしれない。
これからはもっと、自分の言動や立ち振る舞いに気をつけなきゃ…。
そんな事を思いながら、放課後、新ちゃんと共に博士の家へと向かった。


bkm?

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -