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Zauber Karte

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表と裏の世界


「…何でしょうか?」


まるで家来を引き連れた殿様の如く、腕を組みながら私を見下げてくる名前も知らぬ女子。
…ってゆうか、この子達ほんとに中学生?
何だその大阪のオバチャンもビックリなばっちりメイク…。
今時の中学生ってこんなにも塗りたくるもんなの?


「あんたさぁ、」
「うん?」
「何で学校来てんの?」
「………はい?」


いや、そんなの義務教育だからに決まってるじゃないですか。
何言っちゃって


「まさかこの前の忠告を忘れたわけじゃないでしょうねぇ?」
「…忠告?何それ」
「えっ…やだコイツ、本気で忘れてんだけど!」


ギャハギャハと下品に笑うオバチャン中学生3人組。
…いやいやいや、そんなん言われても「私」はあんた達とは初対面なんだから知らんよ。


「言ったでしょう?ウザいからもう学校に来るなって。なのに何で来てんの?」
「えっ、」
「朝からあんたのその顔見てすっごく気分悪くなったんだけど。どう責任とってくれるわけ?」
「……」


−オッドアイの何がいけないのかしらね…−


ああ、そうか…。


「あんた見てるとさ、ムショーにイライラしてくるんだよね」
「もうさぁ、何度も言ってるじゃん私達。いい加減さっさと公立に移るか、いっそのこと不登校にでもなってくれない?」


これが、毛利杏の背負っていた悩み…。


「…はぁ」


思いがけないトリップの次はまさかの新一騒動で、今度はこれかよ…。
勘弁してってマジで。


「…何よ、そのため息」
「…別に?ただ心底くっだらないなぁ、と思っただけ」
「なっ、何よそれ!」
「ってゆうかさ、もうすぐ授業始まるんだからそこどいてくんない?そこにいられると邪魔で仕方がない」
「なっ…」
「どかない?あっそ。だったらずっとそこにいたら?私は出てくけど」


イジメなんて、どこの世界にもあるものとは思ってたけど、まさか漫画の世界にもあるとはねぇ…。
これがあの、世界中の人が愛する「名探偵コナン」の裏の世界ってやつなのか…。
なーんかガッカリだな。
やっぱりトリップってのはしない方がいいね、うん。


「ちょっと待ちなさいよ!」
「つっ…」


左手首に、長い爪が刺さる感覚。


「何なのその態度!?調子こいてんじゃないわよ!」


調子なんかこいてないし。
っつーか爪ぐらい切れ。
痛ぇんだよバーカ。


「…どうでもいいけど、」
「…は?」
「気安く触らないでくれない?その性根を腐らせる妙なウイルスがこっちまで感染するから」
「っ…!」
「私、あんたらみたいに根っこから腐りたくないんで」


あれだけざわざわしてた教室内が、一気に静まり返る。


「あ、あんたねぇ!さっきから何なのよ!?ナメてんじゃないわよっ!!」


性悪女が右手を振り上げる。
っ、殴られる…!


ヒュン!


目を瞑り歯を食いしばった瞬間、何かが超高速スピードで私と性悪女の間を掠めた気がした。


ガタン!


「く、工藤、くん…」
「あ…」


掃除用具のロッカーに当たって跳ね返って来たサッカーボ−ルを足で受け止める新ちゃん。
…ああ、そういえばこの人、中学時代はサッカー部のエースだったっけ。


「テメェら、今度また杏に何かしてみろ。その化学薬品塗りたくったきったねぇ顔面にPKキメてやっからよ!」
「ついでに私の正拳五段突きもお見舞いしてあげるんだから!」


あはは、PKも正拳五段突きも破壊力すごそー…
絶対食らいたくない。


「…ふんっ!」


わなわなと体を震わせながら教室を出て行く性悪女3人組。
…あ、さっき掴まれたとこ血が出てるし。
後で保健室行って絆創膏、


「オメーまじでどうしたんだよ」
「…え?」
「初めてじゃねぇか?オメーがアイツらに言い返したの…」
「うんうん、私も思った!杏いつも泣いてたのに今日は平然としてたね!すっごくかっこよかったよ!」


お姉ちゃんがキラキラ〜、っとした目で言った。
…いや、


「別にかっこいい事したつもりは無いよ」
「えっ…?」
「私はただ、人の外見をけなしてくる連中が許せないだけ」


自分自身の性格に非があって、それに対して文句を言ってくるのはいい。
性格なんて、直そうと思えば本人の努力次第でいくらでも直せるんだから。
でも外見は簡単には直せない。
だからこそ見た目をけなしたり、それを批判してくるヤツは私は大っ嫌いだし、関わりたくない。


「いやぁ〜、やっぱり朝から出すもん出すとスッキリ爽快…ってあれ?みんなどうかしたの?」


事の経緯を知らない園子様が、この場にそぐわない発言をしながらトイレから戻ってきた。
…せめて家で出してこようよ園子さん。


「どうかしたの?じゃないよ園子!」
「え?」
「またアイツらが杏にくだらねぇ事言って来やがったんだよ」
「えっ、また!?」
「しかも今度は私と新一がいる前で堂々と!」
「あらまー、アイツら随分と思い切った行動に出たわねぇ…」
「普段は俺らがいねぇ時狙ってたからな」


ふーん…。
まぁありがちだよね、校舎裏とかトイレとかに呼び出すのって。


「じゃあ今回は、やーっと念願叶って蘭と工藤くんが撃退してやったんでしょ?」
「ううん、実は」
「まーったくアンタらもよくやるわよね!杏も少しは言い返したりしたらどうなのよ?そんないつまでもか弱い乙女気取ってたらこの先の人生やってけないわよ!?」
「そ、その事なんだけどね園子、」
「うん?」
「実はさっき杏が言い返したの!」
「……ええーーー!?ちょっ、あんたどうしちゃったのよ!」
「え?」
「今まで何か言われるたびに、『新ちゃん助けてぇ〜!』って泣きすがってたじゃない!」


あ、毛利杏は体だけじゃなくて心もか弱い女の子だったのか…。
まぁ初めて鏡見た時から感じてはいたけどね。
見た目からしてそんな雰囲気バンバン醸し出してるし。


「ねぇ園子」
「うん?」
「やっぱり杏、お酒飲んだせいで頭のネジが飛んでっちゃったのかなぁ…?」


おいコラ姉よ、あなたまで何言っちゃってるのさ。


「あー、案外そうかもしれないわよ?お酒って人格変えるって言うし!」
「あのねぇ園子…。それは酔ってる時の話!それに何度も言ってるけど、私の頭は正常です!」


2人揃って失礼な!


「じゃあどうしていきなり人が変わったかの様に言い返したりしたのよ?」


人が、変わった…?
…ああ、そうか。
それなら好都合じゃん。
うん、いいかも。


「…私もう、逃げないって決めたから」
「「「…えっ?」」」
「私が逃げればますますアイツら激しく攻めてくるもん。でもこっちが強く出れば、逆に向こうのほうが逃げ出して降伏するんだよ。だからテキトーに相手して強気でいかないと。みんなもそう思わない?」
「あ、ああ…」
「そう、ね…」
「ど、同感…」
「特にアイツら、集団じゃなきゃ何も出来ないタイプみたいだし。堂々としてれば平気でしょ」


正義の味方とか、勇者気取りのヒーローとか、そーゆーのはあんまり好きじゃないしなりたいとも思ってない。
けど、私がこの環境を変えてあげれば、私と入れ替わった「毛利杏」は、いつか戻った時に何不自由無く幸せな毎日を送れるはず。
…虚弱体質なのはどうにも出来ないけど、勝手に新ちゃんと別れてしまった負い目もあるしね。
うん、ちょっと頑張ってみちゃおうかなぁ、とか。
柄にもなくそんな風に思ってしまった。


「ま、まぁこれでアイツらも当分は大人しくなるだろうな」
「…いや、そうとは限らないんじゃない?」
「えっ?」
「もしかしたら『工藤くんにPKキメられたぁ〜い!』ってマゾヒストな事思ってるかもしれないじゃん?」
「おいおい…」
「どっちにしても杏、」
「うん?」
「またあの子達に呼び出されたりしても、勝手に1人で行ったりしたらダメだよ?杏は体弱いんだから…」
「ああうん、分かってる。てゆうかそもそも行かないから安心してお姉ちゃん」
「そ、そう?ならいいけど…」
「あんたほんっと、肝が据わったわねぇ…」
「あははは…」


帝丹は私立だからか、金持ちやエリートも当然わんさかいるわけで。
点数ばっかり気にして小さい時からただ競争に駆り立てられて、生きる目的をしっかりと持ててない奴らもいる。
そのいい例が、さっきの3人組なわけで。
だからこんなくだらない事をしてくる。
心から楽しく生きてないから、弱い者をいじめるんだ。
人間は誰しも弱い。
だから人間が存在してる限り、いじめは無くならないんだろう。
…争いなんか、無くなればいいのに。
チンプンカンプンな数学の授業を受けながら、どこまでも青い空を見て思った。


bkm?

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