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Zauber Karte

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新一の想い


「え?病院に?」
「う、うん。薬無くなっちゃったから貰いに行こうと思って…」


翌朝。
肩の痛みはお姉ちゃんに知られちゃ困るけど、このまま放っとくのは少し怖い。
薬ならこの前貰ったはずじゃ…と怪しむお姉ちゃんを何とか誤魔化し、学校へは遅れて行くことを告げかかりつけの総合病院へ向かった。


「肩の痛みは打撲したからですね。湿布薬を出しておくので…」
「だ、打撲!?」
「ええ。レントゲンを見ても骨は折れてない様なので、数日で痛みは取れると思います。心配いりませんよ」
「そ、そうですか…」


まさか打撲とは思わなかった。
痛みの度合いからして、てっきり骨が折れてるのかと思ったんだけど…。
結果的には良かったんだろうけど、うん…何か拍子抜けだ。
1人で騒いでたのがバカバカしい…。


ヴーーーッ、ヴーーーッ…


スカートのポケットに入れていたケータイが着信を知らせた。
…あれ?お姉ちゃんから?


「お姉ちゃん?どうしたの?」
「あ、杏…?まだ病院にいる?」
「うん。いるよ」
「…1人?」
「え…?うん、もちろん1人だけど…」
「……」
「お姉ちゃん?」
「…新一、いない?」
「……はい?」
「新一よ、新一…。アイツ、学校に来ないの…。電話しても留守電だし、メールしても返事来ないし…」
「えっ!?だってお姉ちゃん、朝アイツと一緒に登校したんじゃないの!?」
「行ったよ?行ったけど…。新一、途中でどっか行っちゃって…」
「はぁ!?何それ!!」


あのオタク何考えてんの!?


「だから、もしかしたら新一…杏のとこに向かったんじゃないかって思って…」
「え…でも、見回しても見当たらないよ?」


ロビーを見渡しても、周りはみんな老人ばかりで、確かに新ちゃんらしき人の姿はどこにも無かった。


「どこ行っちゃったんだろ、新一…」
「と、とにかくもし見つけたらすぐにメールするよ!」
「うん、お願い…あ、でも無理して探さなくて大丈夫だからね?病院が終わったらすぐ学校に」
「分かってる!じゃあね!」


激しい怒りが全身に広がっていくのを感じながら、ケータイを思いっきり鞄の中へと叩き付けた。
あのオタク、何でお姉ちゃんに何も言わないでいなくなるわけ!?
もっとお姉ちゃんの事考えてあげてよ!
これがきっかけでうちが家庭崩壊したらどう責任取ってくれんのよ、まったく!!
……まさかあのオタク、架空人物を崇拝するあまり旅に出たとか…?
さすがにそれは無いか、うん…。


「やあ杏ちゃん、久しぶり」
「…え?」


ロビーで湿布薬の受け取りを待ちながら考え込む私に、白衣姿の男性が声をかけてきた。
接し方からして、主治医…とか?


「今日は診察の日じゃないけど、どこか具合でも…?」
「あー、えーっと…ちょっと肩を痛めてしまって…」
「えっ!?だ、大丈夫なのかい!?」
「だっ、大丈夫です!ただの打撲ですので!」
「ならいいけど…打撲だなんて一体何をしたの?」
「あーまぁ、色々と…えへへへへへ!」


あーもうめんどくさいなぁ!
これだから嘘はつきたくないんだよ!


「あ、そうだ。この後、時間があったら僕の所へ来てくれるかな?」
「え…?」
「ちょっと話があるんだ。ここで会ったのも何かの縁だろうし、僕もなるべく早くキミに話しておきたいと思ってるから…」
「あ、はい…。分かりました…」
「じゃあ待ってるからね」


何故か担当医師からご指名を受け、診察室に通された。
先生の話を聞き終えて病院を出た後、私はふと、あのオタクの行方が気になり電話をかけてみた。
お姉ちゃんがかけた時は留守電だったし、どうせこれも繋がらないだろうなーと思っていたら…。


「もしもし」


すんなり繋がったし…。


「ねぇちょっと!あんた今どこにいんの!?何でお姉ちゃん放ってどっか行っちゃうわけ!?」
「どこって…病院だけど…」
「はぁ!?」
「だから病院の前だっつーの」
「え…新ちゃん、どこか具合悪いの?」
「違ぇよ!オメーが今立ってる場所のやや右斜め前方にいんだよ!」
「……」


まさかと思ったけれど、本当にいるとは思わなかった。
いや、何なの?
何でアイツがこんな所にいるの?
ベンチに座って大あくびしてるし、アイツは何をしてんの?


「遅かったなー。病院混んでたのか?」
「うん、少しねー…じゃないよ!!何であんたがここにいるの!?」
「またそれかよ…。せっかく人が心配して来てやったってーのに…」
「な、何が心配よ!お姉ちゃん放ってこんな所まで来て一体何考えてんの!?っていうか私はもう子供じゃないんだから1人で病院ぐらい」
「肩の具合」
「…え?」
「どうだ?平気か?」
「あ…うん。ただの打撲だって…」
「そうか…。折れてなくて良かったな」


そう言って、新ちゃんは私の頭をポンポンと撫でた。


「さて、と…学校行くか」
「ちょ、ちょっと!」
「ん?」
「あんた私の質問に答えてないんだけど!」
「だぁーかーらぁ!心配になったから来たんだよ!何か文句あんのかよ!?」
「あ…あるに決まってんでしょう!?何でちゃんとお姉ちゃんに言って来ないの!?すっごく心配してたよ!?」
「…ああ、忘れてた」
「は…?」


わ、忘れてた…?
いや、忘れる意味がわかんないんですけど…。
っていうか、何でこの人こんなにのんびりしてんの…?


「…後でちゃんとお姉ちゃんに謝ってよ?すごく不安そうにしてたんだから」
「へいへい…」
「あっ、それと!今まで病院の前で待ってたなんて口が裂けても言っちゃダメだからね!?」
「は?何でだよ?」
「なっ、何でって…お姉ちゃんが可哀相じゃん!」
「…可哀相?アイツが?」
「…」


鈍感もいいところだ…。


「…もう何も聞かないで」
「へ?」
「いいから私の言う通りにして!!分かった!?」
「お、おう…」


全く…。
絶対分かってないよ、この人…。
お姉ちゃんに変な誤解されたら迷惑するのはこっちなんだよ!?
そこんとこ考えて欲しいよ!


「…あ、あと、」
「ぁん?」
「……あ、ありがとね!わざわざ待っててくれて!」
「……」


別に私が連れてきたわけじゃないけどさ?
一応心配させちゃったお詫びっていうか、何ていうか…。


「礼なんかいらねーよ。俺はオメーの幼馴染みだし…」
「…うん」


幼馴染み…か。


「…新ちゃん」
「ぁんだよ、また文句か?」
「…昨日、言ってたよね?お姉ちゃんに頼まれて私の事を待ってたって…」
「ああ…まぁな…」
「…嘘なんでしょ?」


私の問い掛けに、新ちゃんが少し驚いた表情をして歩みを止めた。


「すぐにピンと来たよ。お姉ちゃんの反応、変だったから…」
「っ…」


そして、バツが悪そうに俯いた。


「何で自分の意志で待ってた、って言わなかったの?新ちゃんなら分かるはずでしょ?あんなの、すぐにバレる嘘だって…」
「……」
「それに今日だって、何でわざわざ学校サボってまで私の所に来たの?いくら心配だからって言ったって、何か…変だよ…」


突き詰めていく度に、新ちゃんは苦しそうに顔をしかめていく。
けれど決して私の目を見る事は無い。


「ねぇ新ちゃ」
「何で分かんねーんだよ…」
「…え?」


フワリとそよぐ春の風が、私と新ちゃんの前髪を優しく撫でた。
その瞬間、私の目に映ったのは…。


「ちったぁ俺の気持ちも分かれよ!!」


そう、見えてしまった。
いつの間にか耳まで真っ赤に染まった、新ちゃんの顔を…見てしまったんだ。


bkm?

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