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Zauber Karte

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理想、現実、若干後悔


「オメー何なんだよ急に!!」
「いやー、何だと言われましても…」


私と新ちゃんは身長差がありすぎる。
故に、私の右手は必然的に頭上まで高く上げられてるわけで…


「大体!告ってきたのはそっちじゃねーか!!」
「…『私』は告ってないです」
「っ!惚けんじゃねーよ!1ヶ月前、オメー俺に言ったじゃねぇか!蘭の代わりとして見てくれても構わねぇから付き合ってくれって!」
「………は?」
「なのに何で急に別れるとかなるんだよ!?ちゃんと事情を説明してくれなきゃ分かんねぇよこっちは!!」


新ちゃんは一気にそこまで言ったあと、投げる様に私の手を離した。
掴まれてた手首を擦りながら、ああ、なるほどって。
やっぱり原作通り、工藤新一は蘭が好きなんじゃん、って思った。
で、元々いた毛利杏もそれに気付いてて、1人ヤキモキしてて、どうにもこうにも我慢出来なくなって、行動に出た…ってところかな。
…あれ?
コナンってラブコメ推理漫画だよね?
なんてゆうかこれって…
昼ドラ化した名探偵コナンじゃない?
姉妹で同じ人好きになるとか、最早推理漫画じゃなくて泥沼漫画じゃん…。


「…ごめん、新ちゃん」
「あ?」
「私さ、やっぱりタイプじゃないみたい。新ちゃんみたいな人」
「……はぁ!?」
「ほら、よくあるじゃん?実際付き合ってみたら何か違うな〜っていう謎現象」
「え、おい…」
「それに新ちゃんて、所謂熱血漢でしょ?今時そういうのはちょっとねー…」
「……」
「まぁ、好きな人は好きなんじゃない?新ちゃんみたいな人。でも私の理想とはだいぶかけ離れてるんだよね」
「…じゃあ聞くけど、オメーの理想ってのは一体どーいうのなんだよ?」
「えー?何でいちいち新ちゃんなんかに教えなきゃなんないの?」
「べ、別にいーじゃねぇか減るもんじゃねぇし!…まぁ別に言いたくねぇんなら言わなくてもいーけどよー…」
「……」


ま、いいか。
ホントに減るもんじゃないし。


「…自分に素直な人」
「…素直?」
「うん。自分に嘘をつかない人。それが私の理想のタイプ」
「…ふーん?」
「だから…さ」
「あん?」
「もう私の事、お姉ちゃんの代わりとして見なくていいよ。恋人ごっこは今日でおしまいにしよう」
「え…いや、でもオメー」
「ダメだよ」
「…え?」
「新ちゃんは、私なんかと付き合ったらダメ」
「杏…」
「新ちゃんはやっぱり、お姉ちゃんとくっつくべきだと思う」
「…」
「だからこれからは、お姉ちゃんだけを想ってあげて?この前の私、きっとどうかしてたんだよ。ごめんね?振り回しちゃって…」
「いや、別にいい、けど…」


私と新ちゃんが付き合ってる事実を言ってきたお姉ちゃん、すごく悲しそうだった…。
それはつまり、お姉ちゃんは新ちゃんに対して少なからず好意を抱いてるって証拠で。
あんなに優しくて、素直で、可愛い子が悲しむ顔なんて私は見たくない。
だからやっぱり、原作通りに物語を進ませなきゃいけないんだよ。
じれったい2人と数々の難事件があってこそ、名探偵コナンだもん。
余計な異分子である私が乱しちゃいけない。
元々ここにいた「私」には…悪い、けど…。


「でも、さ」
「…うん?」
「オメーはマジでいいのか?それで…」
「ああ、うんうん!いいのいいの!ぜんっぜん構わない!だから思う存分お姉ちゃんに求婚しちゃって?」
「きゅ、求婚って…まぁ、オメーがそれでいいってんならもう俺は何も言わねぇけどさ」
「ホントに、ごめん…」
「…謝んなって」


新ちゃんはそう言いながら、中学生にしては大きい手でポンポン、と私の頭を叩いた。
…少し目眩がしたから、もう帰ろう。


「…じゃあ」
「え?」
「俺は今まで通りでいーんだな?」
「何が?」
「だから、その…ら、蘭を……す、す、好きで、いて」
「…あのさぁ、いちいち顔赤くして言わないでくれない?気持ち悪いんだけど」
「…やっぱ昨日までのオメーの方が良かっ」
「はい!?何か言いました!?工藤新一くん!!」
「……何も言ってねーよ!」


いちいちうるさいんだよこの男は!
何でお姉ちゃんはこんな男がいいわけ!?
全っ然理解出来ないんだけど!!


「…すぐ言えよ?」
「…え?」
「オメーに男が出来たら、すぐ俺に言え。オメーをちゃんと守れるタマかどうか、俺がこの目で確かめてやっから」
「…丁重にお断りさせて頂きます」
「っ、テメェなぁ…!!」
「あははは!嘘、嘘!ちゃんと紹介するって!もう新ちゃんてばホント面白いね!」
「…ったく、いちいちからかうんじゃねーよ!」
「ふふっ!ごめんごめん」


工藤新一って恋人にはしたくないタイプだけど、お兄ちゃんには是非なってもらいたい、かも…。


「じゃあ、私は帰、る、から…」


あれ?
なん、か…グルグル…まわ、っ…。


「お、おい杏!!」


目眩がしたなぁ、と感じた直後、私の意識はプッツリと途切れた。
目が覚めると白い天井が見えて、横には心配そうに私の顔を覗き込むお姉ちゃんの姿があった。


「あ、杏気が付いた?」
「…ここ、私の、部屋?」
「うん、新一が運んできてくれたの。どっか痛むところとか無い?大丈夫?」
「…平気」


すまん、新一くん。
一方的に追いかけて決別宣言しといた挙げ句ぶっ倒れるなんて、どっからどう見ても痛い女じゃん、私…。


「…あ、喉、渇いた、かも…」
「分かった。ちょっと待ってて?お水持ってくるから」


そう言ってお姉ちゃんはパタパタと部屋を出て行った。
それにしてもこの体、どうにかなんないものなのかなぁ…?
結構不自由だ…


「はい、お水」
「あ、ありがと、っ…」


上半身を起こすと、クラッと軽い目眩が起きた。


「杏大丈夫!?」
「だ、大丈夫…ちょっと目眩がしただけ、だから…」


ムカムカ、ムカムカ。
お腹の底から怒りとか、情けなさとか、色んなものが沸き上がる。
今まで、健康な事が当たり前だと思ってた。
そんな自分が、腹立たしくて、情けなくて。
…毛利杏は今まで、どんな思いで生きてきたんだろう。
こんな弱い体で、しかも、オッドアイのせいでイジメに合って…。
やっぱり、私が想像出来ないほど、つらかった、よね…。


「ねぇ杏…」
「…え?」
「新一から、聞いたんだけど…」
「うん?」
「…別れたって、本当?」


…もし。
もし仮に、毛利杏が毎日つらい日々を送ってたとしたら…。
私は、新ちゃんと別れないままでいた方が良かったんじゃないの?って。
勢いで別れてきちゃったけど、それはマズかったんじゃないの?って、今更だけど、そんな思いが湧いてきたりこなかったり…。
今は入れ替わったままだけど、一生このままの状態なんていう保証なんか、どこにも無いし。
それにいつか、私達が再び戻る日が来た時、私のせいで丸っきり変わってしまった新ちゃんとの関係を、毛利杏が目の当たりにしたら…?
そしたら、毛利杏はどうなるの?
どんな、気持ちに、なるの?


「…!杏っ!?」
「へっ!?」
「大丈夫?具合、悪いの?」
「あ、ううん!何でもない何でもない!そ、それより新ちゃんとの事だよね?本当だよ。さっき別れて、きた…」


ホントに今更だけど、頭の中で『後悔』の2文字が、グルグルと渦巻いてて。
でも、もう戻るわけにもいかないし…
ってゆうかそれ以前に私、工藤新一なんてタイプじゃないし…。
…まぁ、いっか!
今更悩んだって仕方ないし!
明るく生きよう!
うん、それがいい!


「で、でもどうして?何で、急に…」
「な、何でって…そりゃあ原作では」
「えっ?」
「あ、いや、えーっと…」


確か原作では、お姉ちゃんが自分の恋心にハッキリと気付くのってあのNYの事件がきっかけ…だった、よね?
てゆー事は今、私がお姉ちゃんに自覚しろだなんて言ったって無駄なわけで…。
えーっと何か理由、理由…
あ、そうだ!


「あ、あのね?」
「うん?」
「じ…実は」
「うん」
「実は私、他に好きな人出来たり出来なかったり…」
「えっ、ホントに!?」
「う、うん、ホントホント」


嘘つきは泥棒の始まり、とは言うものの、この際仕方が無い。
嘘も方便、て事で許してお姉ちゃんっ!


「そっかぁ…だったら新一には悪いけど、仕方無いよね?」
「う、うん…」
「あっ!それより杏!!」
「えっ?」
「走っちゃダメって言ったのに何で走るの!?また入院する事になっちゃうよ!?」
「ご、ごめん?」
「ほんとにもう…ふふっ、でもよかった!」
「え?何が?」
「最近の杏、何だか元気無かったから心配だったんだ…。でも今日の杏見てたら、私の思い違いだったみたいだね!」
「う、うん?」
「あっ、そうだ!新一に明日日直だって事メールしとかないと!アイツ絶対忘れてるもん!」


そう言って忙しなく部屋を出ていくお姉ちゃん。
毛利蘭はシスコンなの、かな?
でもあんなお姉ちゃんずっと欲しかったから願ったり叶ったりだ。
それにやっぱり別れて正解だと思う。
さっきより元気になってるお姉ちゃんを見てそう感じた。
再来年…か。
お姉ちゃんが、自分の抱く恋心に気付くのは。
その時は、精一杯協力してあげよう。
そう思いながら手早くシャワーを済ませ、眠りについた。


bkm?

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