あの後、優月の携帯から警部に電話で事情説明した俺は、迎えに来て貰った警部と母さんで優月の家に向かったが、結構でっけー屋敷でビビった。
とりあえず部屋のベッドに優月を寝かせ、母さんに着替えを頼んだ。
その後母さんは、蘭が1人で待ってるからホテルに帰ると言い出し俺の意見も聞かずに去っていった。
最早疲労が限界に来ていた俺は、諦めてソファで横になったら強烈な睡魔が俺を襲い、意識が遠退いていった……。
ピリリリリ
ピリリリリ
「……はい…」
「あ、新ちゃん?私だけど」
「ああ、母さんか…。んだよ?人が爆睡してる時に…」
「あら、もうお昼よ?お寝坊さんね。私逹、先に日本に帰るから!」
「………はあぁっ!?」
「あ、ホテルに帰ろうとしてもムダよ?もうチェックアウトしたから」
「ちょ、」
「荷物はホテルのクロークに預けてあるわ。じゃ、今から飛行機乗るから切るわね〜!」
「……」
一瞬母さんが何言ってんのか理解できなかった。
何とか理解できた事は、母さんが妙な事を企んでる、って事で……。
あ、あ、あり得ねーだろ!?
思春期真っ盛りな健全男子の息子を女の部屋に置き去りにするって母親の行為か!?
……でも今更言ったって仕方ねーし。
どーすっかなー…。
とりあえず優月の様子でも見てくっか。
ガチャ
「お。起きたか」
「………」
ん?何か様子が変だな…。
何慌ててんだ?
「…おい。オメー大丈夫か?」
「は、犯人はあなた!?」
「はぁ?なに寝ぼけてんだよ」
コイツ、とうとう熱で頭やられたか?
「…オメー顔赤ぇぞ?熱まだあるんじゃねぇか?」
……お、
「熱、下がったみてぇだな!」
「…そ、そぉ?」
「ったく、いきなり倒れちまったから焦ったんだぜ?しかも40℃の高熱でよー」
「ご、ごめんなさい…」
「…でもまぁ。一晩寝ただけで治っちまう所は昔と変わんねぇな!」
「どーせ私は元気だけが取り柄ですよーだっ!」
「んな事言ってねぇだろ。…あんま心配かけさせんじゃねぇよ」
「…うん」
元気なオメーが好きなんだよって今言えたら苦労しねーよなぁ…。
「あ、ねぇ新ちゃん?」
「……それ…」
「へっ?」
「その呼び方っ!もうガキじゃねぇんだからヤめろよな!」
「…………ぷっ」
「笑うなっ!!」
こ、こいつ…!!
今俺をバカにしやがったなっ!?
「悪いけどお断りするわ」
「はぁ?何でだよ?」
「…嫌なものは嫌なのよ…」
「……」
…意味わかんねーんだけどっ!
別に変えたっていいだろ!?
「それよりも!教えてくれない?どうやって私が帰ってきたのかを」
「…あー、そうだったな。今から説明すっから、着替えたらリビング来いよ」
「はーい」
優月の淹れてくれたコーヒーは目玉が飛び出す位旨かった。
俺の父さんもなかなかだが、コイツのは父さんよりも遥かに旨い。
っつーか優月のヤツ、まだミルクティーが好きなんだな…。
こーゆー昔から変わらない所を見ると、何だか安心するな。
……そういやまだガキの頃、家にタケノコの里が常に無いと泣いてたっけ。
んでよく俺が買いに行ってやってたんだよなー。
「んで母さんはホテルに帰って、俺はずっと優月の看病をしてた…ってわけだ」
「お疲れ様です」
「オメー、俺に感謝しろよ」
「はい。感謝しております」
看病なんて大した事はしてねーけどな。
少しは俺の有り難みを知れってんだ!
「ねぇ」
「ぁん?」
「そういえば有希ちゃんと蘭は?ホテルにいるの?」
…言いづれー話題振ってきやがったな…。
「…帰った」
「へっ?」
「朝早く電話かけてきやがって、『今から飛行機乗るから』…って」
「え!まさかロスの家に!?此処とは反対側だし遠い」
「日本だよ」
「ああ、日本か…」
「……」
「……ええーーーっ!!?」
そりゃー驚くよな…。
「じゃあ新ちゃんはホテルに帰るの?」
「…母さん達、さっさと俺の荷物をクロークに預けて勝手にチェックアウトしちまった」
「……」
何でか知らねーが、優月が俺を哀れな目で見てるよーな気がすんだけど…。
「そ、そっか。じゃあ此処にいればいいよ」
「………は?!」
「え?」
ここここ、コイツ、自分で言ってる意味わかってんのかよ!?
「お…」
「お?」
「お、オメーなぁ!」
「…え?」
「そーゆー事を軽々しく言うんじゃねぇ!!」
「ひぃっ!」
だああぁーーっ!
コイツこんな無防備な性格でずーっとアメリカに住んでたのかよ!?
信じらんねぇ!!
「い、嫌なら別に強制はしないけどさ」
「………」
…ま、別に嫌じゃねーし?
好きな女の傍にいれんのは嬉しいけどよー…。
「……どうする?」
「…べ、別に居てやっても構わねぇけどよ」
「うんうん!なら居てよ!」
「俺来週入学式だから、明後日の飛行機で帰っから」
「うんうん!私も明後日の飛行機で日本帰るから丁度いいね!」
「………へ?」
コイツ、日本に何か用事でもあんのか?
「…あれ?言ってなかったっけ?私日本で一人暮らしするの!」
「………」
…マジで!?
すっげー嬉しいんだけどっ!!
「ほ、ほんとかそれ?!!」
「うん!もうアメリカに住んでる意味無いしさ」
「えっ、何で…」
「…叔母さん、2年前に亡くなったんだ」
「あ……そっ、か」
「うん。それに…」
「…ん?」
「新ちゃんと蘭の元に、早く帰りたかったから!」
「…そっか!」
ああぁーくそっ!
何でオメーはそんなに可愛いんだよっ!
俺の心臓持たねーって!
「ねぇ新ちゃん、お腹空いた」
「あ…もう昼か」
「天気もいいし、何か食べに行こうよ」
「そーだな。行くか!」
「うんっ!」
嬉しそうに笑う優月が俺の手を握ってきて、思わず鼓動が高鳴ったのは俺だけの秘密だ。