「じゃあ新ちゃん!私これから優月ちゃんの代わりに事情聴取に行ってくるから、タクシー拾って優月ちゃんをちゃーんと送り届けるのよ?」
「ああ…」
「あ、それと例の通り魔には気を付けてよ!日系の男で長髪らしいから」
「へーい!」
いちいちうっせーなぁ。
言われなくても分かってるっつーの!
「じゃあまたね優月ちゃん。ローズの言った事気にしちゃダメよ!」
「あ、うん…。有希ちゃんごめんね?」
「なーに言ってるの!後は私に任せといて!」
無事に事件は解決した。
でも優月はさっきから泣きそうな顔で俯いたまま。
ローズに言われた事が相当ショックだったのかもしれねーな…。
「じゃあ私も行くね!」
「…さっさと行けってんだ」
「…新一?」
「別に何も言ってねーよっ!」
「あ、蘭…」
「うん?」
「ご、ごめんね1人で帰らせちゃって…」
「何言ってるの!ちゃんと新一に送ってもらってね?変な事されたらすぐ電話しなさいよ!」
「何もしねーよ!さっさと行け!」
…蘭のやつ、後で覚えてろよ!!
「新ちゃん」
「ぁん?」
「…やっぱいいよ?私1人で帰れるから…」
…何を言い出すかと思えば。
「あのなぁ!女のオメーを1人で帰らすほど、俺は気の利かねぇ野郎じゃねーよ!」
「…ふふっ、ありがとね」
とりあえずタクシーに乗ったはいいが、沈黙はさすがに気まずい。
あーくそっ!
蘭も一緒に来てもらえばよかった…!!
……と、とりあえずここは最も俺の尊敬し崇拝するホームズの力を借りとくか。
「ん?どうした?優月…」
「……へ!?あ、いや…」
「…まさかローズに言われた事、気にしてんじゃねーだろーな…」
…俺の気遣いを返せっ!!
「ぜ、全然!気にしてないよっ!!」
「……」
ぜってー嘘だな。
昔からコイツが嘘つく時は斜め45度の方向見て答えるって決まってんだ。
でも俺が何言ったって気休めにしかなんねーし。
…どーすっかなー。
「…オメー、窓閉めろよ。風邪ひくぞ」
「…ただ今絶賛、風邪っぴきです!」
「え…オメー大丈夫なのか?」
「んー、多分?」
「多分って…」
…にしても、優月が風邪だったなんて全っ然気がつかなかったな…。
まぁ仕方ねーか。
俺も今日はちょっと熱かったし。
《すみません、止めて下さい!》
おいおい…。
こーゆー所は昔とちっとも変わんねぇな…。
「おっかしーなぁ。この辺のはずなんだけど…」
「ほっとけよ!たかがハンカチ1枚だろ?」
んなもん、クソ真面目に探す必要ねーと思うんだけど。
でもまぁ、こーゆー優しい所が好きなんだなよなー俺は。
…って何言ってんだよ俺はっ!
…ん?
「あ、あれじゃねーか?」
ふと見上げた建物の階段に、そのハンカチは引っ掛かっていた。
「誰も住んでねぇみてーだし、すぐ取ってきてやっから!優月はタクシーに戻ってろ!」
この時の俺は、ただハンカチを取り終えて戻るつもりだった。
「おい待てっ!」
くそっ…!
まさかこの廃ビルに例の通り魔が潜んでたとはな…!下には優月がいるし、何としてでも今俺が捕まえねーと…!!
「新一…っ!?」
バカあいつ!!
何で来たんだよ!!
待ってろって言ったじゃねーか!!
「逃げろ優月!!そいつは例の通り魔だ!!」
「へへへ…そういう事だお嬢ちゃん。うまくここへ潜り込んだんだが、あのボウズに見つかっちまってよ…」
くそっ!
銃持ってるからヘタに手出し出来ねーし…。
どうすりゃいーんだ…!
「まあ恨むんなら、こういう結末を用意していた神様って奴を恨むんだな…」
バキッ!!
「わっ…!」
あ、危ない…!!
ガシッ!
「何してるの!?早く私の腕に掴まって!!」
優月…!
「は、早く…、雨で手が…」
ガッ!
「くそっ、世話の焼ける野郎だぜ…」
ぎりぎりセーフと思ったのも束の間。
通り魔は身軽な動きで這い上がった。
「な、なぜだ?どうして俺を助けた?」
「……」
「一体どうして!?」
「…訳なんているのかよ?人が人を殺す動機なんて、知ったこっちゃねーが…」
優月…
ちゃんと聞いてろよ?
「人が人を助ける理由に、論理的な思考は存在しねーだろ?」
俺が何で惹かれたのか…
オメーにはわかるか?
「お、おい優月っ!?」
顔が真っ青だ…。
まさか風邪が悪化したか!?
「…止めときな」
「っ!?」
「手負いって事は、追っ手が近くにうろついてるって事。サイレンサーも無しに銃をぶっ放せば、あんたを追ってた警察がすっ飛んでくるぜ?かといって俺もあんたを捕まえられる状況じゃない。この場は見逃してやるけどよ、また会う事があったら容赦はしねぇ。あんたが積み重ねた罪状や証拠を閻魔のように並び立てて、必ず地獄にぶち込んでやっからそう思え!!」
ぐったりとした優月を抱え、廃ビルをあとにした。