smaragd side S | ナノ

Zauber Karte

http://nanos.jp/968syrupy910/

golden appleD


現場を見ようと舞台に立つと、優月が俺より先に遺体へ駆け寄った。
涙を浮かべながら遺体を眺めるその姿は、不謹慎だが綺麗だと思った。
そして十字を斬った後、当たり前のようにして現場検証を始めた。
俺が止めようと声をかけても全く反応が無く、ただひたすら見て回っていた。
警察が到着したのはそのすぐ後。


《撃たれたのが、まさかヒースとは…》
《知ってるんですか?警部》
《ウチのカミさんが彼の大ファンでな…。で?状況は?》
「出演者達は部屋で待機中。観客は逃げちゃったわよ、ラディッシュ!」
「優月!!」
「折角のお休みなのにラディッシュに会う羽目になるなんてね」
「いやー、携帯に連絡しても繋がらないから諦めて来てみたが、君がいてよかったよ!HAHAHA!」


…コイツら知り合いだったのか?


「…弾は胸に一発。背中の翼の仕掛けに食い込んでたわ…」
「ああ、これか…」
「弾の入射角度は上から40度ってとこね」
「40度?かなり上だな…」


優月のやつ、まるで警察の人間みてーだな…。
言ってる事は正しいし、警部とも知り合いみてーだし。
…今度は本物の警部だよな?


《痛たた…!!》
「あ、やっぱ本物か…」


どうやらシャロンじゃねーみてぇだな。
しっかしこのオッサン、よく伸びるなー。
これだけメタボなら納得いくな。
…今度目暮警部の顔も引っ張ってみるか。


「新ちゃん何してんの!ラディッシュに失礼よ!」
「あ?」
「優月!…こいつが有希子の息子の新一か?」
「ええ、そうよ。ラディッシュ、有希ちゃんと知り合いだったの?」
「ああ、以前優作君が捜査に協力してくれてな」


……何か優月から殺気が漂ってきてるのは気のせいか?


「お、おい優月」
「うん?」
「ラディッシュ警部と知り合いなのか?」
「…知り合いも何も、パートナーよ!」
「…へ?」
《警部!ちょっと…》
《ん?何だ?》


パートナー?
優月のやつ何言ってんだ?


「有希子、君の言ってた通りだよ…」
「え?」
「1ヶ月前にわざわざあんな席のチケットを買った、怪しい人物がいたそうだ。マフラーと帽子で男か女か、わからなかったようだがな…」


ふん、なるほどな。
印象に残すってワケね。


「ねぇ新一、どうして『あんな席』なの?あそこ、高くていい席じゃないの?」
「ああ、あ」
「あのテラス席は角度がついて観づらい安い席なのよ」
「え…」
「そんな席を指定して、顔を隠して買えば印象に残りやすい。……でしょ?新ちゃん!」
「あ、ああ…」


こ、こいつ、俺の言おうとした事そのまんま言いやがった!
……エスパーか?
それより、死体に残った痕跡が気になるな。
首元に火傷のような跡に右手についた血…。
しかも、掌の血が掠れてる…。
血がついた後、何に触った?
服には跡がついてねーし、吊られてる状態なら何も触れない。
だあーーっ!わっかんねぇ!


「はぁ…。優作がいないとなると、誰が謎を解明すればいいのかしら…」
「HAHAHA!優作君がいなくても、謎を解明出来る人間がそこにいるじゃないか!」
「え?」
「我が国を代表する名探偵、花宮優月がね!」
「「「ええぇ〜っ!!?」」」


ど、ど、ど、どーゆー事だ!?
マジかよ!?
まさかあの優月が、めめめ、名探偵!?


「もう何よ、3人共煩いなぁ…」
「ちょ、優月!!」
「ひゃっ!な、何…?」
「オメー探偵やってんのか!!?」
「…え?そ、そうよ?」
「何で言わねぇんだよ!」
「…あれ?言ってなかったっけ?」
「今警部から聞いたんだよ!!」


言ってなかったっけ?じゃねーよこのバカ!!


「優月は、アメリカでは名前を知らない者はいない位、名探偵なんだよ!」
「ラディッシュ!大袈裟に言わないでよ!」
「いやいや大袈裟じゃないさ。現に君の右に出る者はいないじゃないか!」


ま、まさか俺が憧れてる探偵にコイツがなりやがったとは…!!
しかも迷じゃなくて名だと!?
先越されちまったじゃねーか!


「す、すごいじゃないの優月ちゃん!」
「え?」
「新ちゃんも探偵目指してるし、将来は夫婦で探偵なんて素敵…!」
「ふ、夫婦!?」
「お、おい母さん!!」
「あらだって貴方達、婚や」
「だーーーっ!!」


母さんお願いだからやめてくれっ!!
蘭も隣でニヤニヤしてんじゃねーよ!!


「ラディッシュ」
「ん?」
「舞台裏行くわよ」
「あ、ああ…」


お、おい!
何で置いてくんだよっ!


「ええっ!?あの4人の女優達の中に犯人がいる!?」
「ええ。確実にね」


優月は俺が言いたかった事を全て蘭と母さん、警部に説明した。


「…新ちゃんも解ってたでしょ?」
「ああ、まぁな…」


そりゃあ昔はボケてるとこなんか沢山あったけど、今は立派な探偵やってんだな…。
何か、すげーなコイツ…。


「ラディッシュ」
「ん?何だい?優月」
「1人でやりたいの」
「…ああ、解った。よろしく頼む」
「ごめんなさいね…」


ん?
何であんなに急いでんだ?

「警部」
「何だ新一?」
「優月のヤツ、何で1人で何処か行ったんだ?」
「ああ、彼女は1人で黙々と推理したい性格なんだよ。だから毎回現場では好きなようにさせてるんだが今回は…」
「今回は?」
「あ、いや…優月は君達と行動を共にしたくないようでね…。推理に邪魔が入ると狂暴になるから気を付けた方がいいぞ」
「まぁ!仕事熱心なお嫁さんもいいじゃない!ね?新ちゃん!」
「嫁じゃねーよ!」


まぁでも、優月の気持ち、理解できなくもねーな。
俺もどっちかっつーとそうだし。
とりあえず俺も楽屋覗いてみるか。
ぞろぞろとみんなで楽屋に行くと、ドアの所で盗み聞きしてる優月が目に入った。
俺達が近づくと警部を物凄い目つきで睨んでたのは恐らく、何で連れてきたんだって意味を込めてたんだと思う。
…推理の時は真剣勝負なんだよな。
俺もそうさ。


《ねぇ…今の話、本当?リラ》
《ええ。私とヒースは愛し合っていたわ!もう5年になるかしら…》
《じゃあ、あなたは私と彼が付き合ってるのを知ってて…》
《落ち着いてよ2人とも!こんな日にそんな話する事ないでしょ?》
《あら、一番動揺してるのはあなたなんじゃない?自分の彼に恋人が2人もいたんだもの…》


…そうか!!
わかったぞ犯人が!!
そして犯人を追い詰める証拠も…!
あとはトリックだけだな…。
舞台に戻るか…ってあれ?
優月は?
あ、そうか!
アイツ解ったんだな!
っし、俺も行くか!


「ねぇ新一…何か思い付かないの?」
「…蘭は母さん達と一緒にいてくれ」
「え??」
「…優月の所に行ってくる。アイツ、犯人が解ったんだよ」
「わぁ!すごい!さすが私の優月!」
「オメーんじゃねーよ!!」
「…女の私に妬かないでくれる?」
「るせー!!」


お、いたいた!


「優月?」
「わっ!…し、新ちゃん…」


優月の隣に行くと、鉄の蓋をずらしていた。
……羽、円形の溝…?
ま、まさか……。
血!?
フン、なるほどな。
犯人は奈落を使ったってわけか…。


「優月。オメー全部解ったんだろ?」
「ええ、もちろん。…よかったら一緒にどう?」
「え?」
「哀れな女神を曝しに…」
「…ああ!」
「ふふっ。さすが新ちゃん!ラディッシュの所に行こう」


やっぱり優月は昔と比べて見た目は変わった。
でも俺の気持ちは昔のまま…いや、それ以上になった。
心が綺麗なところや、繋ぐ手の温もり、可憐な笑顔は今も昔も同じ。
オメー、十分魅力的になったな…。
これだけ待ったんだ、もうそろそろオメーを俺の物にしてもいいか…?
もう気持ちが抑えきれねーよ…。


bkm?

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -