「わー素敵!」
「本当!みんな輝いてるわー!!」
「でしょでしょ?こんな豪華な舞踏会、日本じゃ観られないわよ!…って思ってないガキも1人いるみたいだけど…」
…うるせーなぁ!
「ちょっと!せっかく来たんだから真面目に観なさいよ!」
「こんなんどこが面白いんだよ?ギリシャ神話に引っかけたラブコメだろ?」
「ねぇ何なの?その元になったギリシャ神話って…」
「金の林檎だよ…」
「そう。昔、ヘラとアテナとアフロディーテっていう3人の女神がいてね、」
「「「…え?」」」
「ある祝いの宴に呼ばれたの。その宴に招かれなかった、エリスっていう女神が嫉妬して、3人の元に金の林檎を贈ったのよ。『最も美しい女神へ』っていうメッセージを添えて…」
「…」
「…」
「……それってさっきの…」
「うん。それでその3人の女神は、誰が林檎に相応しいかをトロイア王子に選ばせる事にしたの。自分を選んだら何を与えるかをアピールしてね…」
「……」
こいつ、本当に、あの優月か…?
「ほ、ほら!貧乏貴族の役をやってるヒースが、そのトロイアの王子よ…」
「「「……」」」
「で、大金持ちの妻役のリラが、大神ゼウスの妻であり、地上で最大の権力を与えると言った結婚の女神ヘラ…」
なんだか関心しちまうなー。
昔は世間知らずで知識の欠片も無いあどけないガキだった優月がねぇ…。
ま、俺はそんなとこも好きだったけど。
…何だか優月とは話が合うかもしれねーな!
「で、アカネが戦いで勝利を与えると言った知恵の女神、アテナ。んでローズが、絶世の美女を与えると言った美の女神、アフロディーテ。そして前のシーンで3人に嫉妬してたイベリスが、金の林檎を贈った争いの女神、エリスをもじってるってわけ。まぁこの舞台じゃ、権力はお金、戦いは仕事、美女はロマンス、金の林檎は、林檎型に宝石が散りばめられた豪華なネックレスに変えられてるんだけどね」
「………」
ま、マジでスゲェとしか言いようがねーな…。
「す、すげーなオメー…」
「…へ?」
「…す、凄いよ優月っ!物知りになったねー!!」
「うんうん!まさか説明するなんて、昔の優月ちゃんからは想像出来なかったわよ!」
「そ、そーかな…?ははは…」
いや、マジで想像出来なかったぜ…。
「それで?誰が選ばれたの?」
「あ、うん。アフロディーテよ。でもそれが元でトロイア戦争が起こったんだけどね…」
「でも、それはギリシャ神話…。このミュージカルは一味違うわ」
「え?」
「あの冴えない貧乏貴族の正体…観たらビックリするわよ!」
ま、劇を盛り上げるには何かしらアレンジするんだろうけどな。
どうせくっだらねー事だろ?
《見よ!哀れな人間達よ…我が名はミカエル…≫
ウソくせー…。
何だこれ…。
《私の答えを聞くがいい…》
ん?何だ?
あの赤い光…。
ま、まさかレーザーライト!?
ガシャン!
「「なっ…なに!?」」
拳銃で撃たれた…!
テラス席!!
「母さん!後を頼む!!」
走ってテラス席まで行くと、既に優月が何かを調べ始めていた。
何してんだよコイツ!
「な、なんでオメーが此処に…!」
「…理由は後で解るわ」
「はぁ?」
「それよりこれ…」
優月がハンカチで包んで見せてきたもの。
それは…
「薬莢か…っ!?」
「…変よね?なんで…」
「ああ…」
薬莢が冷たい…。
前もって誰かが置いてったワケか…。
でも何で優月がここに来てんだ?
…まぁ俺も人の事言えたもんじゃねーけど。
しかも足速くねーか!?
運動神経良かったっけ?
……それよりも警察に連絡だな。