「新一!?いい加減にしなさいよ!」
「それはこっちのセリフだっつーの!」
「……」
今日も2人より先に帰ろうと思ったのに、タイミング悪く2人に捕まってしまった。
ずっと1人で考えていた。
どうすれば、この気持ちを拭い去る事が出来るのかを。
でも、考えれば考える程、深みに嵌まる。
家で新一と一緒にいても、前みたいに無条件で楽しいって思えなくなった。
新一が、何故か遠くにいるような気がして…。
沢山体を重ねても、心はいつも乾いたまま。
そんな自分が嫌で嫌で…。
どうしたら、この気持ちは晴れるんだろ…。
「優月!?」
「……!?」
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「最近ずっとこんな状態なんだぜ。何か変なもん食ったんじゃねーか?」
「ちょっと!!新一じゃないんだから優月にそーゆー事言わないでよね!!」
「何だよそれ!?俺は変なもんなんか食わねぇっつーの!」
心臓がドクンドクンって、どんどん早くなっていってる。
…これ以上ここには居たくない。
絶対2人を傷つけちゃう。
「…私、」
「「ん?」」
「私、先に帰るね…」
「え?どうしたの?」
「ちょっと…具合悪くて」
「ほらな?やっぱり変なもん食っ」
「だーかーら!新一は何でそーゆー事しか言えないのよ!バカの一つ覚えみたいに!」
「オメー俺をバカって言ったな!?」
「えぇ!言ったわよ!バカにバカって言って何が悪いのよ推理オタク!」
「っざけんなよ!」
「いい加減にしてよ!!」
もうダメ、抑えられないって。
そう思った時には、遅かった。
「え…優月?」
「ど、どうしたんだよ…」
「私なんて……消えれば、いい…」
「……え…?」
「おい優月…?」
「っ!私なんて消えちゃえばいいのよっ…!」
「は?何言って…」
「私だって行きたくなかった!2人から離れたくなかったよ!」
誰か、止めて。
「何で2人して私を置いてくの!?私って邪魔!?邪魔な存在!?はっ!そうでしょうね!だって8年も離れてて突然現れるんだもん…!やっぱり…。やっぱりもう会わなければ良かったっ…!会わなければ…こんな感情なんて知らないで過ごせたのに!……新一、探偵でしょ!?私の気持ち、何で解ってくれないのよ!!」
「お、おい優月!!」
「あ、優月!?」
私は2人から逃げた。
卑怯だと思ったけど、あれ以上、あの場にいたくなかった。
あのままいたら、私は確実に壊れてしまう。
そう思ったから…。
「はぁ、はぁ…」
気付いたらこの場所に私はいた。
新一と私の、思い出の場所。
「…私、最低だぁ…」
涙が溢れて止まらない。
ただの嫉妬だってわかってた。
2人の思い出に、私は入れない。
どう頑張ったって、過去はもう…。
こんなの、独り善がりに過ぎないのに。
醜いと思われたくなくて、2人のせいにしてしまった。
私の知らない新一を、蘭は知ってる。
それが悔しかったんだ。
「子供みたい…私…」
沈んでいく夕日を見ながら、自嘲気味な笑みを浮かべた。
「優月!!」
声のする方を見ると、そこには、一番会いたくて、一番会いたくない人物が息を切らしながら駆け寄ってきた。
そしてその人物は、勢いよく、私の体を抱き締めた。
「新一…?」
「あんな事言うんじゃねーよ!」
「……」
「もう会わなければ良かったなんて…本気か!?」
「…っ」
「本気で…本気で消えたいなんて…思ってんのかよ!?」
顔をあげた新一の目からは、涙が溢れていた。
「もう俺の前から…居なくなろうとか思うなよっ…!オメーが…優月がいねぇ間っ…俺が…俺がどれ程辛かったかっ…わかって言ったのかよ!?なぁ!?」
「し、新一…」
「頼むから…もうあんな事…思うんじゃねーよ!俺…オメーに…優月に何してやりゃあいいのか…わかんねぇよ…!」
「……」
ああ、私は新一がこんなにも取り乱す程愛されてるんだ。
そう感じた途端、心の中の黒い靄がスーッと無くなっていくのがわかった。
…私は我儘で、強欲だ。
こんなにも愛されていたのに、今更何を求めていたんだろう。
何で1人で、悩んでたんだろう。
「新一…泣かないで…。お願いっ…!」
「…うあっ…っく…!」
「ごめん、ね…っ…もう…思わ…ない、から…!」
新一を強く抱き締めながら、私は謝る事しか出来なかった。
肩を震わせて泣く新一に、ひたすら謝る事しか…。