私はHRが終わった後、逃げるようにして教室から飛び出した。
あれから私は、新一と蘭が一緒にいる時はなるべく2人を避けてた。
胸が締め付けられて、居心地が悪いから。
新一と蘭が呼び止めて来たけど、「スーパーのタイムセールに間に合わないから急ぐ」って嘘ついて逃げてきた。
逃げた先は堤向津川。
気分転換にバイオリンを弾いているのだけど…。
♪〜
ダメだ…。
何か、調子出ないや…。
「なんか悩んでんのか?」
えっ?
この声…!?
私が振り向くと、そこには学ランを着た新一…に似てる人が立っていた。
「えっ…と…」
「悪ぃな、急に話し掛けちまって」
こ、声まで新一に似てるっ!
「俺、黒羽快斗ってんだ!よろしくな!」
「うわぁ!」
手から薔薇なんて素敵!
この人マジック出来るんだぁ!
「ありがとう!くろばかくん!」
「変なとこで区切るなっ!」
「あはは。ごめんね黒羽くん!」
「快斗でいーぜ。みんなそう呼んでるし」
「快斗くんね。私は花宮優月。帝丹高校1年」
「じゃあ俺とタメだな!」
「え、快斗くんも1年?」
「おう!」
快斗くんって、顔は新一に似てるけどやっぱり何か違うなぁ〜。
新一はこんな人懐っこい笑い方しないし!
「ねぇ、快斗くんて学ランだけどどこの学校?」
「ああ、俺は江古田高校に通ってんだ!」
「江古田…。あ、時計台があるとこよね?」
「そうそう!俺、あの時計台好きなんだ!」
「あら。もしかして大切な女性との思い出の場所とか?」
「へへっ、まぁな!」
…あれ?
この人…。
「なぁ」
「うん?」
「何か悩んでんのか?」
「えっ!何でわかるの?」
「やっぱりな!」
この人エスパー!?
「音色」
「へっ?」
「バイオリンの音色が、何つーか寂しげに聞こえてさ…」
「……そっ、か」
ダメだなぁ、私…。
大好きなバイオリンにそんな音色を出させてしまうなんて…。
「…快斗くんって」
「ん?」
「…幼なじみって、いる?」
「おう、一応いるぜ。口煩くてお節介で、何かと俺にエラソーな顔してくる女が1人!」
なんか、新一と蘭みたい…。
「…その人の事、好き?」
「へっ!?」
「その幼なじみさんの事、好きなんだ?」
「……ああ。好きだ」
やだなぁ…。
新一に言われてるみたいで、胸がズキズキする…。
「お、おい!」
「…え?」
「何で泣いてんだ!?」
「あ…ご、ごめん…」
また気づかないうちに泣いてた…。
どうしちゃったんだろ…
「…俺でよければ」
「…うん?」
「俺でよければ…相談にのるけど?」
「…ふふっ。ありがとう」
学校違うし、話してみようかな…。
「私ね…」
「…おー?」
「最近…ああ、このまま遠くに消えたいなって…思う時があるの」
「え…」
「…私は、ここにいていいのかなって…。あの2人の…傍に、いて…っ」
「……」
「ほんとは、っ…私なんか、邪魔だって…思ってるんじゃ、ないの…?」
「……」
「もう…どうしていいかわかんないよ…!」
ここが私の居るべき場所?
ここに帰ってきて良かったの?
私はここにいたら…
ダメな存在なんじゃないの…?
「…違うだろ」
「…え?」
「俺に言うんじゃなくて、今の言葉はその2人に言うべきだろ?」
「そ、そんなのダメっ!!」
「…優月?」
「言ったらダメだよ!言ったら…言ったらっ!」
「…」
「言ったら傷つけちゃうよ!!」
「……俺さ」
「……」
「気の利く性格じゃねぇから、具体的に何て言って慰めてあげりゃーいいのかわかんねぇ」
「…う、ん」
「でも、今この場凌ぎでなら、オメーを励ましてやる事は出来るぜ?」
「…え?」
快斗くんはいつの間にかシルクハットを取り出し、中から白い鳩を出してくれた。
「わぁ…!可愛い!」
「お、笑ってくれたな!」
「…え?」
「オメー可愛いんだからよ、泣いてる顔は似合わねぇぜ?」
「…あ、ありがと」
…誰かさんと同じでキザな人!
「…また何かあったらさ、俺が聞いてやるから」
「…うん。ありがとう」
「じゃあケー番教えろよ!」
「…最初からそれが目的だったわけ?」
「ち、違ぇよっ!!」
「あははは!冗談に決まってるでしょ?交換しよっ!」
「…ったく。おう」
私達はお互いに番号とアドレスを交換した。
「っし!じゃあ見せてやるよ!」
「え?」
「俺のマジックショー!元気が出るって評判なんだぜ?」
「わぁ!見たい見たい!!」
「じゃあしっかり見てろよ?」
快斗くんは色んなマジックを見せてくれた。
マジックをしている快斗くんは、とってもキラキラな笑顔をしてて…。
とっても華麗な手つきで…。
本当にマジックが好きなんだなぁって思った。
快斗くんが好きな女性は、どんな人なんだろう…。
きっと…。
きっと、真っ直ぐで、素直で、キレイな心を持ってる人なんだろうな…。
こんな素敵なマジックをする快斗くんが想う人だもん、絶対そうだよ…。