月日は流れて、秋になった。
晴れた空は高く澄み渡り、俗に「天高く馬肥ゆる秋」ともいわれている。
そんな空の下、私と新一は仲良く下校中。
「なぁ優月!」
「うん?」
「オメー、ヘリに乗りたくねぇか?」
え…いきなりどしたの?
でもまぁ、乗りたいか乗りたくないか聞かれたら、もちろん…。
「…乗りたい!」
「っし!実はな、警部が警視庁のヘリに乗せてくれるんだ!」
「け、警視庁の…?」
話を要約すると、新一が以前から目暮警部に、「俺をヘリに乗せろ」って騒ぎ立てていたらしい。
…目暮警部、可哀想に。
で、やっと乗せてくれるって思ったら、この前警察の元に、新一曰く、「今時予告状を送りつけるレトロな泥棒」から一通の予告状が届いたそう。
そいつが江古田の時計台に現れるらしいから、新一もついでにどうか…って言われたとか。
予告状の内容はこう。
月が満ちる土曜の夜、零時の鐘と共に、貴方の懐より天高き時計を頂きに参上する。
……怪盗、か。
「私、その泥棒さん知ってる…かも」
「え?本当か!?」
「うん」
「ど、どんな奴なんだ!?」
「えっ…と、私もあまり詳しくは知らないんだけど…」
「おう」
「……タダじゃ教えないわよ?」
「……はぁ〜。オメーはそーゆー奴だよな…」
当たり前じゃん!
昔からバカとドSは使い様、って言うし。
「…ケーキ」
「は?」
「ケーキバイキング連れてって!」
「…へいへい。わぁーったよ!」
「やったぁ!」
――――――
「なぁ…」
「うん?」
「よくそんな食えるな…」
「甘いの大好きだもん!」
「そんなに食ってると豚になるぞ?」
「大丈夫!食べても太らない体質だから!」
「あ、そ…」
うふふっ!
もう幸せすぎて死にそう!
「なぁ…怪盗の事早く教えろよ?」
「もうさっきから煩いなぁ!そう焦らないでよね!ヘリに乗るのは明日でしょ?さっきから本っ当しつこいわ全く!人が楽しく食べてると…き……」
「………」
ややや、ヤバい!
これ、噂のドSフラグ…!
「…またこの前みてぇにされてぇのか?」
「すみませんごめんなさい言いますからなにもしないで下さいお願いします!」
本格型ドSが発覚してから、新一がなにかと脅してくるのが最近の私の悩みだったりする。
こんな人と結婚したらどうなる事やら…考えたくない。
「…名前は怪盗1412号」
「1412号?」
「そう。世界を股に掛けて、美術品や宝石を荒らし回る大泥棒…」
私はミルクティーを一口飲んでから続けた。
「彼が最初に出没したのは、今から17年前のパリ。その10年後、忽然と姿を消したけど、最近再び復活し、今は日本で活動中…ってとこかな!」
「何で1412号なんて変な名前なんだ?」
「さぁ、それは知らない。でも…」
「でも?」
「彼を称する形容詞は様々あるよ。平成のルパン、月下の奇術師とか…。でも1つだけ、1番人々に親しまれている通り名があるの」
私はそこまで言うと、ミルクティーを一気に飲み干した。
「通り名?」
「…怪盗ケーアイディー」
「…KID?」
「そう。人呼んで、怪盗キッドよ」
私は残ってたケーキを口に運ぶ。
「怪盗1412号が怪盗KID……か」
「うん」
「これ考えたやつ、中々洒落てんな!」
「あれ?知らないの?」
「あ?何がだ?」
「…フフッ!知らないならいいわ」
「……言え」
こ、こ、怖いよ新一様!
「んー。じゃあ平成のホームズさんにヒントを教えよう!」
「はぁ?」
「…ヒント1。この名前をつけた人物は、当時の若手小説家!」
「若手小説家…?」
「ヒント2。これで分かっちゃうね!」
「んだよ、早く言えって」
「ヒント2は……私の将来の父親になる人!」
「…と、父さんか!!?」
「せいかーい!」
優作さんが以前、私にファイルを見せてくれたんだよねー。
……何故かは知らないけど。
「父さん、何くだらねー事してんだよ…」
「あら、さっきは洒落てるって褒めてたじゃない」
「…父さんに言うなよ?」
「いちいち言わないよっ!」
さて、お腹いっぱいになったし。
「ご馳走様でした!さてと…本屋さんに寄るんだよね?そろそろ行こっか」
「ああ…。やーっと満足したか。食い過ぎだっつーの!」
「もうっ!さっきからいちいちうるさいなぁ!何よ!キッドの事教えてやっただけでも有難く思いなさいよね!!」
「……」
…あれ、れ?
このでっかいドSオーラはヤバい傾向…!
「…帰るぞ」
「えっ!?ち、ちょっと…」
「その生意気な口…」
「へっ…!?」
「帰ったら叩けないようにしてやるから覚悟しとけよ?」
まさか日本に帰って来てまで、全身筋肉痛になろうとはこれっぽっちも思いもしませんでした…。