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Zauber Karte

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Stratagem of Yukiko


ふわふわした感覚の中で、とても懐かしい姿を見た。
あれは……私だ。
それに、あの人は…。
叔母さん?


「叔母さん?」
「なに?優月ちゃん」
「これ、何て書いてあるの?」


そう言って、幼い自分が紙切れを渡す。


「…うふふっ。これ、誰から貰ったの?」
「んと…優月が結婚する人!」
「えっ?」


あ、この場面って…。


「ねぇ、何て書いてあるの?」
「えぇっと…Each other is some each other.I think of you and live…」
「どーゆー意味?」
「そうね…。お互いがお互いの一部。私は貴女を思い生きる…かしら。この子なりに一生懸命書いたみたいね」
「ふーん?」


この時は意味があまり解ってなかったっけ…。


「優月ちゃん、これ書いた人はどんな男の子なの?」
「んーと、頭が良くて物知りでかっこよくて、探偵さんになるって言ってたよ!」
「あら…もしかして新一くん?」
「えっ!?ちちち、違うよっ!!」
「ふふっ。ねぇ、思ったんだけど、優月ちゃんもこの男の子みたいに探偵になってみたら?」
「え…探偵さんに?」
「ええ。そしたらいつか必ず巡り会えると思うわよ?」
「ほ、ほんと!?嘘じゃない!?」
「ええ、ほんとよ」
「じゃあ優月、探偵さんになる!頑張って勉強して、この人に見つけて貰える様に頑張る!」
「うん。優月ちゃんならなれるわよ。きっと…」
「うんっ!」


あれから私は、必死になって勉強を頑張った。
本もたくさん読んだし、知らない事は率先して調べた。
人一倍、努力したんだ。
…でも。
叔母さんが亡くなってから、私はまた一人ぼっちになった。
それからは、有名な探偵になりたいからというよりも、どちらかと言うと寂しさを紛らす為に、毎日を勉強に費やしたんだ…。


「ん…」


柔らかいマットの感触で目が覚めた。
今のは……夢、か。
ふふっ、随分と懐かしい夢だったなぁ…。
…あれ?
ここ、私の家?
いつの間に…。
えーっと…ハンカチ落として、強面FBIがいて、殺人鬼がいて…。


−人が人を助ける理由に、論理的な思考は存在しねーだろ?−


…そうだ。
新ちゃんの言葉聞いたら、気を失っちゃったんだ…。
あれ?
でもどうやって帰ってきたんだろ。


ガチャ


「お。起きたか」
「………」


は?
なんで!?
なんで新ちゃんがうちにいんの!?
なんでうちの場所がわかったの!?
ってゆーか何気に私、パジャマに着替えてるしっ!
…はっ!
ま、まさかこの人が犯人!?
嫁入り前の綺麗な体を見たの!?


「…おい。オメー大丈夫か?」
「は、犯人はあなた!?」
「はぁ?なに寝ぼけてんだよ。…オメー顔赤ぇぞ?熱まだあるんじゃねぇか?」


ギャッ!!
こっ、この人おお、おでこコッツンしてきたっ!
しかも後頭部支えられてるから逃げられないっ…!!
こんなの、アメリカ人もビックリなスキンシップだよ!?


「熱、下がったみてぇだな!」
「…そ、そぉ?」


なにそのキラッキラしたスマイル!!
新ちゃんそれ凶器になるからヤメテ…!!


「ったく、いきなり倒れちまったから焦ったんだぜ?しかも40℃の高熱でよー」
「ご、ごめんなさい…」
「…でもまぁ。一晩寝ただけで治っちまう所は昔と変わんねぇな!」
「どーせ私は元気だけが取り柄ですよーだっ!」
「んな事言ってねぇだろ。…あんま心配かけさせんじゃねぇよ」
「…うん」


新ちゃんの優しく笑った顔久しぶりだけど、やっぱり素敵だなぁ…。


「あ、ねぇ新ちゃん?」
「……」


え!?
なんで睨むのっ!?


「それ…」
「へっ?」
「その呼び方っ!もうガキじゃねぇんだからヤめろよな!」
「…………ぷっ」
「笑うなっ!!」


嘘、やだ!
なにこの子!
めちゃくちゃ可愛すぎなんだけどっ!!


「悪いけどお断りするわ」
「はぁ?何でだよ?」
「…嫌なものは嫌なのよ…」
「……」


だって…。
呼び名だけは、変えたくないんだもん…。


「それよりも!教えてくれない?どうやって私が帰ってきたのかを」
「…あー、そうだったな。今から説明すっから、着替えたらリビング来いよ」
「はーい」


とりあえず着替えて、キッチンでコーヒーとミルクティーを淹れてから一緒にテーブルを囲った。
新ちゃん、この歳で既にブラックを飲むなんて益々嫌味ったらしいなー。
これまた優雅に飲んでる姿が絵になるから腹立つ…!
昔はオレンジジュースとコアラのマーチが常に無いと不機嫌になってたクセに…。
お子ちゃまな私は今も昔もミルクティーLoveだもん!
ふと時間を見たら、もうお昼前。
どんだけ爆睡してんのよ自分…。


「んでそれから…」


新ちゃんの話を要約すると、私が倒れた後、色々あって殺人鬼を見逃したらしい。
でもさっき、遺体となって発見されたとか。
警察側はもう逃げられない、と精神的に追い込まれて自殺したんじゃないか…って結論付けたみたいだけど…。
何か裏がある気がするのは私だけ?
その後、私のケータイから海坊主、基ラディッシュ警部に電話でうちの住所を聞き出し、有希ちゃんにも連絡してパトカーで此処まで私を連れてきたと。
…たまには警部も気が利くじゃん!
着替えは有希ちゃんがやってくれたみたいでひと安心。
よかった…。
無事に貞操は守られた…!


「んで母さんはホテルに帰って、俺はずっと優月の看病をしてた…ってわけだ」
「お疲れ様です」
「オメー、俺に感謝しろよ」
「はい。感謝しております」


でも何で有希ちゃんじゃなくて新ちゃんが看病してくれたんだろ?
有希ちゃんの方が手慣れてると思うんだけど…。
あ、そういえば…。


「ねぇ」
「ぁん?」
「そういえば有希ちゃんと蘭は?ホテルにいるの?」
「…帰った」
「へっ?」
「朝早く電話かけてきやがって、『今から飛行機乗るから』…って」
「え!まさかロスの家に!?此処とは反対側だし遠い」
「日本だよ」
「ああ、日本か…」
「……」
「……ええーーーっ!!?」


ににに、日本に帰った!?
なな、何故息子を置き去る!!
いや、昔から結構放置気味だったけどさ!
でも我が子を海外に置き去りとかあり得……るね、うん。
あの有希ちゃんが母親なら有り得るわ。
なんか新ちゃんが哀れに見えてきた…。
でも本人は気にしてないみたいだし…?
新ちゃんって、あれからも絶対適当に育てられてきたと思う。


「じゃあ新ちゃんはホテルに帰るの?」
「…母さん達、さっさと俺の荷物をクロークに預けて勝手にチェックアウトしちまった」
「……」


…さすがに新ちゃんが可哀想に見えてきた。
有希ちゃんと蘭の考えてる事が全くわからないんですけど…。


「そ、そっか。じゃあ此処にいればいいよ」
「………は?!」
「え?」


何よいきなり!
ってゆーか、何で顔が赤いんだろ?
私の風邪移っちゃったかな…?


「お…」
「お?」
「お、オメーなぁ!」
「…え?」
「そーゆー事を軽々しく言うんじゃねぇ!!」
「ひぃっ!」


新ちゃん怖すぎるよっ!
昨日のFBIの人といい勝負になる位だよ!


「い、嫌なら別に強制はしないけどさ」
「………」
「……どうする?」
「…べ、別に居てやっても構わねぇけどよ」
「うんうん!なら居てよ!」
「俺来週入学式だから、明後日の飛行機で帰っから」
「うんうん!私も明後日の飛行機で日本帰るから丁度いいね!」
「………へ?」
「…あれ?言ってなかったっけ?私日本で一人暮らしするの!」
「………ほ、ほんとかそれ?!!」
「うん!もうアメリカに住んでる意味無いしさ」
「えっ、何で…」
「…叔母さん、2年前に亡くなったんだ」
「あ……そっ、か」
「うん。それに…」
「…ん?」
「新ちゃんと蘭の元に、早く帰りたかったから!」
「…そっか!」


クシャッて頭を撫でてくれる手は、小さい時よりもゴツゴツしてて大きくなってた。
でもそれが、すごく居心地良く感じた。


bkm?

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