smaragd | ナノ

Zauber Karte

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golden appleE


あれから何とか落ち着いた私は、自宅に帰る為、新ちゃんとタクシーの中にいた。
理由はラディッシュ警部が、「今日は事情聴取には立ち会わなくていい」と、珍しく空気を読んだ発言をしてくれたから。
でも私の代わり、有希ちゃんが事情聴取に行く羽目になっちゃったのだけど…。
蘭は先にタクシーでホテルに向かったし、何か、私のせいで1人にさせてしまったと思うと、可哀想な事しちゃったなって胸が痛んだ。
蘭に言ったら、「何言ってるの!」って怒られたけど…。
優しいところも昔から変わらないなぁ…。
……何故新ちゃんも一緒にいるかって?
「女のオメーを1人で帰らすほど、俺は気の利かねぇ野郎じゃねーよ!」とか何とか言ってた。
照れ屋だけど紳士な心は、昔と全く変わっていなくて、少しホッとしたな。


「ん?どうした?優月…」
「え!?あ、ううん…?」
「…まさかローズに言われた事、気にしてんじゃねーだろーな?」


ああ、もうほんっと何も変わってないね新ちゃんは…。
何ですぐ私の心が解っちゃうんだろ…。


「ぜ、全然!気にしてないよっ!!」
「……」


うっ。
隣からの視線が痛すぎる…!
絶対怪しんでるって…。
……あ、そうだ!
窓開けて夜景見るフリして視線から逃げればいいんだ!


「…オメー、窓閉めろよ。風邪ひくぞ」
「ただ今絶賛、風邪っぴきです!」
「え…オメー大丈夫なのか?」
「うん、多分?」
「多分って…」


あっ、雨で内側が濡れちゃってる…。
シャロンから借りパクしちゃったハンカチで拭いとこ。


「あっ…!」


シャロンのハンカチが…!


《すみません、止めて下さい!》


えーっとハンカチは…。
あれ〜?
どこよ〜…。


「おっかしーなぁ。この辺のはずなんだけど…」
「ほっとけよ!たかがハンカチ1枚だろ?」


うわ、相変わらず新ちゃん冷めてる…!
この人益々サディスト精神に拍車がかかってない?
私の気のせい?
ってゆーか、私にとっては大切なハンカチ…


−やっぱり神様なんていないわね−


……え?


−神様がいるのなら、こんな酷い仕打ちしないもの−


「……」


ああ、シャロンはあの時、もうわかってたのかもしれない。


「あ、あれじゃねーか?…誰も住んでねぇみてーだし、すぐ取ってきてやっから!優月はタクシーに戻ってろ!」


そう言って新ちゃんは真っ暗な廃ビルの中へと消えていった。
…シャロンは解ってたんだ。
ただの勘なんかじゃなく、確信、してたんだ…。
…ダメだなぁ、私。
ローズに偉そうな事言っといて…。
もちろん頭では解ってる。
論理的な思考は存在しないって、確かに思うけど…。
でも、気持ちがついてけないよ…。
結果的には、私がヒースを…。


「………え?」


誰か来る…。


「…っ!?」


長髪の日本人!?
あ…そういえば最近、ラディッシュが言ってた…。
長髪の、日系で…若い女性を狙う殺人鬼がどうのって…!
ど、どうしよう…!


《おい!何してる早く乗れ!!そいつはきっと、例の通り魔だ!!》
「あ…」


でっ、でも…!
でも新ちゃんがまだ中にいるのに…!


《くそっ!》
「あ、ちょっ…!」


この薄情ドライバー!
これだからアメリカって国は!!


「日本人か?」
「え…?」
「日本人かと聞いているんだ」
「あ、は、はい…」
「怪しい男を見なかったか?」
「え?」
「長髪を銀色に染めた、ヒゲ面の日本人だ」
「い、いえ…」


ビックリした…。
私からしたらこの男も充分怪しいけど…。


《見つかりましたか?》
《いや、いたのは観光客。どうやらこの通りには来てないようだ》


観光客じゃないわよ。
ってゆーかこの人達…警察の人?
いや……FBI?
何でFBIがこんな所に…。


「とにかくここは危険だ」
「わあっ!!」


ちょ、腕引っ張らないでよっ!!


「あの角を右に曲がれば、表通りに出る。そこでタクシーを拾うんだな」
「あ、でも私、友達をここで待ってるんです!私と同じ年の男の子で」
「じゃあ君とその連れに、もう1度だけ言う。…消えろ!!この場から今すぐに!!」


こ、怖っ!!
なんかどす黒いオーラ出てるよこの人!


《でも大丈夫ですか?彼女を放っといて…》
《問題はない。この通りの出入り口は、既に固めてあるからな…》


やっぱりいるんだ…。
この近くに、例の通り魔が…。
早く新ちゃんに伝えなきゃ…!


「し、新ちゃ〜ん…ねぇ、どこー?」


カッ!!!


「きゃっ!」


…え?
今、何か、赤いのが…


「っ!!…血!?」


まさか、新ちゃんの…!?


「し、新ちゃん!!」


あ、ヤバい…。
熱が上がってきたかも…。
頭が、クラクラする…。
でもしっかりしなきゃ!
新ちゃんは、私がハンカチを飛ばしたせいでここに…。
…そうよ。
みんな、みんな私のせいなんだ…。
ヒースの事だって…
私がローズを助けたからっ…!


カンカンカン


あ、足音…
新ちゃんかな!?


「…っ!!」


ぎ、銀髪!?


「逃げろ優月!!そいつは例の通り魔だ!!」


ど、どうしよ…
あ…足が、動かない…!


「へへへ、そういう事だお嬢ちゃん…」


や、やだ…。


「うまくここへ潜り込んだんだが、あのボウズに見つかっちまってよ…」


嫌だよ!
まだ死にたくない…!


「まあ恨むんなら、こういう結末を用意していた神様って奴を恨むんだな…」


バキッ!!


「わっ…!」


あ、危ない!!


ガシッ!


「何してるの!?早く私の腕に掴まって!!」


あ…ヤバっ…。


「は、早く…雨で手が…」


ガッ!


「えっ…!?」
「くそっ、世話の焼ける野郎だぜ…」


…新、ちゃん?


ガッ、ガッ


「え?」
「お?」


ヒュッ…


う、ウソ…!


スタッ!!


ひゃー…。
すっごい運動神経良い……って、今はそんな場合じゃない!!


「な、なぜだ?どうして俺を助けた?」
「……」
「一体どうして!?」
「フン、訳なんているのかよ?」


…え?


「人が人を殺す動機なんて知ったこっちゃねーが、人が人を助ける理由に、論理的な思考は存在しねーだろ?」


あ、一緒だ…。
…新ちゃんも、私と同じ…なんだ…。
うん、そうだよね…。
だって私達、お互いが、お互いの…。


「お、おい優月っ!?」


一部、なんだもん…ね…。


bkm?

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