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Zauber Karte

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golden apple序章


「アカネ遅いなぁ…。どうしたんだろ…」


ニューヨーク、タイムズスクエアの少し外れにある喫茶店。
珈琲の良い香りが立ち込め、ジャズの軽快なリズムが心地いいお洒落な店内は、多くの利用客で埋め尽くされている。
ただ、店内を見渡しても、目的の人は一向に来る気配が無い。
…私がここに来てから30分。
ミルクティー、何杯おかわりしたんだっけ?
さすがにお腹がタプタプしてきた…。


《優月!待たせてごめんね!》
《アカネ!遅いよっ!》
《練習長引いちゃって…》


やっぱり、アカネは日系だから結構話しやすいな…。
日本語は話せないけど、同じ民族の顔は安心できるんだよね。
12歳差なんて思えない。
ま、家が近所だったから姉妹のような間柄だし、その影響が大きいんだろうけど。


《そうそう!例のチケット、持ってきたわよ》
《えっ、ほんと!?ありがとう!》


今日アカネと待ち合わせた理由は、アカネが2日後に出演するミュージカル、「Golden apple」のチケットを貰う為。
アカネの演じるとこ観るの初めてだからワクワクする!


《……》
《アカネどうしたの?何か元気ないね?》
《え?…ふふ、やっぱり優月には隠し事出来ないわね。さすが名探偵だわ》
《え?一体どうしたの?》


どうやら、劇団宛に奇妙な贈り物が届いたらしい。
金色のスプレーでコーティングされた林檎。
しかも、動物の血で書かれた「最も美しい女性へ」っていうメッセージ付きで。


《でね、優月に頼みたい事があって…》
《あーはいはい。その贈り物の謎を解いて…でしょ?》
《ビーンゴ!!》
《はぁ…。ま、いいわ。ご依頼お受け致しまーす》
《もう!優月大好きっ!》
《当然でしょ?チケット無料でくれたし、そのお礼って事で依頼料はいらないよ》
《あら優月。お姉様からお金取ろうとしてたわけ?》
《冗談よ、冗談!》


日本を離れ、叔父も叔母もも亡くなって、独りになってしまった悲しんでる私を支えてくれたアカネ。
そんな人からお金なんて取れるほど、私は性根は腐ってないわ!


《そういえばアカネ、彼氏は元気?》
《ええ、彼も元気にしてるわ》


ヒースとアカネは美男美女だし、羨ましいカップルだな…。


《…あら。もうこんな時間!》
《えっ、もう休憩時間終わり?》
《ええ。それじゃあ、明後日待ってるわ。またね優月》
《うん、楽しみにしてるね!》


さて、と。
今日はラディッシュ警部からの呼び出しも無さそうだし、久々に公園でバイオリンの練習でもしようかな…。


♪〜


「げっ!こ、この着信音は…」


電話の相手は、私がいつもお世話してあげてるニューヨーク市警のラディッシュ警部。
見た目はスキンヘッドで海坊主みたいな感じの強面なオジサマだけど、私が頭を撫で回しても黙って触らせてくれる心優しい人。
そして奥さんが日本人で日本語が結構話せるから気楽でもある。
…でも、毎日の様にこうやって電話をかけてくる厄介者なわけだ。
ちなみに着信音はダースベーダーのテーマ。
コイツにはこれがピッタリよ!


「…もしもし」
「Hi!優月!」
「あのねぇラディッシュ…Hi!じゃないわよ!どーせまた事件がなかなか解決しないから来てくれ!って電話でしょ!?ったくもー、いい加減に」
「いや、ちょっと違うな」
「…え?違うの?」


ラディッシュが違う用事で電話するなんて珍しい事もあるのねー…。


「なかなか解決しないんじゃなくってな、『事件が起きたようだから一緒に行こう』なんだよHAHAHA!」
「……」


HAHAHAじゃないわよっ!
貴様には警察のプライドはないのかっっ!!
そりゃあ推理は好きだけど、たまには私を休ませてやろうとかそーゆー気遣いは無いわけ!?
このヘタレ、少し前からこんな感じで私は日々頭を抱えている。
…ま、もう半分諦めてるから私も仕方なくいつも頼みを聞いてしまうんだけど。


「優月も推理は好きだろう?丁度いいじゃないか!HAHAHA!」


そ、そういう事を言ってるんじゃなくてっ!


「…はぁ〜。もー仕方ないなぁ」


バイオリンの練習したいのにっ!!


「もう、NY市警ったら…。あれぐらい自分達で解決してよ…」


ちょちょいと事件解決して、今はレストランで1人夕ご飯。
ラディッシュ警部からお礼金を貰ったから、ちょっといつもより豪華な感じにしてみた。
事件解決後はいつも警部からお礼金を貰うっていうのが昔からの恒例だけど、今日は私が初動から入ったからって事で少し奮発してくれたみたい。


−なぁ優月。オメー、シャーロック・ホームズって知ってるか?−
−しゃーろっく?−
−ホームズはな、世界最高の名探偵なんだぜ!頭がキレるだけじゃなく、常に冷静沈着でバイオリンの腕はプロ並み。んでもってあらゆる知識を兼ね揃えた俺の尊敬するうちの1人なんだ!−
−へぇー!すごい人なんだね!−
−ああ!でもホームズは小説の中にしか出てこねぇから実際には存在しない人物なんだけどな…−
−そっかぁ…。本当にいたらいいのにね?−
−まぁな。でも俺、いつかホームズみてぇな名探偵になりてぇんだ!世界最高の名探偵にな!−


……私が世間から名探偵と言われるまでになった経緯。
1番のきっかけになったのは、あの雑学王子かな……。
あーダメダメ!
あんな子供の頃の話は。
涙出ちゃいそうになる…。
ああ、こんな昔の事をいつまでも思い出しちゃうなんて…。
あんまり考えないようにしよ。


「ただいまー、おっかえりー…」


相変わらず返事してくれる人なんて居ないから、代わりに自分で返すこの遊びもだいぶ板についてきた。


「さて、お風呂お風呂…」


叔父さんは私がアメリカに来て1ヶ月後に亡くなり、叔母さんは2年前に病気で亡くなってしまった。
その影響か、最近1人になると物凄い孤独感に襲われ、寂しくなる事がよくある。
多分、まだ叔母さんの死から立ち直れていないっていうのもあるのかもしれない。
しっかし、今日も疲れたなぁ…。
皆の前で推理を披露してる時、立ちっぱなしなのがつらい…。
お陰で足がパンッパン!
別に座ってても良くない?
なんで探偵=立ちなの?
常識覆してやろうかな…。
あ、そういえば新ちゃんと蘭は帝丹高校よね?
きっと。
私が日本に帰ってきたなんて、会ったらビックリするかな〜?
ふふふっ!
ってゆーか私もバカよね〜。
手紙書こうと思ったら、住所聞くの忘れてたってゆーオチ。
叔母さんには遠慮しちゃって聞けなかったし…。
それにしてもミュージカル楽しみだな〜!!
何着て行こっかな。
この前買った白いワンピ着てこうかな。
うん、そうしよう!


bkm?

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