激しく重なり合う身体と唇。
強く絡み合う指先。
その全てから、新一の熱い想いが嫌という程伝わってくる。
「っ……優月」
言葉なんか無くてもいい。
「新、一っ…」
ただお互いの名前を呼ぶだけで、気持ちは簡単に伝え合う事が出来る。
握り合う手の強さだけで、その気持ちの大きさを量る事が出来る。
それでも次々と溢れ出してきて、止まらない想い。
我慢出来ないほどに加速していく愛しさ。
次第に耐えきれなくなって、唇が腫れる程お互いを求め合おうとする私と新一。
こうやって、心にも身体にも、新一自身が目一杯入って来てるのに…。
「新一、もっと…」
まだ足りないと思ってしまうのは私が欲張りだから…?
「もっと…、欲しい…」
目の前に映る新一の額には、暗闇で見ても分かるほど沢山の汗が浮かんでいた。
…きっと、私も同じかもしれないな。
「っ、そんな顔…するんじゃねぇって…」
「え…?」
「止めらんなく、なっちまうじゃねぇか…」
「…新、一?」
息を荒くしながらそう話す新一の言葉に、今自分がどんな顔をしてるのかなんてピンと来なかった。
「私…どんな顔してるの…?」
恐る恐る聞くと、新一は口角を上げたまま顔を近付けてきた。
「…それは俺だけの秘密だ」
そのまま激しく唇を奪われ、何も言えなくなってしまった。
でもすぐに新一から与えられる快感の虜となり、もう何も喋れないし、何も考えられない。
どちらともなく握り合った手は、より一層強く、固く結ばれる。
私達の熱い吐息は、夜の闇へと静かに溶けていった。
「…なぁ、優月」
「んー?」
膝枕をしながら少し汗ばんだ新一の頭を撫でていると、ずっと夜空を眺めてボーッとしていた新一が口を開いた。
「向こうでの生活が落ち着いたらさー…。するか?」
「するかって…何を?」
「……その……結婚、ってヤツをさ…」
目を泳がせながら、でもハッキリとした口調で言った新一に、それまで撫でていた手が勝手に止まった。
−新一が相手だったら学生結婚もアリだと思うよ?−
「…蘭と園子に感化された?」
「バーロ!そんな大事な事アイツらに決められて堪るかよ!」
うん、それもそうよね。
人生の分かれ道を第三者に決められるなんてそんな事…あれ?
でも私の人生って新一に決められてる感が…。
「…で、どーなんだよ!?さっさと聞かせろよ返事!!」
ガバッと飛び起きた新一の顔は真っ赤になっていた。
ここで冗談でも断ったら何されるかちょっと気になるかも…。
「…そんなに私と結婚したいんだったら仕方ない、してあげ」
「オメーはこーゆー大事な時によくそんなふざけた事が言えるなぁ」
「…よ、よろひくお願いひまふ」
実は心臓が2、3秒止まるぐらいビックリしたんだよ、っていう事は悔しいから内緒にしとこ…。
「ねぇ新一」
「あん?」
「Moon Riverの歌詞って知ってる?」
「歌詞?…そういや曲調しか知らねぇな」
「じゃあ教えてあげる、Moon Riverの歌詞。あのね…」
私が耳元で小さく歌いながら教えると、新一は少しだけ顔を赤くしながら「サンキュ」と答えてくれた。
さっきまでの態度とは正反対な様子で、少し照れた新一が愛しく思えて、思わず新一のおでこにキスを落とした。
「…不意打ちは反則って言ったのはオメーじゃねぇか」
「ふふっ、キスのやり方にルールも何も存在しないって私に教えてくれたのは新一だよ?」
「ったく…」
ただついてゆくだけじゃなく、新一がくれた1つの夢に向かって、希望を持とう。
そう思いながら、私の頬に手を伸ばしてきた新一の少し汗ばんだ手に、自分の手を重ね、指を絡ませた。
Moon River,wider than a mile.
(遥か遠くの 川面に映る月影のよう)
I'm crossing you in style someday.
(そんなあなたをいつか優雅に渡ってみせるわ)
Old,dream maker,you heart breaker
(夢をくれ、痛みを残していった)
wherever you're going I'm going your way.
(そんなあなたに、どこへだってついてゆく)