smaragd | ナノ

Zauber Karte

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深夜の外出


「ええっ!?は、犯人が分かった!?」


ほら、私がいなくたってあっという間に解けちゃうじゃない…。


「工藤くんと服部くんがそう言っているんですね?分かりました!3人を連れてそっちへ向かいます!…じゃあ車で送りますからこっちへ!」
「優月ちゃん!あたしらも行こ?」
「ううん、私はいいよ。ここで夜景でも見てるから…」


どうせパパッと終わらせてすぐ戻ってくるだろうし…。


「何アホな事言うてんねん!自分の彼氏が活躍するトコ見たないん!?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
「走るで!!」
「あっ、ちょっとー!!」


寧ろ和葉ちゃんが平次くんの勇姿を見たいんじゃないの?って思ったけど、そんな事言っても真っ向から否定されて終わるのが目に見えるわけで…。
まぁ、久しぶりにカッコよく活躍する新一を見られるのは嬉しいし、いっか。


「溝端理子さん、署までご同行を…」


…って!!
間に合わなかったとかどんだけ早いのこの2人っ!!


「えーっ!?もう終わってしもたん!?」
「おー和葉!やっぱ工藤がおると調査もスムーズでサクサク進んだわ!…って何や優月、エライふくれっ面やな?」
「…別に!」


なーにがサクサクよ!
少しは気を利かせて私達が来るまで待っててくれたっていいじゃない!


「ははーん?さてはお前、工藤のかっこええとこを拝み損ねたもんやからガッカリしとるんやろ?」
「べっ、別にそういうんじゃ」
「あのキザ、相変わらずかっこええ事言うとったで〜?」
「……ほ、ほんと?」
「おう!でも俺と工藤だけの秘密や!ひ・み・つ!」
「…」


この工藤病め!!


「ま、俺も鬼やないし…お前には教えてやらん事もあらへんけど…?」
「な…何よ?」


嫌な予感…。


「さっき旅館の裏庭で工藤と話しとった内容教えてくれるんやったら、考えてやってもええで?」


裏庭…?


「あれ?でも平次くん、盗み聞きしてたんじゃ…」
「いやそれが…アイツにバレて移動してからは距離が遠くてよう聞き取れへんくてなぁ…」
「…ふーん?」
「どや?ナイスな取り引きやろ?」
「まぁ…別にいいけど…」
「ホンマか!?せやったら、工藤が来る前にはよ教えろや!」
「う、うん…」


えーっと、確か新一と話した内容は……。
誠さんに近付かなかった理由を聞かれて、それからえっと、手を握った事を怒られて…それから……。


−何で赤なんか履いてんだよ?−


……あ。


「おい!なにモタモタしとんねん!工藤が戻ってきてまうやろ!?」
「……」


い、言えない…!
こんな事をこんな公衆の面前で言えるわけがないっ!


「や、やっぱりこの話は無かった事に…!」
「はぁ!?おいっ!ちょー待てや!」


あんな事、平次くんに喋ったなんて新一にバレたら何されるか分かんないもん!


「新一!お疲れ様!」
「ああ、優月…。オメーいつからいたんだ?」
「溝端理子さん、署までご同行を…から」
「じゃあ事件の真相聞いてねぇのか…」
「ああ、別にいいの。それより新一に聞きたい事あるんだけど…」
「え?」
「推理ショーはどうやって締めたの?ほら、何かかっこいい事言ったんでしょ?」
「いや、別に大した事は言ってねぇよ。ただ俺の中で納得出来なかった事を犯人に言ってやったまでだ…」
「…」


そんな事言われたら余計気になるじゃん!


「優月ちゃん優月ちゃん!」
「うん?」
「平次のケツ引っ叩いて聞きだしてきたで!工藤くんが最後、犯人に向かって言った内容!」
「えっ、ほんと!?」
「うん!あんな?」


和葉ちゃんから新一が何て言ったのか聞いて、ああ、やっぱりこの人は恋人以前に探偵としても、そして人間としても、心から尊敬出来る人だなって感じた。
私は、新一のお荷物になっちゃいけない。
いくら寂しくても、我慢して彼の背中を押してあげなきゃ、って。
ここは感情を隠して、笑顔を作って応援してあげなきゃいけない時なんだ…。


「ほな優月ちゃん、またなー!!」
「工藤!近いうち大阪来いや!うまいお好み焼き食わせたるさかい!」


浪花のカップルは空港に向かう為に、小五郎ちゃんの車で帰っていった。
私達はというと…。


「ていうか、何で博士がここにいるの?それに哀ちゃんまで…」
「そこのお騒がせ名探偵が記憶喪失になったって聞いてわざわざ駆け付けたのよ。で、帰り際に工藤くんから事件発生のメールを貰ってずっと待機してたってわけ…」
「な、なるほど…」


新一は博士や哀ちゃんを巻き込む事について、何の抵抗も無いのかもしれない。
久しぶりに堂々と推理が出来てご満悦なのか、私の手を握りながらニコニコと窓の外を眺めてるあたり、そう見受けられるわ。


「せいぜい博士に感謝するのね。あなたの正体があの2人にバレなかったのは、旅館の名前を覚えててくれた博士のお陰なんだから…」
「へいへい、感謝してますよ…」
「…」


この人、ホントに感謝してんのかな…。
そう思ったのは私だけじゃないはず。


「…で?」
「え?」
「あの人にどう言い訳するつもり?先に帰ったはずの江戸川コナンくんが事務所にいない事については…」
「それなら心配いらねぇよ。博士んちに泊まってるって事になってるから」
「あら、珍しい事もあるのね。てっきり何も考えてないのかと思ったわ」
「おいおい…」


新一と哀ちゃんのこんなやり取り見るの、何だか久しぶり…。
博士の運転するビートルに揺られながら、通り過ぎる街並みを眺めている内に、いつの間にか私の意識は深い闇の中へと堕ちて行った。


「ぅ、ん…」


温かくてふわふわと柔らかい感触がして、重たい瞼を開けると、見慣れた天井が視界に写った。
……ここ……私の、部屋…?


「起きたか?」
「…新一…」


椅子に座ってた新一が、バサッと音を立てて何かを机に置き、私が横になってるベッド脇に腰掛けた。
何だろう、あの大きい封筒…。
私…あんなの持ってたっけ…?


「あ…ごめん新一…。私、いつの間にか寝ちゃってて…」
「気にすんな。今回は珍しく事件のオンパレードだったし…。精神的に疲れたんだろ」


そう言いながら、新一の手のひらが私の頬を優しく撫でる。
…そう、目の前で立て続けに事件が起きると意外と疲れるものなんだ。
……何も考えてなくてもね。


「…新一は眠くないの?」
「…ああ、俺は平気。考え事をしてたってのもあるけど…」
「…考え事?」


何だろう…。
村から帰る時の新一の発言もそうだけど、あの封筒と何か関係が…?


「…なぁ」
「うん?」
「今からちょっと付き合ってくれねぇか?行きてぇ所があるんだ」
「…え?」


今からって…。
外は真っ暗だし、一体今何時なのかも分からないのに……。


「って、嘘っ!?もう夜中の1時じゃない!ど、どうして起こしてくれなかったのよ?!っていうかこんな時間に一体何処に」
「それだけ元気があるなら問題ねぇな。行くぞ」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってよ新一っ!!」


慌ててベッドから降り、先に玄関へと向かう新一の跡を急いで追った。
…あれ?
何で新一、私のバイオリンケースなんか持って…。
それにさっきの封筒も……。


「おい、早くしろよ。置いてくぞ?」
「ま、待ってよ今靴履くからっ」


新一に無理矢理連れ出された外は、当たり前だけどもう闇に包まれていて、少しだけ冷たい秋の風が寝起きの身体を刺激した。


「オメー、もう少し早く歩けねぇのかよ?」
「だ、だって寝起きだし…」
「…ったく、しゃーねぇなぁ」
「え、何が……っ!?ちょっ、何なのいきなりやめてよ!」
「うるせぇ黙れ。道端で犯されてぇのか」
「お、おかっ…!?」


そ、それは何が何でも絶対に避けたいし未然に防ぐべき事案だけど…!!
でも何で急にお姫様抱っこなんてするの!?
しかも外だよここ!!
恥ずかしいから降ろしてと懇願しても、新一は「誰も見てねぇしいいだろ」って言うだけで、私を何処に連れてくつもりなのか、どうしてバイオリンなんか持ってるのか聞いてもただ「行けば分かる」の一言で済ますばかり。
いや、確かに行けば分かるけどさ…。
何故バイオリン片手?
そして何故、こんな夜中に外へ?
新一は私を、何処へ連れ出す気なの?
寝起きの頭じゃ予想すら出来なくて(そうじゃなくても無理だけど)、ただ黙って歩く新一の横顔を見ている事しか出来なかった。


bkm?

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