smaragd | ナノ

Zauber Karte

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DV疑惑


「じゃあとりあえず、被害者の車の所に案内してくれる?」
「ええ!」
「もちろんや!」
「んじゃ俺も…」


目暮警部は小五郎ちゃんの事を疫病神だって言ってたけど、私からしてみればこの2人も筋金入りの疫病神だと思う。
まるで何かに導かれるかの様に、殺人事件に遭遇してしまうこの2人の男。
それが死神の誘いなのだとしたら、近いうちにきっと私は命を落とすかもしれない。
…お祓い、行かせようかな。


「それじゃあ高木くんは、料金所の封鎖を解いてその容疑者3人とここで待機してて!鑑識さん達は私が呼んでおくから」
「はい!」


やっと事件解決して、あとは新一の話を聞くだけだと、ホッとしたのも束の間。
車内でほんの少しウトウトしていた間に、目の前に突然死体が運転する車が現れ、早速この事件大好物の2人が飛びついた。
絶対何かトリックがあるのだろうけど、あの記憶喪失の事件があってか、もう考えるのも何だか…。
それに私が推理しなくても、この2人が手早く解決してしまうだろうし…。


「おい優月!聞いてんのか?」
「えっ?ああ、新一…どうしたの?」
「どうしたの?じゃねーだろ、ったく…。ほら、さっさと被害者の車調べに行こうぜ」
「あ、ちょっ…!」


久しぶりに堂々と調査が出来る嬉しさからか、私を引っ張る新一の足取りが妙に軽い気がする。


「わ…私はいいから!」
「…え?」
「あの…今日は何だか疲れちゃって…」
「……」
「だから新一は平次くんと行って?ね?」
「…なぁ優月、」
「うん?」
「ちょっと言ってる意味がわかんねぇんだけど」
「……ハイ?」


こっちは新一の言ってる意味がわからないんですけど…。


「まず、事件が起きたら誰の出番だ?」
「え?あ…け、警察…?」
「あとは?」
「えっ、と…」
「もちろん探偵の出番だよな?」
「え…う、うん…?」
「オメーは探偵だよな?」
「う…うん…」
「だったら行くのは当然だよな?」
「えっ…あの、その…」
「…オメーに拒否権ねぇから」
「ひっ…!」


こ、怖い…!
周りに人がいる手前、すっごい笑顔作ってるけど目が笑ってないし何より新一の周りに渦巻くオーラが…!!


「で、でも今回は平次くんもいるし私の出番は」
「事件に探偵の人数制限ってあんのか?」
「う…」
「ほら、ねぇだろ」
「っ…いや…でも、」
「ま〜だ何か言い足りねぇってのか?ああ…?」
「そ、そんな事は…!」


ヤバいヤバい本当にヤバいってコレ!!
怖いよ誰か助けて…!!


「まぁまぁ!ええやないか工藤!コイツがおらんでも、俺とお前だけでパパッと解いてまおうや!な?」
「へ、平次くん…!」


この色黒が神のように輝いて見えるなんて初めて…!


「んだよ服部…邪魔すんじゃねーよ」
「ほな和葉は優月とそこで大人ししとけよー!おっしゃ、行くで工藤!」
「あっ、おい!!」
「2人共頑張ってなー!」


よ、良かった…。
珍しく平次くんが私の意見を聞いてくれたお陰で新一から逃げられた……あれ?
って事は、きっと何か裏がある?
それとも無理矢理恩を売られた…?


「なぁ優月ちゃん、ちょっと聞きたい事があんねんけど…」
「え?何?」
「あ…あんな?工藤くんの事なんやけど…」
「新一の事…?」
「その…く、工藤くんて…あんな可愛い顔しとるけどホンマは極悪人だったん!?」
「え…ええっ!?」


なっ、何を言い出すかと思ったら…!


「だってさっき裏庭でめっちゃ頬っぺ伸ばされとったやないか!優月ちゃん、いっつもあんな事されてるん!?」
「いや…いつもってわけじゃ」
「ホンマに!?DVとかされとるんやないん!?」
「そ、そんな事無いよ!普段はすごく優しいし、それにさっきのあれは私が悪かったから罰みたいな感じで寧ろもっと痛い事してくる時も」
「はあっ!?有り得へん!!やっぱDV男なんやな!!」
「あ、いや、違くて、」
「何が違うん!?痛い事って言ったら、殴られたり蹴られたりされてんねんやろ!?そんな暴力男、アカンよ優月ちゃん!!」
「だ、だから」
「あーもう!!何で今まで言ってくれなかってん!?なんぼでも相談乗ってあげてたで!?」
「いや、だから新一はDVなんか」
「よっしゃ、決めた!」
「え?」
「うちがもっとええ男紹介したる!暴力なんか絶対振らん、頭の切れる男をな!」
「ちょっ…だからいいってば!!」


関西人て、ヒートアップすると人の話に耳を傾けないとかそういう特徴でもあるのかな…。
なんかもういちいち説明するのも疲れる…。
あ、そういえば蘭にメールしようと思っててすっかり忘れてた…。
でもおかしいなぁ…。
どうして蘭は学校に泊まるだなんて小五郎ちゃんに嘘ついたんだろう…?



「…で?」
「うん?」
「優月ちゃんはどんな顔の男が好みなん?やっぱ工藤くんみたいに美形な子がええ?」


こ、この子本気だ…!!
私と新一を別れさせようと本気になってる!!


「いや、だから和葉ちゃん?ちゃんと聞いて欲しいんだけど…」
「え?何?工藤くんみたいな美形はもう飽きたん?」
「違うって!!新一はDVなんかしてないって言いたいの!!」
「はぁ?何言うてんねん!さっきDVに悩んどる言うたのはそっちやん!あ、もしや次の男にまた暴力振るわれる思てイマイチ踏み込めへんのやなぁ?だーい丈夫やって!うちが紹介する男はそんなんせぇへんから!」
「いや…もうホント違うから…」
「優月ちゃん目ぇ覚まし!」
「痛っ!」
「パートナーのDVに悩んでる人はな、みんな自分が悪いって思い込んでんねん!でもホンマは違うんや!だから優月ちゃん、ここは思い切って進もう!いつまでも縛られたままじゃ前には進めへん!!」
「……」


うん…悪い子じゃないのよ。
寧ろいい子よ、うん…。
別れさせようとするのも頬っぺた思いっきりビンタしてきたのも私を心配しての事であってそれは心の純粋さ故の事で…!


「あ、この人なんかどう?優月ちゃんと相性合うと思うで?何てったって優しいのがウリやからな!」
「あの…和葉ちゃん、」
「あ、コイツもええなぁ!今フリー言うてたし!」
「いい加減に…」
「んー、せやけど優月ちゃんの性格に合う男ゆうたらやっぱ隣のクラスの」
「人の話を聞けーーーーっ!!!」
「……な、何なん?急に大声出しよって、」
「いい!?私がいいよって言うまで和葉ちゃんは口を挟まないで!分かった!?」
「ハ、ハイ…」


いい子すぎて憎めないから困るのよ…!!


「…コホン。さっき新一に頬っぺつねられてたのは日常茶飯事なの」
「ほら!せやからそれがDV」
「和葉ちゃん?」
「あ…ごめん…」
「…確かに痛いけど、あれは新一の癖っていうか…。うまく言えないけど、平次くんが和葉ちゃんにアホ!って言うのと同じ感覚なの」
「…つまり悪気は無いって事?」
「そういう事」
「け、けどさっきのは何なん?もっと痛い事してくる言うとったやん!」
「あ、あれは…」
「ねぇ、何なん?」
「……」


純粋な友達にこんな事を教えるのは気が進まないけど…まぁ、この際仕方ないよね…うん。


「…耳、貸して?」
「え?何で?」
「その…あまり大きい声では言えない事だから…」
「うん?…………えっ!?」
「…ね?DVじゃないでしょ…?」
「せ、せやな…うん…」


顔を赤くして黙り込んでしまった和葉ちゃん。
…私だって他人に言いたくなかったよこんな恥ずかしい事!!


「だ、誰にも言わないでね!?蘭や園子にすら言ってないんだから…!」
「あ、当たり前や!心配せんでも言わへんって…。こ、こんな顔から火が出る様な事…」
「…だよね、ごめん…」


赤くなった顔をみんなに見られない様に、和葉ちゃんと一緒に高速道路から見える夜景を眺め続けた。


bkm?

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