smaragd | ナノ

Zauber Karte

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聞けない、聞きたくない


私の事は、気にしないで。
毎日電話するし、メールだって、手紙だってたくさん書く。
離れたって、私は平気だよ。
だから新一は、1日も早く、組織をやっつける事だけを考えて過ごして。
私は、大丈夫だから。


「…話って、何?」


そう言おう。
ちゃんと応援してあげなきゃ。
新一のお荷物にだけは、絶対になりたくない。
私に出来る事は、ただ笑顔で励まして、背中を押してあげる事。
…それしか無い。


「…なぁ」
「…ん?」
「オメー何で誠人さんに近付かなかったんだ?」
「………えっ!?」
「いや、服部が言ってたから気になってさ…。いくら偽物とはいえ、見た目は俺だろ?何でよそよそしい態度とってたんだよ?」
「…」


今日は予想外な事が起こりやすい日なのかもしれない。
てっきり、新一のロンドン行きの話かと思ってた…。


「…分かんない」
「えっ…分かんねぇって、一体どういう事だよ?」
「そのままの意味よ。新一が川で発見された瞬間から、ずっと変な違和感は感じてた。でも…その違和感が何だったのか、事件が解決した今でも分かんない…」
「……」


私から、切り出した方がいいのかな…。


「…なぁ、」
「えっ?」
「もしかして、これの事じゃねーか?その違和感の正体って」


新一はおもむろに上着を脱ぐと、自分の肩を指差して言った。


「…なに?」
「だーかーら!ここだよ、ここ!よく見ろって!」


私の返事に若干イライラしたのか、声を張り上げる新一。
そんなに怒らなくたっていいじゃない!
っていうか、肩に何があるっていうのよ…。
引っ掻いたような傷跡が残ってるだけで…。


「…あっ!」


そうだ、あの時…!


−いっ!痛いやめて新一っ!痛いよやだっ!!−


ロンドンで新一にしがみついた時に出来た傷…!
そういえば…あれから随分経ってるけど、この村に来た時はまだうっすらと傷跡が残ってたような…。


「ったく…。オメー探偵だろ?何ですぐ気付かなかったんだよ?」
「だ、だって仕方ないじゃない!新一が記憶喪失なった事で頭いっぱいだったし、それに…」
「…それに?」
「っ…」
「…何だよ?」
「な、何でもないよ別に!」
「…」


しばらくの間、長い沈黙が流れる。
正直、今すぐ新一に問い詰めたい。
どうして勝手に決めちゃうの?
なんで私に一言言ってくれなかったの?って。
でも、そう言って何になる?
新一が困るだけで、お互いの為になんかならない。
やっぱり、新一から言い出してくれるのを待つしか…。


「なーにやってんだよ、オメーら」


俯いてた顔を上げると、目の前にいた新一の姿がいつの間にかいなくなっていた。


「い、いや、何やお2人さんえっらい遅いなぁ思て和葉と様子見に来たったんや!なぁ和葉?」
「はぁ?何言うてんのん!工藤が何かやりよるからちょっと覗きに行こう言うて無理矢理」
「へぇー…。服部オメー、盗み聞きするとはいい度胸じゃねーか…」
「ぬぬぬ盗み聞きなんて人聞きの悪い事を工藤くん!ほ、ほら、優月ちゃん待ってんで?俺らに構わんで早よ行ってやりぃ!」
「…」
「…」
「…」
「…ん、なぁ平次?」
「あ?」
「工藤くんのオーラが急に変わった気ぃすんのはうちだけやろか?」
「……い、いや、そうでも無さそうやで?」
「テメェら早く消えろ。さもねぇと和葉にバラすぞ?服部が和葉を」
「わーわーわー!!」
「何やの平次?いきなり大きい声出して…」
「な、何でもないわ!行くぞ和葉!これ以上ここにおったら危険や!」
「あ、ちょっと平次!?」


…平次くん、まだ告ってないんだ。
早く付き合っちゃえばいいのに。


「悪ぃ、邪魔が入った」
「ううん、平気…。ていうか、話ってそれだけ?」
「いや、あと2つある」
「2つ…」


その2つのうちに、私が一番聞きたい事は入ってるのかな…。


「俺さぁ、オメーに言ったよな?次はねぇって」


……ん?


「あの…新一さん?」
「あ?」
「な、何か怒ってます…?」
「怒ってます?じゃねーよバァーカ!!」
「バ、バカって酷い…!」
「言っとくが俺はしっかりこの目で見てたんだからな?オメーが夕べ、誠人さんの手握ったのをなぁ!」
「は!?え、えっと、いや、あああ、あれは和葉ちゃんが急に押してきてそれで!」
「ふーん…?この俺に言い訳するとはいい度胸じゃねーか。なぁ優月?」
「えっ…あの…新一?」
「オメーはいつからそんなに口が立つ様になったんだよ、ああ?」
「い、いひゃい…!」
「誰にモノ言ってんだっつってんだよ!」
「め、めっひょうもありまひぇんゆるひへふははいひんいひひゃま…」
「…ま、今回は俺も迷惑かけちまったし?特別に見逃してやるよ」
「か、かんひゃひまふ…」
「念の為に言っとくが、次はねぇからな?」
「は、はい…」


新一に伸ばされてたほっぺがじんじんと痛む。
嫉妬されるのは嬉しいけど、このSな性格どうにかなんないかな…。
ああ、怖かった…。


「それともう1つ、オメーに聞きてぇ事がある」
「っ…な、何?」


心臓の音が筒抜けになってるんじゃないかってぐらい、緊張してきた。
ちゃんと言えるかな。
夢と同じ様に、新一の背中を押せるかな。
そんな一抹の不安が過る。


「何でそんな色履いてんだよ」
「……は?」
「は?じゃねーよ。下着だよ、下着!」
「…し、下着ぃ?」


えっ、進路の話じゃ、ないの…?


「何で赤なんか履いてんだよ?」
「な、何でって…。特に意味なんかないけど…」
「はぁー…。あのなぁ、俺は普段コナンになってんだからそんな派手な色履く必要ねーだろ?誰に見せる前提なんだよテメェ」
「……」


えっ、なにこの人…。
まさかこれを聞く為だけに神妙な面持ちでここに私を呼び出したの?


「明日から元の俺に会う時以外は違う色にしろ」
「ちょ、ちょっと待っ」
「返事」
「え…あの」
「返事が聞こえねーんだけどなぁ!!」
「…分かり、ました」
「ん…。じゃあおっちゃん達待ってるし、そろそろ行くぞ」
「…」


別に何色履こうが私の勝手じゃない!って言えたらどんなに楽か…。
もう逆らう気力も無いし別に拒否する理由もないし?
でもちょっと悲しくなったってゆうか。
新一にとっては、ロンドンに行く事なんかもう今更話題に出す事じゃ無いのかなって。
私の事、置いてっても別に平気なのかなって…。


「あ、優月」
「え?」
「言い忘れてた事があったんだけど…」


ま、まさか…!!


「色はグレーな」
「…」


少しでも期待した私って、バカみたい…。


「…ダサいからせめて白がいい」
「バーロォ、白なんか論外だ論外。グレー持ってねぇんなら明日買いに行け。分かったな?」
「…はい」


あとで和葉ちゃんに相談してみようかな…。
あの子、結構ズバッと言ってくれるし。
何かアドバイスくれるか、も…って、


「っ…新、一?」
「あの事は、」
「えっ?」
「この前の続きは、帰ってから話すから…」
「…」
「オメーにまだ言わなきゃなんねぇ事あるし」
「…1つだけ、聞いてもいい?」
「ん?」
「その言わなきゃいけない事って、私にとって嬉しい事?悲しい事?」
「…分かんねぇ。それは優月次第ってところだな」
「…そう」


東京に着いてから。
そしたら、とうとう切り出されるんだ。
聞きたい様な聞きたくない様な、そんな複雑な心境の中、久しぶりに感じる新一の温かな胸に顔を埋めた。


bkm?

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