smaragd | ナノ

Zauber Karte

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キミが居ない


「何ぃ!?行方不明やとぉ!?ホンマかそれ!?」
「ええ、半年前に捜索願いが出てますよ」


新一に話があると呼び出した張本人、屋田誠人が行方不明だという事実に声を張り上げて驚く平次くん。
村の人達は「都心でバイトでもしてんじゃない?」なんてのんきに言ってるみたいだけど…そんなんでいいの?


「それで?屋田誠人くんに何の用で?」
「先週そいつから手紙もろたんや。1年前にこの村で起きた殺人事件を解いた工藤の推理ミス、会うて話したいってのぉ!」
「え?誰だって!?」
「せやから、工藤新一連れて来いちゅうて」


平次くんの言葉に、ざわっ…とどよめきが走ったのを感じた。


「えっ…」
「な、何なん?」


何だか、新一の名前が出た瞬間空気が変わった様な…。


「嘘つきだ!」
「え?」
「お前ら、あの嘘つきの仲間だな!?」
「う、嘘つき…?」


どういう事…?
何で新一が嘘つき呼ばわりされて…。


「とにかく!事件の事なら村の交番で!我々からあなた方に話す事は何もありません!」


なにか触れられたくない事でもあったのか内心気になりながらも、これ以上しつこく聞けば村から追い出されかねない。
そう判断し、私達は渋々役場をあとにした。


「ったく、何やらかしたんだ?あの探偵坊主…」


多少ニュアンスは違うけれど、私も小五郎ちゃんと同じ事を考えていた。
何があったんだろう、この村で…。
まさか新一、本当に推理ミスしたんじゃ…?
ううん!
新一に限ってそんな事あるわけ……いや、たまーにあの人重要な事見落としたりするからもしかしたらって場合も…。


「なぁ優月、」
「え?」
「お前、工藤から何か聞いてへんか?」
「あ…うん。私は何も…」


ちょっと聞きづらいけど、新一にこっそり聞いてみようかな…。


「…って、あれ?コナンくんは?」
「ああ、あのガキなら先に旅館に戻ってるってよ!風邪が悪化でもしたんじゃねぇか?」
「えっ!?」


旅館に戻ったぁ!?
あの事件大好きな新一が風邪ごときで自分の推理ミス疑惑を放置して!?
まさか新一、1人で再調査しに行ったんじゃ…!


「っ、」


ううん、決めつけるのは良くないよ。
万が一って事もあるかもしれないし…。


「じゃあ私も旅館に行ってみる!コナンくん1人じゃ心配だもん!」
「ほんならあたしも交番行って話聞いたらすぐ戻るわ!」


予想はしてたけど、やっぱり新一は旅館に戻ってなんかいなかった。
他を捜してみようかと一瞬思ったけど、初めて来た事もあってどこに何があるか分からないから捜しようが無いし…。


「新一のバカ…」


一体どこに行っちゃったのよ…。
途方に暮れながら畦道を歩いていると、野菜が沢山詰め込まれた籠を背負った初老のお爺さんが前から歩いてくるのが見えた。


「あ…あの、すみません!この辺りでメガネをかけた男の子を見ませんでしたか!?」
「え?」
「小学1年生の男の子なんですけど…その…迷子になってしまって…」
「ほぉ…迷子…」


藁をもすがる思いで訪ねると、お爺さんは顎に手をやりながらしばらく考え込んでしまった。


「あ…そういやぁマスクをつけた少年なら、1人で森の中に入って行くのを見た様な…」
「ほっ、本当ですか!?」
「…はて、どうじゃったかのー?」
「…え?」
「言われてみればメガネもかけてたと思うが、少年じゃなく青年だった様な気も…いやいや或いは少女だった様な…」
「あ…あの…?」
「ああ、すまんのぉお嬢さん…。ワシは見ての通り年寄りじゃ。あまり記憶力には自信が持てん…。他を当たってくれんか?」
「……そう、ですか…」


お爺さんの言う事が本当だとしたら、何で新一は1人で森なんかに…。
ああ、もう!
こんな事なら行く前に事件の事ちゃんと聞いておけば良かった!
どうしよう、この辺りは圏外だからケータイ使えないし…。


「ちょいとお嬢さん」
「え?」
「その少年とやらはお前さんの弟かい?」
「あ、えと…」
「子供1人で森の中に行くなんてエライ事じゃぞ。死羅神様に魅入られたりでもしたら生きては帰れん…」
「え…?」


しら、がみ…?


「そうじゃ、交番に行ってみるといい。城山さんは親切なお人じゃ。きっとお嬢さんの力になってくれるじゃろう…」
「あ…わ、分かりました!ありがとうございます!」


そうよ!
交番に行けば和葉ちゃんがいるはずだし、みんなと落ち合って探し回った方が効率がいい!
でも、さっきから感じるこの妙な胸騒ぎは何だろう…。
嫌な予感がする…。


「コナンくーん!」
「どこやのー!?」
「出て来ーい!!」


新一のバカ!
一体どこ行っちゃったのよ!!
こうやってみんなで探し回ったって、結局見つからないし…。


「コナンくーん!!どこー!?」


いつもそうよ…。
こうやって1人で突っ走って、いつもみんなに迷惑かけて…。
今更出てきたって、もう当分仲良くしてやんないんだから!


「優月、ちょっとええか…?」
「え?」


新一に対して怒りを感じていた時、それまで離れた所で探してた平次くんが、妙に険しい顔をしながら近付いてきた。


「お前、工藤から何か聞いてへんか?」
「え…またその質問?さっきも言ったけど、私は新一からは何も」
「あ〜ちゃうちゃう!事件の事やのうて手紙の事や!」
「て、手紙…?」
「ここに来る前、工藤から手紙を見せられたりしてへんか?それか最近、妙な内容の手紙が来たとか…」
「う、ううん?特に聞いてないけど…」
「はぁ…せやろなー…。プライドの高いアイツの事やから、絶対お前には話してへんとは思っとったわ…」


頭を抱えながら、平次くんはため息混じりに呟いた。


「実はな、俺宛に届いた手紙と一緒にアイツ宛の手紙も入っとったんや。差出人は、屋田誠人…」
「えっ!?」


屋田誠人って…今行方不明になってるっていう、あの屋田誠人!?


「恐らくその手紙に何か書いてあって、工藤はソイツに呼び出されたんかもしれへんで?」
「っ、じゃあ…新一は今頃…」


で、でも屋田誠人は新一が小さくなってるなんて知ってるはず無いし…。
も、もしかしたら具合が悪くなって森で倒れてる可能性だって…!


「おい、聞いたかよ?」
「どうした?」
「湖に素っ裸の死体が浮いてたってよ!」
「ああ!知ってる!うちの母ちゃんが毛布持ってったぞ!」
「えっ!?」
「何!?」


森に入って捜そうかと思い立った瞬間、通りかかった村人の会話が聞こえてきた。


「おい!それって小学生とちゃうんか!?」
「い、いや?高校生ぐらいの若い男だったけど…」
「「こ、高校生!?」」


百聞は一見に如かず。
村人の案内で、その男がいるという川岸へやってきた。


「あ!あそこ、あそこ!あの毛布の男だよ!」


村人の指す方に目をやると…。


「し、新一…?」


そこには、毛布にくるまって遠くを見つめている、高校2年生の姿をした新一が座っていた。


bkm?

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