smaragd | ナノ

Zauber Karte

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不透明な三角形


「さっすが優月!俺の好みよく分かってんじゃん!」


随分久しぶりに顔を見たはずなのに全くそんな気がしないのは、きっとロンドンにいるあの3代目キッド(候補)の影響なのかもしれない。


「約束は約束だからね。一応快斗が好きそうなやつ買ってきてあげた」


ロンドンから帰ってきて何週間が経っただろう。
突然快斗から『優月ちゃ〜ん、な〜んか忘れてなぁ〜い?』の電話が来たと思ったら、『今からそっち行くから土産よろしくな!』の一言で強制的に電話を切られ、今に至る。
まぁ、私もタイミング良く今日渡そうと思ってカバンに入れといたから丁度良かったけど…。


「ねぇ、今お土産持ってなかったら快斗どうするつもりだったの?」
「そんなの家まで行くに決まってんじゃん。当たり前な事聞くなよな!」
「…あ、そ」


っていうかここ、学校の真ん前だけどお酒なんか渡してて平気かな…。


「でも優月ちゃん酷くねぇ?」
「え?何が?」
「帰って来たら親友に真っ先に電話すんのが筋ってもんじゃねーのぉ?」
「あ…ご、ごめん快斗。帰国したらすぐにテストとかあったりしてすっかり忘れてて…」
「へぇー。あ、そ。まぁ別にいーけど。なーんか俺、邪険に扱われてる感じがして悲しくなったね」
「え…?」
「あんなに俺になついてた優月ちゃんが、名探偵と仲直りした途端手のひら返したように冷たくなりやがってさ!女ってのは冷たい生き物だよなホント…」
「べ、別に冷たくなんかしてないよ…。ただちょっと連絡取りづらかっただけで…」
「……ま、大体予想はつくけど。どーせあれだろ?名探偵が妬くからとかそんな理由だろ?」
「えっ、何でわかるの!?」
「オメーの後ろで俺に向けて麻酔銃構えてる名探偵見たら一発で分かるっつーの」
「あ…」


そう。
快斗から電話があった後、新一との約束を守るためにこれから快斗と会う事をメールで伝えた。
ら、丁度小学校も終わった時間だったらしく、新一もといコナンくんがダッシュで帝丹高校までやって来てこうして見張ってるという状況。
新一曰く、やっぱり報告だけじゃなくこうして立ち会いする事にしたみたいで、これからはいつでも駆けつけられる様に学校にもスケボーを持っていく事にしたとか何とか…。
まぁ、この人なりに心配してるのは分かる、けど…。
何だかなぁ…。
信頼を失った感じが拭えない…。


「あ、そうそう。今日遥々ここまで来たのは何も俺だけ土産を貰いに来たわけじゃねぇんだぜ?」
「え?」


ポン、と快斗の手のひらに現れた小さな紙袋。
変な物が飛び出るんじゃないかと疑いつつ中を開けると、何とも奇妙な物体がうじゃうじゃと犇めき合ってて…。


「仕事で行ってきたからわざわざ買ってきてやったんだぜ!どうだ?嬉しいだろ?」
「…これ、何?」
「えっ、オメーこのキャラ知らねぇの!?」
「う、うん…。知らない…」
「相変わらず遅れてんなぁ…。それはナマコ男!」
「ナ、ナマコ…?」
「そ!今巷で大流行してるキモカワキャラで、北海道、石川、三重、徳島、鹿児島のご当地限定版プレミアストラップ!!買うのに苦労したんだぜ?」
「へぇ…。それはそれはありがとう…」


お礼を言ったものの、こんなにいっぱいのナマコどこにつければ…。


「あ、名探偵には無いからな?」
「別にいらねーよ!けほっ、用が済んだったらさっさと帰れ!けほっ、けほっ!」


はぁ…。
新一の快斗嫌い、どうにかなんないかな…。
私としては仲良くして欲しいけど、探偵と怪盗じゃ真逆の関係だし…。
これは仕方の無い事なのかな…。


「じゃあ俺、これから青子とデートだから帰るな!」
「へぇ、いいなぁ。私もたまには新一とデートがした…」


……え?


「デ、デートって…」
「あ、分かっちゃった?そ。俺やっと青子と付き合う事になったんだ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ええーーーっ!!?ど、どーゆー事!?私何も聞いてないよ!?」
「…聞いてねぇもなにも」
「え?」
「だって、言ってねぇもん…」
「…快、斗?」
「あ、ヤッベ!急がねぇとまた怒られる!じゃあな優月!もう名探偵とケンカすんじゃねーぞ!」


何が何なのか分からないまま、頭にクエスチョンマークを浮かべた私を残して台風の様に走り去ってしまった快斗。
えっ、何あれ言い逃げ!?
気になって今日眠れないじゃない!!
いつの間にそんな関係になってるわけ!?
って、ゆうか…。
何で教えてくれなかったんだろう、快斗…。


「ああ、その村で起きた殺人事件を捜査した時に手伝ってくれた村の青年だったと思うけど…。けほっ、けほっ」


誰かと電話で話す新一の声で一瞬我に返るも、意識の半分は新一へ。
もう半分は…。


−…聞いてねぇもなにも−
−え?−
−だって、言ってねぇもん…−


そう呟いた快斗の表情が、胸の中で妙に引っ掛かったままで…。


「分かった。じゃあな」


まぁ…いっか。


「ねぇ、誰と電話してたの?」
「え?ああ…。服部だよ。来週和葉連れてこっちに来るってさ」
「また急だね…。でも何で?」
「…まぁ、色々あってな。けほっけほっ」
「色々?…ってゆうか新一、さっきから咳してるけど風邪引いてるの?」
「こんなの大した事ねーよ。それよりオメーに聞きたい事あんだけど…けほっ」
「聞きたい事?」
「オメーは何て書いたんだ?進路調査書…」
「ああ、そんなのもちろん料理教室の生徒兼新一のお嫁さんって書いたに決まってるじゃない!ゴリラは怒り狂ってるけど」


あれから毎日呼び出されては、東都大の資料をしつこく見せられたり、挙げ句の果てには他の先生に土下座までされてる私。
…正直、不登校になってもおかしくない勢いだと思う。
絶対折れてやらないんだから!


「…なぁ、今日事務所で飯食わねぇか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。この前オメーから貰った進路調査書もついでに渡してぇし…」
「あ、そっか…。じゃあ折角だしお邪魔しちゃおうかな」
「おう。じゃあ俺は先に帰ってっから、オメーは1回家に帰って着替えてから来いよ」
「うん。分かった」


そう言って新一は、小さい背中をこっちに向けてスケボーに足を乗せた。


「…あのさ優月」
「え?何?」
「オメーに話しとかなきゃなんねぇ事があんだけど…」


新一の声が、さっきまでとはうって変わって一気に低くなったのを私は聞き逃さなかった。


「…どうしたの?」
「実は、さ…その…」


何だろう、嫌な予感しかしない…。


「4月から高校に復帰する事になるかもしれねぇんだ」


新一が前を向いたまま、はっきりと言った。


「えっ…ほ、ほんとに…?」
「ああ。まだ100%決まったわけじゃねーけどな」
「…や、やったぁー!」


3年生になったら新一とまた一緒に通学できるなんて嬉し……。


「ってえぇーーっ!?なっ、何でよどうして!?もしかして黒の組織の居場所が分かったの!?」
「いや?まだこれといった事はこれっぽっちも掴めてねぇよ」
「っ、じゃあ何でそんな」
「父さんと」
「…え?」
「…父さんと、約束したんだ。3月までに何がなんでも組織を潰すって…」
「ゆ、優作、さんと…?」
「ああ…」
「で、でも何でそんな急に…」
「そこも含めて今夜詳しく話す。とにかくそういう事だから」
「っ…」


何で今話してくれないの…?
新一の考えてる事、全然分かんないよ…。
私が考え込んでいると、スケボーのモーター音が鳴り響いた。


「じゃあ後でな」
「あ、ねぇ待って新一っ!」
「え?」
「…何で、今その話を持ち出したの?」
「……とりあえずこの事は頭の隅に置いとけ。まだどうなるか分かんねぇから、期待だけはするな」


そう言い残し、新一はスケボーに乗ってあっという間に私の目の前からいなくなった。


bkm?

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