smaragd | ナノ

Zauber Karte

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帰ってきた愛の女神


「あら、意外と早かったわね」


ドアを開けた途端真っ先に飛び込んできたのは、足を組んで椅子に座る哀ちゃんと、そのすぐ下で項垂れながら正座してるコナンくん。
……何?この状況…。


「な、何かあったの?」
「別に?ただ、」
「うん?」
「後先考えないで暴走してばっかりの、このイカれた名探偵に色々と教えてあげてただけよ」


つま先でコツン、とコナンの頭を小突く哀ちゃん。
あ、あ、あの哀ちゃんが怒ってる…!
眉間に皺寄せて怒ってる!


「…じゃ、私は博士と夕食の買い物に行ってくるから留守番よろしくね」
「い、行ってらっしゃいませ…」
「…あなたも食べてく?夕飯」
「えっ、いいの?」
「ええ。博士に合わせたメニューだから大した物は作れないけど、それでもいいなら」
「あ、だったら作る時言って?私手伝うよ!」
「…じゃあお願いしようかしら」


哀ちゃんは優しく微笑み、そう言い残し部屋を出て行った。
あ、そういえば私、あの子が元の姿に戻ったところ見た事無いや…。
やっぱりキレイなんだろうなぁ…。


「あ、そうそう新一。メールで渡したい物があるって言ってたけど、なに?」
「…」
「…」
「…」
「し、新一?」
「…ん」
「え?」
「んっ!」
「……抱っこ、して欲しいの?」
「ん…」


かっ、可愛い!
可愛いよコナンくん!
口を尖らせながら両手を広げて抱っこをせがんでくるなんて可愛すぎるよっ!!


「…あれ?新一、頭どうしたの?」


ギューッ、て全力でしがみついてくる新一の柔らかい髪の毛を弄ってると、痛々しい大きなタンコブが出来ていた。


「…叩かれた」
「えっ!?誰に!?」
「…灰原に、あれで」
「うん?」


新一が指した方を見ると、1000ページは余裕で超えているであろう、分厚い医学書が若干歪んだ形になって置かれてあった。
…あ、哀ちゃんあなたっ!
新一に何て事したの!
あんなので叩いたら痛いって!!


「新ちゃん可哀想にっ!!」
「ぐえっ、」
「痛かったよねぇ、よしよしもう大丈夫だよ!優月お姉ちゃんがいるから!」


ああ、長い間我慢してたコナンくんのちっちゃくて丸みを帯びた体が今ここにあるなんて…!
久しぶりすぎて今すぐ食べちゃいたい!


「痛いの痛いの、組織の奴らの方に飛んでけー!」
「ぷっ、何だ?それ」
「あ、元気になった?」
「…お陰さまでな!」
「なら良かった!これぞ愛の力ってやつだね?」
「バーロ、くだらねぇ事言ってんじゃねぇよ。最初からそんなに痛く無かったっつーの俺は」
「ふふっ、はいはい。分かった分かった」


そう言いつつも、私から離れようとしないコナンくん。
こうやって言葉と態度が裏腹な新一って、ほんっと可愛いなぁ…。


「…で?」
「あん?」
「早く頂戴よ!私に渡したいものあるんでしょ?」
「…ああ、ちょっと待ってろ」


新一はピョン、と私から離れ、ランドセルの中をゴソゴソと漁り始めた。
えっ!!
あの新一がランドセルの横に仮面ヤイバーのキーホルダーなんかつけちゃってる…!
ど、どうしよう!
めちゃくちゃ可愛いっ!
そしてコナンくんの背中が小さすぎてダブルで可愛いよっ…!!


「ん」
「…え?」


こっそり抱き着いちゃおうかと手を伸ばしたその時、それまでランドセルを漁ってた新一が、顔は前を向いたまま私に小さなピンク色の紙袋を渡してきた。


「…なぁに?この袋。中に何が入ってるの?」
「べ、別に大したもんじゃねーよ。いーから早く開けろって」
「う、うん…」


きっと新一の事だから、小五郎ちゃんが今関わってる事件とかの現場写真なんでしょう…け、ど…。


「こっ、これ…!!」


まさか。
何でこれがここに?
それが最初の感想だった。


「ししし新一っ!こ、これ、これ!!」
「何だよ…」
「わ、私が快斗から貰ったネックレスじゃない!」


新一から渡された袋の中には、随分前にお別れしたはずのローズクォーツが散りばめられたネックレスが入っていた。
あの時新一が壊したはずなのにどうして…!?


「…実はさ」
「えっ?」
「直したんだよ、それ。腹撃たれて入院してる時に」
「…嘘!」
「嘘じゃねぇって」
「いやだって…ええっ!?こ、これ全部新一が1人で!?」
「あ、いや…。俺こーいうのサッパリ分かんねぇだろ?だから灰原に頼んで最初だけ手伝って貰ったんだ」
「えっ…」


哀ちゃんに…?


「アイツにやり方だけ教わって、あとは徹夜しながら自分で直したんだよ。で、学園祭終わった後そいつをオメーに渡して謝ろうと思ってたってわけだ。まぁ、色々あって今になっちまったけどな…」
「……」


あの時の哀ちゃんの言葉は、そういう意味だったんだ…。
だから、新一は私になかなか謝って来なかった…。


「…マジで悪かったよ」
「新一…」
「オメーの大事にしてるモン、壊しちまって…。ほんと、ごめんな?」
「っ…」


頑張ってこれを直すまでは、って…。
新一も、ずっと後悔してて、私にちゃんと、返すためにこれを…。
ちゃんと、考えて、くれてっ…!


「お、おい!オメーなに泣いてんだよ!?」
「だって、だって…っ、嬉しくて、まさかっ、直して、くれてた、なんて、っ…」
「…ほら、とりあえず鼻かめよ。鼻水すんげーぞ?」
「…ぶーーっ!」
「もう1回」
「ぶーーっ!」
「…よし、これで少しは喋れる様になっただろ?」


ティッシュの箱を片手にニコッと微笑むコナンくん。
この、人一倍不器用な新一が私の事を想って一生懸命直してくれた。
その事を考えただけで、涙がどんどん溢れて止まらなくて。


「あーもう!だから泣くなってば!また鼻水出てくるぞ?」
「…そしたらまた新一に拭いてもらうからいいもん」
「おいおい…」


そういえば私、子供の頃からいつも新一と蘭に鼻かんでもらってる気がする…。


「…あのさ優月」
「ふぇ?」
「オメーに謝んなきゃなんねー事があってよ…」
「…な、何?」
「……これ、なんだけど」


新一はそう言ってネックレスを掴んだ。


「どうしても見付かんなかったんだよ。ここにあった石が…」
「あ…」


新一が直してくれたネックレスをよく見ると、キレイな水色の石が飛び飛びで付いてる事に気がついた。
確か快斗から貰った時は、全部ピンク色だった…。


「だから灰原にこーいう石が売ってる店聞いて、俺が勝手に選んじまったんだけど…」
「…わざわざ、選んでくれたの?」
「まぁな。結構恥ずかしかったんだぜ?店員に冷やかされるわ、周りの客には可愛いだの最近の子はませてるだの言われてよー…」


わ、私もその現場を見たかった…!


「その…だから、さ」
「うん?」
「…別に捨ててもいいぜ?それ」
「…はぁ!?何で捨てなきゃなんないの!?」
「いや、だって黒羽が作ったやつとは違うしさ。しかも俺、アイツみてぇに器用じゃねーから結構雑になっちまってるし…。つけるの恥ずかしいだろ?」
「…」
「…」
「…バカ」
「へ?」
「新一のバカァー!!」
「ぐえっ、」
「何でそんな事言うの!?恥ずかしいわけないじゃない!せっかく新一が直してくれてわざわざ恥ずかしい思いまでして選んでくれたんだもん!これよりも素敵なネックレスなんて世界中どこ探したって見つからないよ!」
「…じゃあ、有り難く受け取れ」
「うん!ありがとう新一!」


私がそう言うと、コナンくんは顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。
そんな可愛い彼の頭を撫でながら左手でネックレスに触れると、不思議と心が暖かくなって、すごく優しい気持ちになれた。
私の手元に戻ってきてくれた愛の石は、どんな高価な宝石よりも価値のある物で、新一と快斗の想いがいっぱい詰まった、大切な大切な私の宝物。
これさえあれば、きっともう大丈夫。
何故かそう感じられた。


「…それとあともう1つ」
「え?」
「今度から黒羽と会う時は俺にちゃんと言え。いいな?」
「……何で?」
「な、何でってオメーなぁ!心配だからに決まってんだろ!?」
「あはは、やだなぁ新一ったら。もう快斗とは何もしないよ?」
「たりめーだバーロォ!次浮気したらタダじゃおかねぇからな!」
「ちょっと待ってよあれは浮気じゃな」
「ウルセェ!俺に口答えすんなこの浮気女!」
「い、いひゃいれふひんいひはん…」
「言っとくけどなぁ!」
「あひっ、」
「俺はもうオメーにアイツとは会って欲しくねぇんだよ!」
「はうっ、」
「でもそれを我慢してこうやって報告だけで済ましてやろうとしてんだ!少しは感謝したらどーなんだよ!ああ!?」
「ハ、ハイ…。かんひゃひまふ…」


相当ご立腹なご様子の新一さん。
買い物袋を携えた哀ちゃんが帰ってくる10分後まで、私の頬っぺたは限界まで伸ばされたままだった。


bkm?

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