smaragd | ナノ

Zauber Karte

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涙、のち、前進


「なるほど。じゃあ話を要約すると、」
「うん」
「優月は彼氏である名探偵に風呂場で強姦されたってわけか!」
「要約し過ぎ!それに強姦ってあんたねぇ!」
「だってそうだろ?誰が聞いてもそれは間違いなく強姦だって」
「でも…何か言い方がやだ…」
「じゃあ英語で言ってみ?」
「……Rape?」
「Yes!Repeat after me!レイ」
「リピートなんかしないよ!快斗のド変態!バ怪盗!!」
「ちぇっ!ノリ悪ぃなぁ…」


あれから一睡も出来るわけが無く、どうすればいいのかを相談する為に日本にいる快斗に電話をした。
人の彼氏を性犯罪者呼ばわりするな!!


「でも俺さぁ、逆にすげぇなって関心するぜ?名探偵の事」
「はあっ!?な、何でよ!?」
「だって足場が不安定な風呂場で駅弁って上級者にしか出来ねぇじゃん」
「……」


何か…これって時間の無駄じゃない?
これから快斗に真面目な相談するのやめようかな…。


「なぁ優月」
「…なに?」
「男ってのはさ、自分が思う以上にガキなんだよ。少しでも嫉妬心が芽生えちまうと自分でも予想外な行動に出る生き物。オメーもそれは今までの事で重々分かってるはずだろ?」
「それは、分かってるけど…」
「特に名探偵のヤツ、人より血の気が多いしな。仕方ねぇって。許してやれよ」
「……」


違うよ、快斗。
私が悲しんでる理由は、新一があんな事したからじゃないんだよ…。


「男だけじゃないよ、快斗」
「え?」
「女も、十分子供なんだよ。特に私なんて、幼稚で浅はかで、向こう見ずで、相手の事なんか何も考えないただのバカ女…。ほんと自分でも笑っちゃうぐらい、どうしようもない…」
「……」


あの時もそうだ。
私のせいで新一を苦しめて、すれ違って、選ばなくてもいい道を選んだ。
今回も私が原因で新一を傷つけて、結果、お互いに傷ついてしまった。


「どうしよう、快斗…」
「え…?」


もう2度と、引き返せないのかな…。


「私、どうしたらいいのか分かんないよ…」


昨日たくさん泣いたのに、まだ涙が溢れてくる。
どうして人間は、涙が枯れるっていう事は無いんだろう…。


「…さぁなー。俺にはあいつの事なんかサーッパリ分かんねぇな!」
「……」


このバ快斗!
他人事だと思って適当に返事するなんて!


「もういい。快斗に聞いた私がバカだった1人で考える。じゃあね」
「だあー待てって!そうやってすぐ拗ねんなよ!」
「だって人が一生懸命悩んでるのに全然親身になってくれないじゃん!何の為の友情よ!」
「わぁーったからギャンギャン騒ぐなようっせーなぁ」
「…ふん!」
「はぁー、仕方ねーなぁ…。じゃあ特別にこの天才快斗くんが、今この状況を打破する事が出来るヒントでも教えてやるか」
「…ヒント?」
「1回しか言わねぇからよく聞けよ?」


快斗は本当に1回しか言わなかった。
でも、今の私には、その1回だけで十分だった。


「あ、悪い優月。俺今から出掛けっから切るぜ?土産忘れんなよ!」
「うん…」


快斗の言葉は、私の胸にすごく響いて、さっきまでズシンと重かった体が、少しだけ軽くなった気がした。


「…何でかな…」


何で私は、新一の事になると頭が働かなくなるんだろう…。
でも、また快斗のお陰で気付かされた。
私が今この状況を打破する為に起こす行動といえば…。


−この前の件で、バカップルだったオメーらが意味もなく離れちまった原因は何か。そしてどうやってまた元に戻ったのか。それを考えれば自ずと答えが出てくんじゃねーの?−


うん、たった1つしか無い。
新一に、ちゃんと自分の気持ちを伝える事。
そして、新一の気持ちもちゃんと聞く事。
……でも、


−今日、蘭のところに泊まる−


昨日の夜、新一と蘭はどうやって夜を過ごしたんだろう…。
もしかしたら、私の事が嫌になって、蘭と……?


「っ、バカみたい…」


なに考えてんのよ私ったら…。
憶測で物事を判断したら、また同じ事の繰り返しじゃない。
蘭にちゃんと聞かないと、またすれ違ったまま…。


「もしもし優月?」
「あ、ご、ごめんね蘭?こんな朝早くに電話しちゃっ、て…」
「ううん、もう起きてたから平気。おはよう優月」
「あ…お、おは、よう…」
「ねぇ。コナンくんこっち戻ってきたみたいだけど、風邪は治ったのかな?」
「え…」


コナン…?
あ、そっか…。
時間的にもう薬の効果は切れてるもんね…。


「う、うん。もう大丈夫みたい…」
「そっか!なら良かった」


蘭の態度は普段通り。
…って事は、新一とは何も無かった、って事?


「でも丁度良かった!私も今優月に電話しようと思ってたところだったんだよ?」
「えっ、私に?」
「うん。ねぇ、今から私の部屋に来ない?最近優月と全然話してなかったから色々と積もる話もあるし」
「え、でも…」


新一が居るんなら話しづらいし、どうしようかな…。


「あ、心配しないで?お父さんなら部屋で酔い潰れて寝てるし、コナンくんも出掛けちゃって居ないから」
「えっ、コナンくんいないの?」
「うん。私も気付かなかったんだけどね?朝早く戻って来たあと、新一の両親に挨拶しに行くって書いたメモを置いて勝手に出て行っちゃったみたい…。多分、新一も一緒なのかも」
「…優作さんと有希ちゃんに?」
「うん。後で私からまた連絡してみるけど…」


どうして新一は、あの2人に会いに…?


「ね?だからおいでよ!久しぶりに女2人でガールズトークしたいし!」
「あ…うん分かった。じゃあ今から行くね」
「うん、じゃあまた後で」


…本当は怖い。
何も聞きたくない。
このまま、何事も無かったように過ごしていたい。
…でも。
そんなんじゃダメなんだ。
蘭にちゃんと聞かなきゃいけないし、新一にも話さなきゃならない事だってある。
…ここは勇気出さないと、ね。
快斗に言われた言葉を何度も頭の中で思い返しながら、スーツケースに荷物を詰め込み、早めのチェックアウトを終えてホテルをあとにした。


bkm?

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