新一から勧められたサイダーを飲んでから、どのくらい経ったんだろ…。
頭がふわーん、ふわーん。
うふふ、お空を飛んでるみたい。
何だか、楽しくなってきた、かも。
なるほど、なるほど。
サイダーを飲みすぎるとこうなるのか!
「新ちゃ〜ん。もういっぽんちょ〜らぁい?」
「バーロォ、これ以上飲んだら急性アル中で死んじまうぞオメー」
「…けちんぼ」
「へーへー何とでも言え。ほらもう出るぞ。歩けるか?」
「新ちゃんのおんぶじゃないといやっ!」
「…いいけど吐くなよ?」
「あははは!だいじょーぶだいじょーぶ!はくほどのんでないからー!」
「いや、いつ吐いてもおかしくねぇ量を飲んだと思うけど」
そんな事、断じてない!
だって甘いのしか飲んでないし!
途中からサイダーだったし!!
「オメーぜっっってー吐くんじゃねーぞ?」
「…もし出そうになったら?」
「飲み込め」
「ほーい!わっかりましたぁー!!」
新ちゃんにおぶられ、ゆらゆら、ゆらゆら。
大好きな新ちゃんの匂いに包まれて、とっても幸せな気分。
とくん、とくん。
新ちゃんの胸の音が、とてもよく聴こえてきて。
新ちゃんの背中は、とっても広くて、おっきくて…。
当たり前だけど、子供の頃、おんぶして貰った時とは、全然違う。
でも、伝わる体温は、何年経っても同じ。
あの頃と、全く変わらない。
………幸せだなぁ。
新ちゃんと、またこうして一緒にいられて、ほんとに、幸せ…。
「しんちゃーん…」
「んー?」
「かえったらー、なにしますー?」
「は?風呂入ってすぐ寝るに決まってんだろ。明日はハーデス捕まえなきゃなんねーし」
「えー!やだぁ!!しんちゃんとなかよくしたいぃーっ!」
「バーロォ、俺は酔った女を抱く趣味なんかねーよ」
「だからわたしはよってなんかないってばー!ビール1杯とリンゴのサイダーしかのんでないもん!」
「…オメーいい加減気付けよ」
「あい?」
「あれは発泡リンゴ酒。悪酔いしやすく極めて危険なアルコール飲料だ」
「………あ、あるこーる?」
「ああ。ミックスドリンクって呼ばれる内の1つで、口当たりがいいからついつい進んじまうんだよ。結構あれで死人が出てたりするんだぜ?良かったな、オメー死ななくて」
…な、何て事だっ!
「し、しんいちのバカーーー!!」」
「うわっ!」
「アホざむらい!おたんこナス!どてかぼちゃ!すっとこどっこい!!なんでそんなキケンなものをのませたりしたぁーー!!わたしがオブギョーさまだったらもんどーむよーでうちくびごーもんのけいにしょするぞっ!!」
「わけ分かんねぇ事言ってねぇで大人しくしてろ!!ゴミ捨て場に捨てられてぇのかテメェはっ!!」
「…」
いいもん、いいもん。
後で仕返しに新一のxxxとxxxを※※※※しながら※※※※※※※※※※してやるんだから…!!
「しーんいっちくーん」
「…今度は何だよ?」
「とつぜんのおねがいでごめんなさいなんだけどー、」
「…なに」
「ちゅうして?」
「……やーなこった」
「何でっ!」
「何でも」
「やだ!して!してしてしてーっ!!」
「…はぁ…。ホテルに帰ってからな」
「No!ダメ!いますぐ!」
「…しつけぇなー…。嫌だっつってんだろーが」
「おーねーがーい。しーてーくーだーさーい!」
「…諦めてさっさと寝ろ」
「これはめーれーです。しなさいしなさいしなさいしなさ」
「あーウッセェなぁ!!俺はしつけぇ女は大っ嫌いなんだよ!!少しは黙ってられねーのかこのバカ女!!」
「………ふえ、ぐすっ…」
「勝手に泣いてろ。俺は知らねーからな」
「……しんいちは、わたしのこと、きらいなんだ…。わたしがバカだから、ちゅうしてくれないんだ…。やっぱりらんがすきなん」
「わーったよ!わぁーったから!するから黙れ!!」
「ありがと新ちゃん!」
呆れた様にため息をつきながらも、近くのベンチに私を下ろしてくれた新ちゃん。
いつもそう。
何だかんだで、優しいんだ。
「おかお、かして」
「へ?…っ、」
お酒を飲んだせいかな、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、積極的になりたい自分がいた。
いつもかっこつけて、意地悪で、見下してくるけど。
でも、ほんとはとっても優しくて、子供みたいに可愛いとこもあって。
そしてこんな私を、不器用ながらも、精一杯、全身全霊で、愛してくれてる。
それが堪らなく愛しくて、嬉しくて、とてもじゃないけど、我慢出来なかった。
「…オメー激しすぎ」
「えへ、コーフンした?」
「…お陰さまで、な」
今度は新ちゃんの番。
頭が動かないように、ガッチリと支えられて、口の中を、新ちゃんの思い通りにされる。
私のクチビルを吸ったり、時々、甘噛みしたり。
息が苦しくなっても、僅かな合間に息継ぎをして、精一杯、新ちゃんからの攻めに応え続けた。
「はぁ…」
ちょっと、キツい、かな…。
窒息しそうなキスの嵐に限界を感じて、新一の体に腕を回した。
「しんちゃんとキスするのだいすきぃ…」
大きくて、暖かい手のひらが、私の頭を優しく撫でる。
…やっぱり、全然ちがう。
快斗とするキスなんかとは、比べ物にならない。
あは、当たり前か。
好きな人とするキスは特別だもんね…。
「…おい」
「うん?」
「今オメー何つった」
「え?…新ちゃんとキスするのだいすき、っていったけど?」
「それじゃねぇ、その後だ、後!」
「………あとって?…はうっ!!」
「いっちょまえにとぼける気かテメェは」
新一が私の髪を乱暴に掴んだ。
や、やめてちょうだい頭のてっぺんは!
「いたいいたい新ちゃんやめ」
「説明しろ。黒羽とするキスなんかとは比べ物にならないってどーゆー事だよ」
心臓がビクンと跳ね上がったあと、徐々に手が震え出した。
氷のように冷たくなった、新一の瞳。
さっきまでの暖かい眼差しは、すっかり消え去っていた。