smaragd | ナノ

Zauber Karte

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ハリケーンの助言


「あら!これもいいわね〜!あ、こっちもだわ〜!あ〜ん、もう有希子困っちゃ〜う!」


そう言いながら、店員さんも近付けないほどのハイテンションぶりで高級ブティックに並ぶ様々なドレスを手に取っては戻し、また手に取っては戻し…を繰り返し店内を物色する有希子様。
何故私がこの奥方と一緒にいるのか。
それは遡る事数十分前。
目を覚ました直後、ここにいる爆発しそうな巨乳の持ち主に無理矢理覚醒させられ、ここにいるはずの無い優作さんとまさかのご対面を果たした私。
驚くそんな私の右腕を、このハリケーン女王・工藤有希子様はガシッ!と掴み、強制的に外へと連れ出した。
出て行く瞬間、新一に助けを求めようとチラッと見ると、彼はコーヒー片手に苦笑いで私に手を振っていた。
このチビ助、少しは引き留めるとかそういう事をしようとは思わないのかと思ったけど、いくら自分の母親であってもこの人を止めるのは無理だろうなと悟った。
でもさ?
少しは止める素振りとか見せようよ新一!
そして有希ちゃんから、あのラディッシュが一役買って出たっていう新事実を聞いて、ああやっぱりなって今更ながら思った。
だってあのメタボ、かなり挙動不審だったし、思い返せば色々と怪しいところはあったわけで…。
アイツもいい歳してよくやるなぁ…と変に感心してしまった。
でも私、一応探偵なのに何でアイツの嘘見抜けなかったんだろ…?
……ちょっと自信失くしたかも。


「ねぇねぇ、優月ちゃんはどれがいいと思う?もう全部良くってなかなか決められないのよねぇ〜」
「んー…何でもいいんじゃない?有希ちゃんなら何でも似合うと思うし…」
「…あら、何言ってるの?」
「えっ?」
「今優月ちゃんの服を選んでるのよ?」
「えっ、何で!?い、いいよ私は!こんなお高いもの着こなせない!」
「大丈夫よ優月ちゃんなら!それに戦闘服ぐらいしっかりしたのを選ばないとダメでしょ?」
「…はい?」


せっ、戦闘服??
えっ、なにまさか、私今から戦地にでも駆り出されるの?


「優月ちゃん優月ちゃん!」
「うん?」
「ちょっとこれ見て!どう?このワンピース。色も上品で素敵だと思わない?」
「あ、ホント!これだったらそんなに堅くないデザインだから普段でも着れる…じゃなくて!戦闘服って一体な」
「Can I try this on?」
「ちょっと有希ちゃんってば!」


「詳しい事は後でね」とあしらわれ、強引に試着室へと押し込まれた私。
もうこうなったら誰も手がつけられないのが工藤有希子。
頭の中クエスチョンマークだらけのままフィッティングを済ませ、有希ちゃんの大絶賛を頂き、急ぎ足でお店をあとにした。
…さすが有希ちゃん。
ドレスの値札なんか最初から無かったかの様に振る舞うなんて、やっぱりお金持ちは違う…!
日本円に換算すると幾らなのかちょっとだけ気になったけど、支払いはカードだったし(ちなみにブラック)、わざわざ「お幾らでしたか?」なんて聞くのも変だし、なんかもう、ここは素直に受け取っておいた方が良さそう…。


「ふふっ!そのドレス、優月ちゃんにとっても似合うわよ!」
「あ、ありがとう有希ちゃん…。誕生日でも何でも無いのにこんなお高い物プレゼントしてもらっちゃって…」
「お礼なんていいのよ!だって優月ちゃんは私の娘だもの!」
「…お母様大好きっ!」
「きゃー!優月ちゃんからそう呼んでくれるなんてっ!しかもこんな熱いハグしてくれるなんて有希子嬉しいっ!もうこの際新一なんか捨ててうちに養子に来ちゃっていいのよ!?」
「そ、それは色々とマズいからごめん有希ちゃん…」
「やーねぇ、ジョークよジョーク!」


いやぁー、有希ちゃんが言うと冗談に聞こえないから…。
っていうか、さっき胸にダイブした時も思ったけど、有希ちゃんって何の香水使ってるんだろう?
すっごくいい香りがするなぁ…。
………香水、か。
私も何か選んでみようかしら…?


「それじゃ、優月ちゃんとの愛も更に深まった事だし、お次は紳士服のお店にレッツ・ゴー!」
「えっ…紳士服!?」


私が止める間もなく、またもや有希ちゃんに引きずられ、これまた高級感漂う某有名ブランドのお店に入った。
有希ちゃん曰く、このブランドは優作さんが気に入ってる(とゆうか、強制的に有希ちゃんに着させられている?)ファッションブランドの1つらしい。
確かに言われてみれば、優作さん昔からこういうお洒落なデザインの服しか着てなかったような…。
もうこの際、ここのお店『YUSAKU・KUDO』ってブランド名にしても違和感無いと思う。


「んー、どれもイマイチねぇ…」


何やらブツブツ言いながら、さっきとは打って変わって真剣な目で優作さんの為に服を選ぶ有希ちゃん。
いいなぁ、いつまでもラブラブな夫婦で…。
そんな事を思いながら、いつまでもうなり続ける有希ちゃんを放置して、1人で店内を見て回った。
…あ、


「このシャツ…」


新一に似合いそうな感じ…。
…うげっ!
何この値段…お高過ぎるにもほどがあるよ!!
たかがシャツ1枚で、何でこんなに0がついてるの!?
…うん、見なかった事にしよう。


「あらー!!さすが優月ちゃん!!」
「えっ!?」
「いいじゃない、この淡いパープルのシャツ!」
「いや、でも優作さんにはちょっと子供っぽ」
「これなら新一に似合うわ!」
「…えっ!?」


し、新一って…。
この人、優作さんじゃなくて新一に買うつもりでここに来たの!?


「良かったわ、良いのが見つかって!ほら、あの子顔立ちがまだ子供っぽいじゃない?だからここのお洋服着こなせないかなー、って心配してたのよ!」
「いやあの」
「じゃあ後はこれに合うズボンとジャケットね!うーん、これだったらジャケットは濃いグレーの方がいいわね!ズボンは思い切って白にしてみて」
「ちょっと有希ちゃんってば!」
「うん?」
「新一じゃなくて優作さんに買わないと…!」
「…え?どうして優ちゃんに買うの?」
「ど、どうしてってそりゃあ…」
「優作の分は新作が入荷したらその都度家に届けてもらってるから、わざわざお店には買いに行かないの」


ど、どこぞのハリウッドスターですか優作さん…!
ナイトバロンでどんだけ稼いでるんですか!!


「それに今日は新一と優月ちゃんの服を見立てる為に来たのよ?」
「……話の筋がよく分からな」
「あら、もうこんな時間!」
「え?」
「さっさと選んでランチにしましょ!」


つられて時計を見るとちょうどお昼で。
「ここ、独身時代からのお気に入りのお店なの!」っていう有希ちゃんの一言で、これまたお高そうなレストランに連行された。
この人と一緒にいると金銭感覚がおかしくなってくる…。
……しっかりしろ優月っ!
私は一般庶民、一般庶民…。


「もしもし優ちゃん?今からランチにするから新一連れてこっちに来てくれるかしら?…ええ、そうよ。じゃあ待ってるから」


常にギアがトップに入ってる妻にちゃんと付き合える優作さんって、本当にすごいなとつくづく思う。
優作さんの心が特別広いのか、はたまた結婚すると自然と女が強くなるのか。
…まだ私には分からない世界だわ。


「ねぇ優月ちゃん」
「うん?」
「何で新一が17歳という若さで優月ちゃんにプロポーズしようとしたのか、理由知りたくなぁい?」
「…はっ!?な、何で有希ちゃんがその事知ってるの!?」
「だってぇー!あの時私達、遠くから見てたんですものー!」
「み、見てたって…どこからどこまで!?」
「もちろん最初から最後までに決まってるじゃなぁ〜い!ビッグ・ベンで蘭ちゃんを巻き込んだ修羅場から、新一がお店で顔を赤くしながらスキン買ってたところまでバッチリ!」
「はひっ!?そっ、そんなとこまで…!?」
「もっちろんよ!最後まで見届けるのが親の務めってものでしょ?」


お、親の務めって…。
そこまで務めなくていいよ!!
ていうか、スキンを買った所を見てこんなに喜ぶ親って…。


「で?」
「へっ!?」
「気になるでしょ?例のプロポーズ!」
「…まぁ、そう言われてみれば気になるけど、」
「でしょでしょ?あーんな中途半端に言われたら最後まで聞きたいわよねぇ〜!」
「…」


本当は有希ちゃんが知りたいだけなんじゃ…?


「そこで登場するのがさっき買った戦闘服よ!これを着てお洒落して聞き出すの!アルコールの力を借りてね!」
「アルコールねぇ…。まぁ酔った勢いでなら…」


…って、


「ええっ!?お、お酒飲ませるの!?あの新一に!?」
「そうよ!きっとあの子、お酒なんか飲んだ事無いでしょうからほんの少〜し飲ませればあっという間にペラペラ話し出すわよ!」


そ、それでいいのか有希子!
あんた母親でしょうがっ!
普通お酒って親に隠れて飲むものじゃないの!?
いや、それもおかしな話だけどさ!?
でもでもまさか彼氏の親にこんな提案をされるなんて…!


「いい?後でこっそりいいお店教えてあげるから、今日買った服着て行ってらっしゃい!今の時代、こういう話は女性から切り出したって何もおかしくないんだから!」
「で、でも」
「あ、2人共こっちこっち!…それにまだ返事してないんでしょ?だったらついでにしちゃえばいーじゃない。新一だって答えは決まってるって分かってても気にしてるはずよ?」
「…」
「父子水入らずの一時はどうだった?」


この自意識過剰な新一が気にしてるなんて思えない。
だけどよく考えたら、あの超現実的でロマンチストとは対極の位置にいる新一の事だから、何かきっかけがあって私にプロポーズしようとしたんだと思う。
…この服も、せっかく有希ちゃんが買ってくれたわけだし。
いや、だからってわけじゃないけど、やっぱり少なからず私も気にはなってるのは事実だし…。
うん、いい機会だし、軽く聞いてみよう。


「ねぇ優月ちゃん、新ちゃんはお子様ランチでいいわよね?」
「うん、いつもそうしてるから」
「ばっ、バーロォ!普通のにしろ普通のに!」
「でも全部食べきれるの?」
「……」


そりゃあ小さくなっても頭脳は同じかもしれないけどさ?
だけど内臓はやっぱりその辺の小1と同じサイズなんだしさ…。
そんな仏頂面しないでいい加減お子様ランチに慣れようよ、新ちゃん…。
その後、有希ちゃんは哀ちゃんから預かった解毒剤を新一に渡した。
でも新一は有り難く思うどころか、何故か眉間に3本皺を寄せてわなわなと震えていた。
…こりゃ哀ちゃんに何か言われたんだな。


「…でもよー、何で2錠なんだ?帰国するだけなら1錠でじゅうぶ」
「やだわ〜もう、新ちゃんのおバカさん!」
「はぁ?」
「哀ちゃんが機転を利かせてくれたって事なんじゃない?」
「機転?何でまた…」
「哀ちゃん言ってたわよ?『物質的な豊かさだけじゃなく、精神的な充足感を大切にするイギリスでなら、あの恋愛ベタなホームズも何かしら行動を起こして元のサヤに収まって、今まで一緒にいれなかった反動で思う存分お互いに英国式幸福論を説きたくなるでしょうから…』って!」


さすが哀ちゃん。
新一の事をよく分かってらっしゃる。
でも、何かここまでくると哀ちゃんって予知能力とかそういう不思議な力でもあるんじゃないの?って本気で思うわ…。
まぁでも謎の組織で活躍してたわけだし、自然とそんな力が培われても不思議じゃない気がするけどね…。


「でも…」
「あん?」
「もう仲良く説いたみたいね?ベッドのう・え・で!うふっ!」
「えっ…」


有希ちゃんがニヤニヤ?ニコニコ?しながら私の首をトントンと突っついた。
…こっ、この男は!!


「…し〜ん〜い〜ちぃ〜?」
「あ、いや、その…」
「何でつけるのよ!前にも言ったでしょ!?恥ずかしいからやめてって!」
「だ、だって仕方ねーだろ!?久しぶりでつい気分が盛り上がっちまったんだから!」
「久しぶりだから何してもいいってわけ!?」
「別にいーじゃねぇか俺達付き合ってんだから!それに今まで気付かなかったオメーだって悪ぃだろ!?」
「なっ、何で私のせいにす」
「「コホン!!」」
「「……あ」」
「…新一、愛の証をつける時は相手に一言断ってからにしなさい。それが、相手への思いやりってものだ」
「…へっ!」
「優月ちゃんも!久しぶりに燃えちゃった新一の気持ちも理解してあげなくちゃ!」
「…はーい」


何で私まで怒られなきゃならないのよ…!
新一が悪いのに!


「ほんとにもう…。ふふっ!まぁでも、思春期ならついついヒートアップしちゃっても仕方無いわよ。ね?優作?」
「…だが、男たるもの我を忘れて本能に狂い咲くのはあまり関心しないな」
「よく言うわよ!自分の事は棚に上げて息子に説教する気?」
「えっ、なになに!?優作さんってベッドの上だとどうなっちゃうの有希ちゃん!?」
「それが聞いてよ優月ちゃん!優作ったらね」
「有希子」


そう言って優作さんは有希ちゃんの顔をじっ、と睨んだ。
…あ、れ?


「コーヒーと紅茶、どちらがいいかな?」
「あ、えっと、コ、コーヒーがいいわね、うん…」


私は悟った。
新一のドS気質は優作さん譲りなのだ…と。


「優月くんは紅茶でいいかな?」
「えっ!?あ、は、はい!おおお、お紅茶でお願いしますっ!!!」


こっ、怖いよ優作さん…!
メガネの奥がキラーンってなってたよ!
…き、きっと有希ちゃん、この後ドS大王に大変な目に遭わされるんだろうな…。


bkm?

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