smaragd | ナノ

Zauber Karte

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聞きたくなかった言葉


「あ、そうそう。これ、そこら中に落ちてたからあなたにあげるわ。何か調べてるんでしょ?」


怪しげなオバサンが去り際に、1枚のピンク色の紙をくれた。
ビニール袋に入っていて妙に厚く、しかもA Scandal in Bohemia(ボヘミアの醜聞)と書かれてたら、ただじっと見てるわけにはいかない。


−You see, but you do not observe.−
君はただ眼で見るだけで、観察ということをしていない


この話の中でホームズがワトソン教授に言った言葉を思い出して、試しに水をかけてみた。
すると…。


「あっ!Sの文字だけがくっきりと残ってる…」


なるほど!
この紙にはこんな仕掛けがあったんだ…!
となると、もうここに留まる必要は無いよね。
さて、次の場所は…。


It rings again for my hatred.
(再び鳴る鐘の音が私の憎悪を掻き立てる)


またビッグ・ベン…。
うーん…。
これだけが2回も出てくるなんてやっぱり変だ…。
今までみたいに、何か周りに無いのか調べてみる必要があるかもしれない。
…それにしても、


「つ、疲れた〜…」


一気に周ったせいでもう歩く気力も無いよ…
こういう時は糖分を摂取しないとロンドン市内で野垂れ死んじゃう!
そう思って、たった数駅だけど地下鉄に乗り、レスター・スクエア駅で降りた。
なぜ、この駅で降りたのかというと……。


「はぁー、美味しい…」


前回来た時、ラディッシュの知り合いが経営しているこのカフェに連れてきてもらった。
店内は古きヨーロッパを思わせるレトロなインテリアで、とにかく落ち着いた雰囲気。
推理し過ぎて疲れた頭を癒すには絶好の場所。
それに一番のポイントは、ここの紅茶はすっごく絶品だっていう事!
紅茶好きには堪らないっ!
さすが4世代に渡ってファンがいるだけあるなぁ!


「…」


それにしても、さっき教会で会ったオバサンが最後に呟いた言葉、何なんだろう…?


−あ、ごめんなさい。初めて会ったあなたにこんな事話してしまって…−
−ふふっ、いいのよ。お陰で色々と分かったし…−


うーん…。
何が分かったんだろう?
あのオバサンも恋で悩んでたとか…?


♪〜


「えっ!?」


こっ、この着信音ってまさか……し、新一!?
なっ、何で新一から電話が!?
わわわ、私なにかしたっけ!?
いやまさか!
何もしてないよ!
でも何で!?
話しかけてくるなって言ったのは新一なのに…!


♪〜


…考えても仕方ないよね。
とりあえず出てみなきゃ…!


「……も、もしもし?」
「あ、優月か?俺、だけど…」
「…何?」
「えっ、と……こっ、この間は悪かったよ。あんな事言っちまっ…」


ツーツーツー


「…は?」


慌ててケータイの画面を見ると、赤い文字がチカチカと点滅していた。


「えーっ!?ちょ、何でぇ!?」


嘘、やだやだ!!
何でこんな時に充電切れちゃうの!?
何とか復活しないかと電源ボタンを長押ししても、無情にも画面は真っ暗のままで…


「こっ…このバカケータイ!」


いや、自分で言っといてアレだけどケータイは悪くない…と思う。


「あー、もう最悪…」


思えば今日ってすっごくツイてない日だ。
せっかく気分転換になると思ってロンドンに来たのに、新一と蘭に遭遇しちゃうし、それでも何とか気持ち切り替えてジェイデンと会ったらまさかのコナンに遭遇するし…。
んで極めつけはこれだよ!
…でも、何か思い直した事があったのかは分からないけど、新一は謝ってくれた。
また、前みたいに戻れるのかな?
普通の幼なじみに…。
とりあえず、ホテルに帰ったら電話してみよう、かな…。
今の状況を変えれるんだったら…。
せめて、前みたいに普通に戻れるなら…。


「…あっ」


ふと外を見ると、少しだけ薄暗くなっていた事に気付いた。
真っ暗になったら犯人からのヒントを見付けにくくなっちゃう!
ここからビッグ・ベンまでは確か1.5キロぐらい。
歩いて行っても電車を待つ時間を考えたらさほど変わらない距離。
だったら小走りで行けば日没前にはビッグ・ベンに着ける!
慌てて荷物を引っ付かんでお店の外へ出た。


「……無い…」


ここも…


「無い…!」


こっちも…


「無いっ!無い無い無ーい!!」


せっかく小走りで来たのにヒントなんて無いじゃない!
どうしよう…。
ビッグ・ベンの周りをあちこち探してたらだいぶ暗くなってきちゃった…。


「…あれっ?」


ふとビッグ・ベンの門の前の地面に、小さく矢印が書いてあるのが目に入った。
…もしかして、これがヒント?
まるで何かに引き寄せられるように、ウエストミンスター・ブリッジに何があるんだろうかと、胸をワクワクさせながら矢印が示す方向へと足を運んだ。


「ん〜…」


街灯や建物の照明のお陰で真っ暗では無いにしても、やっぱり見えにくい…。
ヒント捜しは明日にして、そろそろホテルに戻ろうか、な…


「…あれ?」


と思って顔を上げた瞬間、私のよく知る2人が全速力で走ってくるのが見えた。


「おい、蘭!待てって言ってんだろ!?」


えっ、新一と…蘭…?
何で?どうして?
今日来たばっかりなのに、何で元の姿に…。
それに、蘭泣いてる…。
一体どーいう


「おいっ!」
「やぁーっ!嫌ぁ!離してぇ!!」


新一は慌てた様子で蘭の腕を掴み、蘭は泣きながらそれを拒んでいた。


「厄介なんだよ!オメーらは!」
「はぁ!?」
「オメーらは厄介な難事件なんだよ!余計な感情が入りまくって、例え俺がホームズでも解くのは無理だろーぜ!好きな女の心を…正確に読み取るなんて事はな!!」


ぎゅっ、と噛み締めたクチビルから、ほんのり血の味がした。
新一の今の言葉を、頭の中で都合良く変換しようとしても無理だった。
新一の言う、好きな女っていうのが、私だなんて…。
そんなの、どう考えたって、当てはまらない。


「っ、優月…!」
「えっ…!?」


顔が赤くなってる新一と、目を潤ませてる蘭と目が合った。


「あ…えっ、と…ご、ごめ、なさ…私…あの…」


何で謝ってしまったのか、自分でも理解出来ない。
でも、さっき新一が言った事がどんな意味だったのかは理解出来た。
先輩っていう、新一にとって厄介な存在がいるばかりに、蘭に想いを伝えられないって事で。
でも新一は、蘭に好きな女だ、って打ち明けたワケで…。
ああ、もうダメだ。
頭の中がグシャグシャで、何も考えられない。
今すぐ消え去ってしまいたい衝動に駆られる。
何で、今なんだろ…。
どうしてこんな場所で…。
新一の本音、聞いちゃったんだろ…。


bkm?

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