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Zauber Karte

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ホームズに聞け


「優月!?」
「っ…!」


一瞬、なんでこんな所に蘭と小五郎ちゃんがいるんだろうって思ったけど、そんなのは当たり前の事で。
コナンがいるって事は、この2人も、いるわけで…っ!


「優月オメーどうし…あ、おいっ!!」


小五郎ちゃんが言い終わらないうちに2人の前から走り去った。
こんな気持ちの時に、蘭には会いたくなかった。
自分が惨めで、滑稽で…。
やっぱり、ロンドンなんて来なければよかったのかもしれない。
無理矢理ラディッシュに行かせて、私は日本に残っていれば、こんな思いしなくて済んだのに…。
でもそんなのは所詮後の祭り。
後悔したって、意味が無いんだ。


リンゴーン リンゴーン


少しでも蘭から遠ざかりたい。
そんな思いで夢中になって走っていたら、いつの間にかビクトリア・ストリートを抜けていたみたいで。
突然、大きな鐘の音が聴こえてきた。


「あ…ビッグ・ベン…」


この音を聴いた瞬間、懐かしい記憶が甦ってきた。
そういえば、初めてロンドンに来た時どうしてもこの鐘の音が聞きたくて、事件の捜査に集中する事が出来なかったんだよね…。
まぁまだその時中学生だったし、当たり前か…。
そんな昔の事を思い出しながらビッグ・ベンを眺めていると、今更ながら暗号文を読んでなかった事に気が付いた。


「えーっと…何々?」


A rolling bell rises me…
轟く鐘の音で私は目を覚ます…
鐘の音?
ここにあるビッグ・ベンの事かな…


「っ!?」


ちょっと待って…
だとしたら、この暗号はロンドンに因んでるのかも…!
そう考えた私は、暗号をロンドンの観光名所に置き換えて解読を試みた。
…うん、多分この方法で合ってるんだと思う。
根拠は無いけど、それぞれが指し示す場所に行って調べてみよう。
その場所を1つずつ調べてみれば、犯人が何をしようとしてるのか分かるかもしれない。
ウエストミンスター駅から地下鉄に乗り、まずはエレファント・キャッスル駅へと向かった。


−My first glance is always at a woman’s sleeve.−
(僕が最初に見るのは常に女の袖だ)
−In a man it is perhaps better first to take the knee of the trouser.−
(男の場合は多分ズボンの膝を見たほうがいいだろう)


「…なるほどね」


駅前にいた男性が着ていたズボンをめくると、膝の裏側の部分にUの文字が書いてあった。
それに男性が持っていたアタッシュケースには、Identityの文字…。
犯人はジェイデンに言った。
解けなければホームズに泣きつけ、と…。
そこから考えると、きっとこの暗号文はシャーロック・ホームズの事も関係ある。


《突然ごめんなさい。どうもありがとう》
《あ、ああ…》


さて、と。
次はロンドン・ブリッジ駅の傍にあるシティーホールね!


《何だろこの文字…暗号かなぁ?》
《名前じゃない?マザリン・ストーンって名前の人形なんだよ!》
「えっ…」


マザリンの宝石…。
あ、確かあの小説の中でホームズが…。


−優月、オメーもマザリンの宝石を読んだなら知ってるだろ?腹が減ってる時の方が頭の回転が早くなんだよ−
−はいはい!分かったからさっさとご飯食べちゃってよね!−


「っ…!」


なっ、何でホームズじゃなくて新一が出てくるのよっ…!
私のバカバカバカ!!


《…ねぇキミたち、その人形どうしたの?》


今は捜査に集中、集中!


《その辺に落ちてたよ。ベンチの隅とか、植え込みの陰とか…》


なるほど。
犯人がばらまいたんだ…。


《よかったらお姉さんにも見せて?》
《じゃあやるよ!いっぱい拾ったから!》
《あ、ありがとう…》


うわー…。
なんだか気持ち悪い人形…。
不気味に思いながら人形の頭を抜くと、首元にTの文字が書いてあった。


「…やっぱりそうなんだ」


これで、この暗号はホームズの事に関係してるっていう確信が持てた。
よかったぁ、ホームズの小説読んでて。
あのホームズの言葉を思い出せなかったら行き詰まってたところだった…。


−僕は頭脳なのだよ、ワトソン君…残りの部分はただの付け足しさ!−


ちちちち、違くてっ!
私が頭を取った理由はホームズが頭脳以外はただのおまけだって言っていたのを思い出したからでっ!


「…バッカみたい」


胸がズキンズキン、と痛みだす。
新一は今頃、蘭達と一緒に楽しく暗号を解いてるのかな…。
私がロンドンにいる事なんか、すっかり忘れて…。


「…ふふっ」


思わず笑いが込み上げてくる。
わざと深みに嵌まって、感傷的になって、誰かに慰めてもらうつもりでいるの?
自問自答したって答えは同じ。
慰めなんかいらない。
新一とまた、笑い合いたい。
ただの友達でもいいから、新一の隣に居たい。
ただそれだけ。
それだけの事なのに、それすらも叶わない道へと進んでしまった。
それを選んだのは誰?
私?それとも新一?
それとも…
存在するかしないか分からない神様が決めた運命、なの…?
考えても考えても、誰のせいなのか分からない。
だから、少しでも希望の光を見ていたい。
もしかしたら、どこかで引き返す事が出来るんじゃないかと…。


「もう一度、出来ないかな…?0からのスタート…」


手のひらに転がるこの不気味な人形は、その答えを知っているのだろうか。
ギュッ、と人形の頭を握りながら、シティーホールをあとにした。


bkm?

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