smaragd | ナノ

Zauber Karte

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《そう、これはまるで黙示録だ…》


一枚の紙切れをヒラヒラとさせながら、この青い瞳の金髪少年は言った。


《ロンドン市民に激励と警告を与えるために書かれたようなこの文書を、麗しのあなたに捧げようではないか…。さぁ、受け取ってくれたまえ》


ホテルでチェックインを済ませ、急いでジェイデンとの待ち合わせ場所であるロンドン警視庁へ赴いた私を、あのキザな大泥棒が吐く様なセリフで迎えた相手。
それは紛れもなく…


《あ、ありがとうジェイデン。必ず解読してみせるから任せてちょうだい…》


あはは…。
一輪の薔薇も一緒に貰っちゃったよ…。
8歳でこれじゃあ、先が思いやられるわね…。


《ところでジェイデン、どうしてヘルメットを被ってるの?》
《ああ、今ちょうどツール・ド・フランスをテレビでやっていてね…。僕は毎年欠かさず見ているんだよ》
《へぇ…》


そういえば周りにいる他の子供達の中にも、ヘルメット被ってる子がちらほらいる。
ふーん…。
あんな自転車レースのどこが楽しいのかサッパリわかんない。


《だが残念な事に、毎年ウィンブルドンの試合と中継が重なってしまっていてね…。テニス観戦も趣味としている僕はどちらを優先しようか毎年困るのさ。で、今年はツール・ド・フランスを選んだってワケだよ…》
《なるほど》


スポーツが大好きな子なのね〜…。


《優月、キミはツール・ド・フランスやテニスは好きかい?》
《そうね…。自転車レースには興味無いけど、テニスならNYで少しやっていたからルールぐらいなら知ってるわ》
《なら、キミを土曜日に行われるウィンブルドンの決勝戦に招待してあげるよ!》
《ウィンブルドンに?》
《ああ!今日の準決勝次第だけど、あの芝の女王ミネルバ・グラスが恐らく試合に出ると思うんだ。それに彼女、俺のクラスメートの姉さんなんだぜ?》
《えっ、そうなの!?》
《ああ》


うわー、すごい!
世の中狭いんだねー!


《キミの分のチケットぐらい、今から父さんに頼んですぐに用意してあげるさ。どうだい?》
《うーん…。行きたいのは山々なんだけど、私はこの暗号を解読しないといけないから…。ごめんね?》
《そうか…。じゃあ行ける様だったら連絡してくれ。夜中だって構わないさ。俺はずっと待ってるよ…。キミからのラブコールをね》
《わ、分かった…》


ジェイデンくん。
キミは3代目怪盗キッドの素質が十分にあると思うよ。
快斗がここにいたらどんな反応するんだろう…。


《ねぇ、ジェイデン?》
《何だい?ハニー》
「…」


か、風邪でもひいたかな…。
一瞬、悪寒が走ったんだけど…。


《あ、あなたって8歳のわりに随分と積極的なのね?》
《おいおい、俺を子供扱いしてもらっては困るな…》


いや、現に子供じゃないですか。


《それに積極的なのは当たり前だろう?Loveからの出発なんだから…》
《…出発?》
《キミも知ってると思うが、テニスでのLoveはゼロだ。しかし、何事もゼロから全てが始まるモノ。思い切ってスタートしなければ何も生まれやしないし、何も達成など出来ないんだよ…》
《そう、ね…》


この子は生粋のキザだ…!
私の手の甲にキスしながら平然とこういう事言い切るんだもん!
快斗に弟子入りしたら確実に快斗以上のキッドになれるって!


《キミはこれからどこへ行くんだ?》
《そうね…。暗号を解読しながらロンドン観光でもしようかって思ってたところだけど…》
《僕の用意したサヴォイのスイートルームではダメなのかい?》
《ううん、ダメなわけじゃないけど何だか広すぎて落ち着かなくて…》
《そうか…。スタンダードルームじゃ狭いかと思ってあの部屋を用意したんだが、それは要らぬ気遣いだったかな…》


そっ、そんな悲しい顔で俯かれると困るよ…!


《ご、ごめんなさいジェイデン!別にあの部屋が嫌なわけじゃないのよ?》
《…ホントに?》
《ええ。久々にロンドンの街並みを歩いてみたいって思ってるの。それに、静かな部屋で1人でいるのは…ちょっと寂しいのよ…》
《……》


2度目のロンドン。
新一と2人で来たかったな…。


《…誰なんだい?》
《…え?》
《キミをそんな悲しい顔にさせてしまっている男は…》


……私も新一と同じなんだなって思った。
8歳の子供にも分かるぐらい、感情が顔に出ちゃうんだから…。


《…知りたい?》
《ああ…》
《その人はね、キミより1つ年下の》
「優月…?」
「…え?」


まさかと思って後ろを振り返ると、その私自身を悲しい顔にしている張本人が、少し離れた場所に立っていた。


「っ…!」


な、何でここに新一が…!?
…あれ?
あの紙って、まさか…。
新一が握ってるのは、もしかして…。


《…知り合いか?》


…神様は意地悪だ。


《…彼よ》
《え?》
《彼が、さっき話した…男の子…》
《…アイツが?》
《そう…。私が今、一番会いたくて…声を、聴きたくて…》


でも、会いたくなかった…。


《ごめんねジェイデン。私、もう行かない、とっ…》


走り出した瞬間、少しだけ足がふらついた。
でも、今ここで歩けるほど私は強くない。
一秒でも早く新一の前からいなくなりたかった。
あんな事言われたんだもん、怖くて出来ないよ…。
軽々しく新一に声をかけるだなんて、そんな事…。


bkm?

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