「ら、蘭!!」
「優月!!」
「「な、何でいるのー!?」」
青天の霹靂とは正にこの事。
まさかこんな場所で蘭と小五郎ちゃんに会うだなんて夢にも思わなかった。
しかも同じ便の飛行機に乗ってて、しかもしかも同じファーストクラスだったなんて…!
ずっと寝てたから分かんなかった!
「ど、どうして2人共ロンドンに来たの!?」
「実はコナンくんのご両親が日頃お世話になってるからって招待してくれて…」
「…えっ?」
コナンの両親って…。
つまり、優作さんと有希ちゃんが…?
「いつも息子がお世話になってるから〜とかいって、ご丁寧に国際郵便で飛行機のチケット寄越して来たんだよ。ったく…いつまでアイツを預からせる気でいんだよあの親は…」
「お父さん!?せっかく招待してくれたんだからそういう事言わないの!」
うん、分かってる。
こうやってバカみたいに悪い方へと考えちゃうのは、新一と別れた後だからって事ぐらい。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、疎外感っていうか。
有希ちゃんは人一倍、いや二倍ぐらい行動派だから、もしかしたら蘭と新一を…とか。
何か、そんな風に思っちゃったりして…。
胸の奥がずーん、ていうか…。
ズキン、てなった。
「ねえ、優月はどうしてロンドンに来たの?」
「あ、私は…」
−いいか優月。前回同様、今回の捜査も極秘だからな?誰にも言うんじゃないぞ−
「…えーっと、まぁ色々あって…」
「ふーん?」
ラディッシュにああ言われちゃったら、いくら蘭でも言うわけにはいかない。
それに「なんか変な男がロンドンで怪しい事してるみたいでさ〜」…なんて言って、折角の旅行を台無しにしちゃったら悪いし。
「そういえば、コナンくんは…?」
まさか1人でお留守番なんて…。
「なんか急に外せない用事が出来ちゃったみたいで、次の便で来るみたい」
「そ、そーなんだ…」
ですよねー…。
あのシャーロキアンがこの2人を黙って送り出すわけないし。
「それにしてもアイツ、1人で大丈夫かぁ?周りに迷惑かけてんじゃねぇだろーなぁ…」
「もうやーねぇお父さん!コナンくんはしっかりしてるし心配いらないよー!」
…あれ?
ちょっと待って?
そういえばさっき、トイレの近くでぶつかった人…って……。
「……ああーーーっ!!」
「「えっ!?」」
そうだ!
い、い、今思い返したらあ、あ、あの人!
どっからどう見ても新一じゃん!!
あのシャツどこかで見覚えがあると思ったら、誕生日に私がプレゼントしたやつじゃない!
何でしれっと着てんの!?
いや、別に着るのは自由だけどさ!
他にいっぱい服あるし何でわざわざアレを…!
「どうしたの優月?急に大声出して…」
「えっ!?」
「飛行機ん中に忘れモンでもしたのか?」
「あ…」
こ、こうしちゃいられないっ!
「ら、蘭!お願いがあるの!私がロンドンに来てる事、新一には言わないで!」
「え?新一に?」
「あ…」
ど、どうしよ…!
思わず新一って言っちゃった!
え、えーっと…。
「きょ、今日ね、実は私、傷心旅行で来てて…」
「えっ…」
あながち嘘でも無い。
今日はジェイデンから暗号文を貰って早めに解けたら、1人でゆっくり観光でもしようと思ってた。
「ほら、新一がその事知ったら未練がましい女だと思われて恥ずかしいし…。それに事件の捜査で忙しいじゃない?だから言わないで欲しいんだ…」
「…そっ、か。うん、わかった」
嘘も方便って、本当に都合のいい諺だとつくづく思う。
「あ、あとコナンくんにも言わないでおいて…?」
「え?別にいいけど…。どうしてコナンくんにも言っちゃダメなの?」
「じ、実はコナンくんとケンカしてて…」
「あ、だから最近うちに遊びに来なかったんだぁ?」
「うん、そうなの!ちょっとくだらないケンカしちゃって…。えっとじゃあ、私そろそろ行くね?1人で感傷に浸らないと…あははは…じゃあねー!」
早くしないとコナンが戻ってきちゃう!
今鉢合わせなんて気まずくて無理だよ!
「待って優月!」
「…え?」
「………」
「…どしたの?蘭」
「あのね?…ずっと、気になってたんだけど…」
「うん?」
「優月は…まだ、その…新一の事、好きなんだよね…?」
「えっ…」
蘭は泣きそうな顔で、でもすごい真っ直ぐな瞳で、私に聞いてきた。
「…蘭は?」
「え…?」
「蘭は、好き?新一の事…」
「…うん、好き、だよ?」
胸に突き刺さる、蘭の言葉。
幼なじみとしてなのか、1人の男としてなのか。
これだけじゃ、ハッキリしないし、ちゃんと「1人の男として好き」なのかを聞かないとダメだと思う。
でももし、蘭が「先輩よりも新一が好き」って言ったら…?
その時は、どんな顔をすればいいの?
…ただ、怖い。
だから聞きたくない。
真実なんか、知りたくない。
「…そっ、か」
「でもそれは」
「私はね、蘭」
「え?」
「私は…アイツが大っ嫌い」
「優月…」
小さい頃から、かっこつけてばっかりで。
いつも上から目線で、意地悪ばっかりしてきて。
変なとこで子供で…。
「世界で一番、大っ嫌いだよ。あんな推理バカ…世界で、一番……」
でも、いつも私の事一生懸命考えてくれて…。
いつも、傍にいてくれてた。
一緒にいるだけで、無条件で笑顔になれて、幸せな気持ちになれる…。
今でも、私にとっては、世界で…一番…。
「あ、優月っ!」
人の感情なんてものは、理性なんて通用しないしきかない。
例え恋人がいようが別の人を好きになってしまうのはよくある事。
それは蘭や新一だって同じ。
一つ屋根の下で一緒に暮らしてたら、新一が蘭に恋愛感情を持ってしまうのは十分有り得る事で。
それに蘭だって、先輩とうまくいってなかったら新一に気持ちが傾く可能性だってある。
この先、どうすればいいんだろう…。
乗り込んだタクシーから見えるロンドンの空は、ただ悲しいほど青くて綺麗で、自分の心とは真逆だな、なんて思った。