シャッ、と勢い良くカーテンが開く音がした直後、眩しい光が部屋の中に射し込んだ。
薄暗かった空間が、一気に明るくなる。
「んー…今日もいい天気だなー!」
雀の囀ずりと快斗の声が、私の頭によく響く…。
「優月、コーヒー飲むか?」
私は清々しく目覚め、モーニングコーヒーを啜る。
は、ず、が……。
「…ぎぼぢ、わ゙る゙い゙…」
「ったく、当たりめーだろ?ヤケになってテキーラとウィスキーをちゃんぽんするからだよ」
新たな教訓…。
慣れない事は、するべきでない。
あれから快斗に誘われるがまま、明け方までヤケ酒を煽った私。
黒羽家にある全てのお酒を飲み尽くす勢いで飲みまくり、記憶をなくしても、なお飲み続けた。
「お水……飲みたい……」
私のリクエストに応える為、部屋を出て行った快斗。
昨日はリビングで飲んでいた筈なのに、今なぜか私は快斗の部屋のベッドで横になっている。
多分、快斗が運んでくれたのだろう。
……昨日って、飲みの後半はどうやって過ごしてたっけ?
「ほら、水。起きれるか?」
「……うん」
猛烈な頭痛と吐き気が容赦無く襲う中、身体を起こし、快斗からペットボトルを受け取る。
……常温のお水を持ってくるなんて、快斗の気配りレベルは相当高い。
「何で快斗はアレ飲んでもへーきなの…」
「そりゃあオメー、黒羽快斗の半分は酒で作られてっから!」
「……」
ヘラッとだらしなく笑った快斗は、本当に世間を騒がすあの大泥棒なんだろうか。
私にはただの呑んだくれ怪盗にしか見えない。
そしてこの人の残りの半分は一体何なんだろうか。
そんなくだらない事をぐわんぐわん回る脳みそで考えてた。
「オメーはもう少し寝てろよ」
「そうする…」
快斗が私の頭をポンポンと撫でた。
この大きな手、すごく安心する…。
それに、妙に懐かしい…。
「…快斗ぉ」
「んー?」
「…寂しい」
「…」
まるで、新一に撫でられてるみたいで…。
胸が苦しいよ…。
「それに、涙が出なくて…苦しい…」
「…だったら、このやっさしー快斗くんが添い寝してあげましょーか?」
頼むから、今の私にそんな事言わないで…。
「…小五郎ちゃんと同じ目に遭わせるよ?」
「ヤ、ヤメトキマス…」
もしも、また快斗がこの前みたいに"男"になって私の首筋にキスをしてきたら…。
私はちゃんと、拒絶出来るのだろうか…?
そんな事を考えてたら、いつの間にか私は深い眠りの世界に落ちていった。
目が覚めると、何か奇妙な音が絶え間なく鳴っている事に気付いた。
…………この音…って。
カチャカチャカチャ…
「…快、斗?」
「んー?」
「何、してんの…?」
私に背を向け何かを弄ってた快斗は、その手を止めてゆっくりと振り向いた。
「…何してると思う?」
「っ…」
蛇に睨まれた蛙とは正にこの事。
私は一切、視線を動かせなかった。
快斗が口角を上げながら私を見つめ、その瞳は妖しく光る。
さっきまでの無邪気な色なんか、微塵も残っていない。
「…奪うつもり、なんだ?」
「ああ…。このまま続けていいか?」
「……」
私に聞かないでよ…。
「…快斗の、好きなようにして」
「……」
私を嘲笑うかの様に、快斗はフッ、と不敵な笑みを浮かべた。
「すぐに終わっから…」
「ん…」
快斗の指の動きはとても早く、その姿を新一と重ねて見てしまう。
チラッと時計を見ると、もうお昼だった。
あぁ、結構寝てたんだなぁ…。
寝起きの頭でそんな事を思いながら、ボーッと白い天井を眺め続けた。
「快斗…」
「…ん?」
「すっごく濃いやつが飲みたい…」
「…オメーからせがむなんて珍しいな?」
「いいから…。早く頂戴よ」
「…吐き出さねーでちゃんと全部飲めよ?」
口の中に、独特の苦味が広がる。
最近、この味しか飲んでない…。
新一の味、忘れちゃいそうだよ…。
人はこんな風にして、色々な事を忘れていくのかなぁって感じながら、口の中に入ってるものをゴクンと飲み込んだ。
「…美味しい」
「飲みたくなったらいつでも飲ませてやるよ…」
そう言いながら、快斗は私から離れた。