「新一!新一っ!」
快斗が真っ先に川に飛び込んでくれたお陰で、気を失っている新一を助け出す事が出来た。
よかったぁ、快斗がいてくれて…
「新一起きて!新一!新一っ!」
「おい優月!」
「何よ!?」
「名探偵の足、折れてっかもしれねー」
「えっ!?」
ちょ、新一最近ケガ多すぎだよっ!
「誰か迎えに寄越した方がいいぜ?」
「誰かって……あ!阿笠博士!」
すぐに博士に連絡を入れ迎えに来て貰った。
無事に合流した後、私は博士が持ってきてくれた包帯と添え木で応急処置を施した。
「それじゃあ僕は調べる事があるのでこれで失礼します…」
「わかった。服部くんにはワシから連絡しておく」
「優月さんはどうしますか?」
「え…」
どう、しよう…。
ホントは新一のそばにいたいけど、でも…。
「……探くんについてく」
私がついて行っても新一と平次くんがペアなら意味ないし。
それに私は今回、快斗のために依頼を受けたんだから最後までちゃんと見届けないと…。
「…では行きましょうか」
「うん…」
私は博士に背を向けて歩き出した…
その時。
「優月くん!」
「…え?」
博士が急に私を呼び止めた。
「新一はずっとキミだけを想っておるぞ!」
……えっ?
「それだけは忘れてはならん!」
じゃあ、何で新一は、私に別れを告げたの…?
何か、別の理由があったの…?
「…博士、コナンの事よろしくね」
私は博士の言ってる事がよく理解できないまま、その場を後にした。
その後、キッドに姿を変えた快斗と一緒にハンググライダーで空を飛び、深山美術館の上に降りた。
ハンググライダーは何度かやった事あるけど、夜空を飛ぶのは初めてだったから凄く楽しかった。
それと同時に、去年新一と一緒にヘリに乗って江古田まで行った事を思い出して、胸がギュッて締め付けられる感覚に陥った。
PM 830
「ねぇ、キッド」
「…何でしょうか?」
「何故私も一緒に中へ入らなきゃいけないのかしら?」
「フッ…。それはもちろん、私の華麗なマジックショーを優月嬢に観て頂く為ですよ。それに、可憐な乙女をこんな寂しい場所に残して行くのは私としては大変心苦しい事ですし…」
「…あ、そ」
普段の快斗を知ってるせいか、キッドの話し方をする快斗にとてつもない違和感を感じるんだけど…。
「それと…」
「うん?」
「優月嬢はこれを被って下さい」
キッドが渡してきた物。
それは変装に使うマスク。
…誰の顔になるのかは知らないし、聞くつもりも無い。
「…何で?」
「私と一緒にいるところを見られても困らないのであれば被らなくても」
「被ればいーんでしょ、被ればっ!まったく…」
後でキッドの共犯者って思われて指名手配でもされたらたまったモンじゃないわ!
「It's Showtime…では、私の後に続いて入ってきて下さい」
快斗はそう言うと慣れた手つきで天井に穴を開けて、颯爽と中に飛び込んで行った。
私も入ろうと穴を覗き込んだ……ら。
「いや、無理でしょ」
有り得ないぐらい高いよ快斗さん…。
これ飛び降りたら確実に足の骨折れるって!
「え…?」
私が悩んでると、快斗はニコッと笑みを浮かべながら手を広げてきた。
……ほんと、いつになったら「良い想い出」に変わるんだろ…。
「っ、と」
「…ありがと」
パッ
「来ると思ってたよ、怪盗キッド…」
この人が深山…。
「フン、今日は女の仲間も連れて来たか…。まぁいい。昼間の内に天井に仕掛けをしてやっとそこに入れた様だが、キミには宝石は盗らせんよ」
「フッ…。私は予告状なしに宝石は盗りませんよ」
「何っ!?」
「今夜は貴方にお別れを言いに来たんです。もう命を狙われたくありませんから…」
そうそう、二日酔いで顔なんか覚えてないんだから許してあげてよ。
「さすが怪盗キッド…。見抜いていたか」
「ええ、薄々は…。しかし分からなかった。盗んだダイヤは貴方に送り返したはずなのに、しつこく命を狙って来る理由が…。それが今日やっと分かりました。貴方がとても後輩思いだという事がね…」
「可愛い後輩達のゲームを目撃してしまったキミがいけないんだよ…」
だから二日酔いだったから覚えてないんだよ、深山さん。
「フッ、ガードマン1人殺しておいてゲームとは…」
「ゲームにアクシデントは付き物だ。キミに見られたのもな…。可愛い後輩に相談されれば、何とかしなければならないだろう?」
「…あれ?」
カーテンの隙間から赤いマニキュアが塗られた手が…。
可愛い後輩…?
あっ!!
もしかして…!
「ん?」
「え?」
「「ヘッヘッヘ…」」
明らかにまともな人生歩んで来ませんでしたって感じの男2人がマシンガンを持って現れた。
この格好…!
コイツらね!
さっき私達を襲ってきた挙げ句、新一を川に落としたのは!
スッ…
突然快斗が片腕を平行に上げた。
もしかしてマジックショーの幕開けの合図?
「な、何のおまじないだね?」
「私が何の準備もせずにのこのこやって来たと…本当に思いますか?」
「や、やれ!キッドとあの女を撃ち殺せ!」
「えっ!?」
私は無関係なのにっ!
パチン…
パンパンパン!!
「わっ!」
キッドが指を鳴らした直後、電球が割れてそこから勢い良く煙が噴き出した。
その直後…
「えっ…!?」
いつの間に付けたのか、快斗はガスマスク姿で私の顔に同じ物を被せ、ウインクをした。
…今更だけど私、トンデモない人と友達なんじゃ?
でも、結構サマになっててカッコいいかも…。
「ゲホッ!ゴホッゴホッ…」
ドサッ…
あっ、あの2人組眠っちゃった…。
「さすが平成のルパン…。やる事が大胆ね」
「フッ、お褒めに預かり光栄ですよ」
ガスマスクを嵌めたキッドは、私の手を引いて深山の方に歩み寄った。
深山、かなり咳き込んでてツラそうねー。
「ゴホゴホ…。な、何だこれは…」
「ご安心を。ただの催眠ガスですよ。気付きませんでしたか?私は4月4日に入った後も、ここには何度も侵入してるんです」
「な、何!?ゴホゴホゴホ!」
へぇ、そうだったんだ…。
「そして今日、白昼堂々とあの天井の仕掛けを付けに来たのは、今夜ここに私が現れると分からせて…」
快斗は話しながらマシンガンを拾い…
「貴方と貴方が雇った殺し屋達をここに誘き寄せる為…」
窓際に向かって歩き出した。
ってゆーか何で私達、さっきから手繋ぎっぱなしなの?
「バ、バカな!」
「言い訳なら、私が呼んだ警察にして下さい」
「あ…」
いつの間に呼んだのか、窓の外を見るとパトカーが列を作りながらこのビルに向かって来ていた。
「このカーテンの後ろで眠っている、貴方の可愛い後輩と共にね…」
シャッ…
「あ…。後輩の方がクールな様だな…」
「…そうみたいね」
「まあ、そこの2人が色々喋ってくれるでしょう…」
ガチャッ…
「この盗品だらけの美術館の事もね…」
「あ…あ…」
そう言いながらキッドはマシンガンを深山に向けた。
快斗の目、いつもと違う…
それに雰囲気も…
相当ぶちギレてるんだなって感じた。
そりゃあ何ヵ月も余計な厄介事をけしかけられたんだもん、無理もないよね…。
でもキッドは銃を使わない主義だから本当に撃つワケ
「伏せろ…」
「え?」
直後、キッドは窓の方に銃口を向けた。
ドドドドドドドドッ!!
「きゃっ!」
反射的にしゃがんで耳を塞ぐ。
それでも次々と窓ガラスが割られる音が聞こえてくる。
快斗はただ単に警察に気付かせる為じゃなく、色々と複雑な心境で銃を握ったんだ…。
自分のせいで怪我人が出たり、人間の命を軽く考えてるコイツらに憤りを感じてる。
…何だか私までブッ放したくなってきた。
ガシャ
「貴方のゲームもこれでゴールだ…。それも最悪の、オウンゴールかな…」
「……」
快斗はそう言い残し、私を連れて美術館を後にした。