「お、お、お前もかー!」
「ちょ、落ち着いて小五郎ちゃん!」
あの後私達は、この青い顔をしながら私の胸ぐらを掴んで叫ぶ小五郎ちゃんと目暮警部達に偶然鉢合わせしてしまった。
こっそり逃げようかなーと思ってたら、突然奇妙な人形が警察の悪態をつきながら爆発した。
なんかもうあのドM、絶対に精神病んでると思う。
「…ったく、あれしきの爆発を交わしきれないとは、最近の警察はなっちゃいませんなー」
「何だと!?キミのせいでこうなったんじゃないのかね!?」
「よして下さいよ、そんな証拠はどこにも無い…はっきり言って迷惑なんすよ!もう付きまとわないで頂きたいですな!」
「何〜!?」
「刑事辞めて正解でした。長生きしたいっすからねぇ」
「……」
「お前ら、行くぞ!」
私と平次くんと新一は、黙って小五郎ちゃんと歩き出した。
「蘭達の事は警部殿に頼んだ…」
「やっぱりね。だからわざとあんな風に…」
「ま、それが吉と出るか凶と出るかは、俺らの頭次第やろけどな…」
「んで?そっちは何か収穫あったのか?」
「あぁ…。4月4日にこの馬車道で、現金輸送車が襲われたらしいで」
「その日は、怪盗キッドが深山美術館からダイヤを盗んだ日でもあるって刑事さんが言ってたよ」
何だか今の新一の言い方、少し引っ掛かる…
「怪盗キッド」って部分だけ妙に含みがあった気が…
「そうか…まぁ、とにかくこっちはこっちで調べてみる…子供は無茶するなよ!」
なんか小五郎ちゃんの走り方、まるで「俺ちょっくらパチンコ行ってくっからよ!」みたいに見えるのは私だけ?
「……」
「……」
「……」
「……」
ん〜…
この沈黙をどう破ろうかな…
結構気まずい…
ってゆーかこれから3人でどうしろって言うのよ…
♪〜
ナイスタイミング快斗っ!
「もしもし!」
「優月!CRYの意味がわかったぜ!」
「ホント?すごいじゃん!さっすが〜!」
「だろー?俺かっこいいっしょ?」
「…うん!かっこいい!」
ここは褒めておかないとね。
拗ねられると面倒だし。
「へへへ!そうと決まればCRYがある場所に行こーぜ」
「それってどこなの?」
「合流したら教えてやるよ」
「あ、そ…」
「じゃあ…1時間後の4時に、三ツ沢上町駅1番出口で待ち合わせな!」
「OK!」
私はスケボーに足を置いてボタンを押した。
「おい、どこに行くんや?」
「どこって…次のヒントの場所に決まってるでしょ?」
「え?次って」
「じゃあねー」
平次くんが何か言った様な気がしたけど、私は特に気にする事も無く快斗との待ち合わせ場所に到着した。
のだけど………
「遅いっ!!」
もう10分も遅刻してるじゃん!
こっちは10時までに解決しないとバラバラになるっていうのに!
「優月」
あ、やっと来た。
「もう遅いよ快…」
当たり前の様に後ろを振り返ると…
「……あーーっ!!」
「へっ?」
こ、こ、こ、この人!
「お、思い出した!ロンドンで会ったあのキザで女に慣れてそうでホームズオタクでワトソンとかゆー鷹飼ってて背中にいっぱい薔薇を背負ってた白馬探っ!」
ななな、何で快斗が探くんに変装してるの!?
「…オメー、白馬と知り合いだったんだ?」
「な、何で快斗が探くんの事知ってるの!?」
「だって同じクラスだし」
「…えぇっ!?じゃ、じゃあ探くんって江古田高校!?」
「おー」
「え、でもあの人ロンドンに住んでるんじゃないの!?」
「あー、何でか知らねーけどロンドンと日本を行き来してんだよ。あのキザなホームズオタク…」
「…」
早いハナシがつまり、新一と快斗を足して2で割った男って事だ。
ってゆーか、何でそんな大変な生活してんだろ…
「つーか聞いてくれよ優月!」
「うん?」
「アイツ、転入して来て早々、青子の手にキスしたんだぜ!?あん時は殺意が芽生えたね!」
「あのねぇ、手にキスぐらいで喚くんじゃないわよ!アンタだって仕事の時は色んな女性にしまくってるんでしょ!?ってゆーか見た目は探くんなのに声が快斗とか気持ち悪いんだけど!」
「優月ちゃんひでぇなぁ…。うぅっ…俺のガラスのハートにヒビが…」
「何がガラスよ!鉄板の間違いでしょ!」
PM 445
そんなやり取りをしてるうちに、私と快斗はCRYがあるという横浜海洋大学に到着した。
「ねぇ、CRYって一体何なの?」
「横浜犯罪研究会ですよ、優月さん」
「あ、なるほど…」
そうそう、探くんってこんな声……って。
「何で大学に着いた途端、いきなり探くんに変わるのよ」
「おっ!優月ちゃんはそんなに快斗くんのままがいーのか?」
「…やっぱ探くんにして。気持ち悪いから」
「シクシクシク…」
でもなんだか懐かしいなぁ…
元気にしてるかな?
本物の探くんは。
「あ…」
ふと掲示板の前を見ると、平次くんと新一がパンフレット片手に何かを探してるのが見えた。
多分、CRYを探してるんだろうな…。
「優月」
「うん?」
「後で名探偵と話せよ。時間、作ってやるからさ…」
快斗…。
「…ありがとう。でももういいんだ」
「え?」
「新一はやっぱり、もう私の事なんて何とも思ってないみたい…」
「…大桟橋で何かあったのか?」
「……」
こんなんで、想い出に出来るのかな…。
「快斗…。私、つらいよ…」
いつか、全てが色褪せてしまうのかな…。
「もう消えちゃいたい…」
こんなに心がズキズキするのに、どうして涙は出てくれないの…?
「…快、斗?」
「ごめんな…マジで」
快斗は突然私を抱き締めて呟いた。
その声色はすごく悲しそうで…。
それを聴いた瞬間、快斗が何を思って私に謝ったのかが分かった気がした。
「…良かった、快斗に好きな人がいて」
「…え?」
「だって、もしいなかったら私、快斗を新一の代わりとして好きになってたと思う。そしたら絶対に快斗を傷つけてたもん…」
「…」
私がそう言うと、快斗は柔らかい笑みを浮かべた。
「俺はそれでも良かったと思うけどな」
「…え?」
「お前がそれで笑顔になれるなら、俺はいくらだって優月のそばにいてやるよ」
そう言いながら快斗は、私の頭を優しく撫でてくれた。
「…探くんの姿でそーゆー事言われると嫌悪感があるんだけど」
「お前なぁ…。ここは『ありがとう快斗!大好きよ!快斗って新一より最高ね!』…って俺に抱きつきながら言うとこだろー?」
「私の声で変な事言わないでよ。それに新一より最高だなんて、死んでも言わない」
「うわ、優月ちゃんひでぇ!鬼っ!悪魔っ!」
「探くんの声でそーゆー事言わないでっ!」
本当は分かってる。
快斗も新一も、比べる対象じゃないって事は。
同じ天秤になんてかけれる存在じゃない。
「でもありがとね快斗。ほんとに感謝してる」
「へーへー、礼なんかいらねーよ」
「…そっか」
私も快斗の支えになっているのかな…。
「それより乳揉ませ」
「さ、行こうか探くん!日が暮れちゃうよ?」
「ちぇっ…」
感動を返せこの変態怪盗めっ!
「では、お手をどうぞ優月さん…」
「…何で?」
「何でって…白馬といえばイギリスだろ?英国式は全てがレディーファースト。いつも女性を一番に考え、尊重する気持ちを態度で表現するんだぜ?」
「…なるほど。今の快斗は英国紳士になりきってるわけだ?」
「そうそう!ほら、早く行こうぜ」
快斗は私の手を取って、2人のいる方へ歩き出した。