smaragd | ナノ

Zauber Karte

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甘い理論


PM 12:13


「んー!おいひーぃ!」


あれから私は一目散にレストランに行き、1人ケーキバイキングを楽しんでいた。
このIDがあれば無料だし、しかも時間無制限とくれば長居しないワケがない!


「えへへ、今日はツイてるな〜。もうケーキがお昼ご飯でいいや!」


♪〜


何十個目か分からないケーキを頬張った時、最近よく聴く着信音が鳴った。


「もひもひはいほ?」
「よっ!優月オメー今どこ?」
「いはへ、ヘーヒバイヒンフにひへふほ!」
「…とりあえず、それ飲み込め」
「……ん、飲み込んだ!」
「で?もう一度聞くけどオメーどこにいんの?」
「レッドキャッスルホテルのケーキバイキング!」
「まじで?俺も今その辺りなんだけど!」
「ほんと?じゃあ一緒にケーキ食べよーよ!」
「おう!今から行く!」
「はいはーい」


あれ?
今日は確か快斗、美術館の天井に仕掛けをしに行くとか行ってなかったっけ?
もう終わったのかな?


「お待たせ!」
「早っ!快斗どこで電話かけてきたの?」
「すぐそこ!あ、わりぃ優月…」
「え?」


快斗は私の髪の毛に触って、何かを取った。


「ま、まさかあんた!」
「わりぃな。ちょっくら聞かせてもらったぜ?」
「はぁ〜…。まさか私に盗聴器つけるなんて…」


きっと今朝の美人な鳩に頼んだんだな…。


「まぁいーじゃねぇか!お陰でこのIDの事知れたし!」
「…えっ!?何で快斗もそのIDつけてるの!?」
「いや、実はさ…」


快斗の話を聞くと、私に何回も電話したけど出なく、迎えに行こうとホテル前に来た。
ら、たまたま鈴木財閥ご令嬢の園子様がお通りになったらしく、イヤラシイ目つきで(快斗は否定してたけど)見てたら、運良く私が貰ったと思われるフリーパスIDをつけていらっしゃったとの事で、あくまでも借りてきた、と…。


「ふーん…。そんなに1人でミラクルランドで遊びたかったんだ?」
「んなワケねーだろアホ!何かの役にたつかもしれねーと思ってよ!」


アホって何よ、アホって!
失礼な男ね!
ってゆーかこのIDがどんな場面で役にたつのか分からないんだけど…。


「快斗ってローマのスリより腕が良いんじゃない?」
「バーロ、あんなパンピーと比べんなっつーの!」


パンピーってあんた…。
連日の仕事で感覚麻痺ってるのかもしれないけど、それ犯罪だからね?


「あ、それより美術館の仕掛けは?」
「もうとっくに終わらせたよ…。ったく、あの華麗な技術を見せてやりたかったぜオメーによ…」
「はいはい。華麗でも何でもいいけど、今日の私はケーキ食べるのに情熱燃やしたいのよ。ごめんなさいね」
「……太るぜ?」
「うるさい」


あんな気持ち悪い思いをしたんだもの、しっかりと元を取らせてもらわないと割に合わないわ。


「しっかし依頼人のヤツ、何か臭うな?」
「…色々な臭いするよね」
「ははは…。オメーも大変だな次から次へと…」
「快斗もね…」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「はぁ〜…」」


あのドMから電話来たらどうしようってさっきからビクビクしてるんだけど、今のところ着信は無いから安心ね。


「…あ、そういやさっき、毛利のヘボ探偵とオメーの元カレ見たぜ?」
「え?どこで?」
「深山ビルの近くの廃ホテル」
「は、廃ホテル?」
「おー、しかもヘボ探偵、神奈川県警に取り押さえられてたぞ?」
「はぁ!?何で!?」
「知らねーよ。まぁ多分、キッドの手下か何かと間違われたんじゃねーか?」
「ちょ…ID爆発しちゃうじゃない!」
「ダーイジョブだって!オメーの元カレがついてるし!」
「もう!元カレ元カレうるさいわねさっきから!地味に傷つくんだからやめてよ!」
「あはは!悪ぃ悪ぃ…」


でも何で新一は廃ホテルなんかに…?
あのドMに教えられたヒントがそこだったとか…?


「…ねぇ、快斗はこの後どうするの?」
「とりあえずオメーに教えられたCRYっつーヒントが何なのか気になるから調べに行ってくる」
「そう…。じゃあ私は夜のカフェテラスに行こうかな」
「ああ、馬車道だろ?」
「わ、快斗すごい!さすが!」
「へへっ!俺かっこいい?」
「全く」
「ガクッ…」
「ねえ、怪盗なんかやめて探偵になれば?」
「えー?やだよめんどくせぇ。人間のドロドロしたところ見てるより、宝石見てる方が何倍もいいぜ」
「まぁそれも一理あるわね…」


ピリリリリリリリ


あれ?
誰から電話かな…。


「はいもしもし」
「おぉ優月くんかね?ワシじゃよ!」
「博士、どしたの?」
「…今、横浜港の大桟橋にいるんじゃが」
「あ、スケボー持ってきてくれた?」
「もちろん持ってきたぞ!その為にわざわざ来たんじゃないか…」
「あ、そっかごめんごめん…」
「今どこにいるんじゃ?」
「今ね、レッドキャッスルホテルのケーキバイキング!」
「ケ、ケーキバイキングゥ?」
「そう!IDがあれば無料で食べれて、しかも時間無制限なんだよー!」
「……」


あ、あれ?


「博士も食べたかった?」
「そ、そうじゃのぉ…」
「あ、でも哀ちゃんに食事制限されてるから無理だね!」
「ははは…。そ、そうじゃ優月くん。ちょっと聞きたい事があるんじゃが…」
「聞きたい事?」
「この前ワシの家に来た時、新一に大嫌いって言ったじゃろ?」
「え…うん、それが何?」
「いや…本当に嫌いになってしまったのか気になってのぉ…」
「…何で博士が気になるわけ?」
「あ、いや…あの後新一がかなり落ち込んでおったからのぉ…何となく気になったんじゃよ…」
「……」


今まで博士は、私と新一がどんなにケンカしたって絶対に首を突っ込んでこなかった。
なのに突然こんなふうに聞いてくるって事は多分…。


「…新一には言わないでくれる?」
「え?あぁ…」
「あれは嘘なの…」
「…嘘?」
「ほんとは憎いんだ…」
「…え?」
「思わず殺したくなるぐらい…」


これが今の私にできる精一杯の抵抗。


「…じゃあ、今から大桟橋に行くね」
「あ、あぁ…気を付けてな…」


ピッ


「ごめんね、長々と」
「別にいいけど…。インチキ博士のジィさんからだろ?」


インチキって…。


「ううん…新一から」
「へ?でも今博士って呼んでたじゃねーか」
「バカね。声は博士よ」
「ああ、なるほど…。フッ、やっぱり奥手だな!オメーの彼氏!」
「彼氏じゃなくて元カレ。しかも何よやっぱり奥手って…」
「なぁ…」
「うん?」
「やっぱりちゃんと、名探偵と話し合ってみた方がいいんじゃねーの?」
「…そんなの、出来るわけ無いじゃない。蘭が好きなんだって、新一の口から聞きたくないもの」
「けどよー…」
「私もう行くね。何かわかったら連絡して?」
「あ、ああ…」


何でわざわざ博士の声を使ってまであんな電話かけるの…?
そんなに私と付き合う前の関係に戻りたいの…?
新一が何を考えてるのか、全然わからないよ…。


PM 1:28


私は大桟橋までやって来た。
周りには子供連れの家族や、芝生に寝転んでイチャイチャしてるカップルがいる。
そんな中で一際目立つ2人組を見つけた。
…なんか一見、おじいちゃんと孫みたい。


「はーかせっ!」
「おお、待っておったぞ!ほれ、パワーアップしておいたぞ!」
「ありがと!じゃあねー」
「えっ!?もう行くのかね!?」
「だって10時まで解決しなきゃ死んじゃうから」
「なぁ優月っ!」


突然新一が私を呼んだ。
その声が私にはすごく切羽詰まった様に聞こえて、無視なんて出来なかった。


「……何?」
「あ…オメー、ヒント貰ったんだろ?」
「…」


ほんの一瞬、期待した私って何なんだろ…。


「…ええ、貰ったけど?」
「何ていうヒント貰ったんだ?」
「…夜の、カフェテラス…」


悔しい。


「じゃあ俺と一緒か…」


私ばかり苦しんで、バカみたいだ。


「もう話し掛けないで…」
「え?」


私ばっかり好きで…いつまでも引きずって…。
本当に、バカじゃないの?


「…もう私に話し掛けないでよ!!」
「な…」


私は毎日こんなツラい気持ちでいるのに…!
何で新一は事件の事しか頭に無いの!?
私の気持ち、無視しないでよ!


「次、話し掛けてきたら…本当に殺しちゃうよ…?」
「お、おい!待てよ優月!!」


素早くスケボーのスイッチを押し、走り出した。
その瞬間、後ろから新一の声が聴こえたけど私はあえて止まらなかった。
新一なら、私の言った事があの理論に基づいてるって分かってると思う。
だから、新一の気持ちがまだ変わっていないのなら…。
別れを切り出した理由が、蘭なんて関係ない事だとしたら…。
新一は私を追ってきてくれるはず。
今は、そう願うしか無いんだ。


bkm?

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