「来て頂いてありがとう。私が依頼者です…事情があって顔を公に出来ない無礼をお許し下さい…」
事情…?
なーんか既にこの人、怪しいニオイがプンプンするんだけど…。
「今日お呼びしたのは、ある事件を解決して欲しいからです…」
「…ある事件?未解決事件の事?それとも個人的な?」
「フッ…それを掴むのも、貴女の仕事なんですよ…」
「はぁ?なに意味わかんない事言ってるのよ!?あんた、私をバカにしてんの!?」
「ああ…いいですよ、その反応…」
…は?
「私はね…貴女の様な気の強い女性が大好きなんですよ…はぁ、はぁ…」
「げっ…」
こ、こいつ…アブない奴だった…!
「フフ…これから貴女に、いくつかのヒントを出します。それを元に推理し、事件を解決して下さい…」
「…ねぇ、貴方、他にも依頼した探偵いるでしょ?」
「さすがですね花宮さん…貴女で5人目なんです。依頼した探偵は…」
「…前の4人は?」
「1人はまだ調査中…。2人は辞めてもらい、もう1人は事件を解決出来ずにここにいます…」
言い終わると同時に、画面が切り替わった。
…誰?このおっさん。
「調査報告書は渡したろう!いつまでこんな所に閉じ込めておく気なんだ?早く出せ!」
「竜探偵…貴方は事件を解決出来なかった…」
「何だと?」
「無能な探偵は生きている資格が無い…」
突然、竜探偵の腕についてる例の腕時計型フリーパスがタイマーに切り替わった。
「な…何だこりゃ!?」
あれは私と同じID…!?
「クソッ!どうなってんだこりゃ!」
「大丈夫、痛くありません。一瞬で楽になる…」
「ま…まさか…!茂木や槍田が姿を消したのも…」
「さようなら…。竜探偵…」
「お…おい!待て…待ってくれ!…クソ!」
やがて、タイマーが0を表示した、次の瞬間。
「うわあぁぁあぁっ!」
激しい閃光が画面を包み込み、そして砂嵐になった。
「…ねぇ」
「はい…?」
「この人、今はもうこの世にはいないの?」
「…今の映像を見て、生きてると思いますか?」
「…じゃあさ、証拠持ってきてよ」
「…え?」
「本当に死んでいるのなら、何かしら遺留品が残ってるはず。彼が今、爆発で死んだっていう証拠がね…。何かあるでしょう?衣服の燃えカスとか、何なら肉塊でも何でもいいわ」
「…なぜ見破った?」
「そんなの簡単よ…。こんな残酷な事を平気でする様な神経を持ち合わせてる貴方なら、この映像以外に死体を写した写真とか、映像も見せてくるはず…。だから怪しいと思ったのよ」
「フフ、さすがだよ花宮名探偵…。竜探偵には金を渡して協力してもらったんです…」
「…なぜそこまでして?」
「そのIDにプラスチック爆弾が組み込まれている事を知って貰う為ですよ…。口で言っても信じて貰えない可能性がありますからね…」
「……」
じゃあやっぱりこれにも…。
ああ…やっぱり今日は最悪な日だ…。
こりゃ、下のケーキバイキングでヤケ食いしなきゃやってらんないわ。
「貴女に与えられた時間は今夜10時まで…。それまでに、ある事件の真相を掴んで下さい…」
10時までって事は、あと約13時間…。
「もし時間までに解決出来なければ、貴女のIDも爆発してしまいます…。ちなみに、そのIDはちょっとやそっとの事で外れやしませんし、私が解除しないうちにベルトを切ったり外してしまえば、直ぐ様爆発してしまいます…」
「ふん、上等じゃない…。是非とも解決してやろうじゃないの!その代わり、無事に解決したらあんたを冷たい監獄にぶち込んでやるから覚悟しとくのね!」
「ああ…いいですよ花宮さん…!もっと私に…はぁ、はぁ…強気な言葉を…はぁ、はぁ…言って下さい…!」
「……」
チラッと横にいる高田さんを見ると、笑いを堪えてるのか鼻の穴が最大限に膨れていた。
…ここはスルーした方がいいかも、ね。
「で?他に話す事は?もう無いなら行くけど…」
「ああ、そうでした…。今夜10時までに事件を解決し、真犯人を捜し出してくれれば好きなだけ探偵料を差し上げましょう…。しかし、時間内に解決出来なければ、そのIDを爆発させる…」
「貴方ねぇ!爆発爆発うるさいのよ!同じ事2回も言わないでくれない?!それに貴方は警察に捕まる運命なの!依頼料云々言ってんじゃないわよ!」
……あっ!
しまった…!
「あぁぁあぁ〜〜いいよ、いいよ…!!はぁ、はぁ…さぁもっと!!はぁ…もっと私を罵ってくれたまえ!!はぁはぁ…」
「ククククク…」
ああ、高田さん、とうとう耐えきれずに笑っちゃった…。
「…っていうか、さっき言ってたヒントって何よ?」
「はぁ、はぁ…もっとだ…」
「…は?」
「もっと…もっと私を虐げる発言をするんだ…!そしたら2つヒントをやろうじゃないか…!」
「……」
こ、このドM野郎…!
でも仕方ない…。
ノーヒントじゃ動きようが無いし、ここは我慢しないと…。
「あ、あんたふざけんじゃないわよ!大体何よその気取ったガウンは!あんたなんかが着たって全然紳士に見えないし、ちっともクールじゃないわ!それに何なのその背後にあるモニター!あんたもしかして盗撮が趣味なワケ!?気持ち悪っ!最低!人の道外れてる人間だわ!」
「………」
「………」
「………」
「………」
あ、あれ…?
「申し訳ありません花宮さん…」
「え?」
「依頼人が失神してしまった様なので、私からヒントをお教えします…」
「……」
も、もう帰りたい…。
来るんじゃ無かった…。
「あ、あの…何で高田さんがヒント知ってるんです?」
「あ…依頼人が貴女に煽る直前に、ヒントが書いてあるメールが届いたんです…」
「ソ、ソウデスカ…」
「ヒントは夜のカフェテラスとCRY…」
「夜のカフェテラス、CRY…?」
「あ…それとそのIDにはGPSが組み込まれているので、警察に駆け込んだりはしないようにして下さいね…」
「そんな負けを認める様な事しないわよ…。それに駆け込んだ所で爆発させるつもりなんでしょ?」
「ええ、まぁ…。あ、それとこちらをどうぞ。依頼人とのホットラインです。と言っても、貴女からかける事は出来ません。依頼人からの指示を受けるだけの物です…」
「…高田さん」
「はい?」
「あのドMに言っといて。電話でもさっきみたいな事言ったら、事件解決してあげないから…って」
「か、かしこまりました…。では事件が解決しましたら、この携帯に入っている私の番号へかけてお戻り下さい…」
電話が来ない事を祈るしかないわね…。