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Zauber Karte

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縛られる心と命


家を出る前に、ふと思い出した。
新一と別れた事を、LAにいる有希ちゃんに伝え忘れていた事を。
多分、新一から報告はしていると思うし、私から急いで言う必要は無いかな…。


ピリリリリリリリ


「はい、もしも」
「優月ちゃーーんっ!!!」
「いっ…!」


通話ボタンを押すと、お久しぶりな有希ちゃんの絶叫に近い声が、脳内に響いた。


「お、お久しぶ」
「新一から聞いたわよ!あなた達、別れちゃったって本当なの!?」
「あ…」


そっか…。
新一、連絡したんだ…。
何故だか分からないけど、落ち込む自分がいた。


「うん、実はそうなんだ…。だから、あのマンションも引き払わなきゃいけないんだけど…。手続き、お願い出来る?」
「そ、そんな事より!本当なの!?本っっっ当に別れちゃったの!?」
「もう有希ちゃんったら!今日は4月1日じゃないよ?」


まるで他人事の様に思えてしまうのは、まだしっかりと受け入れられてない証拠だ。


「ほんとに、新一とはもう終わったの…」


例えエイプリルフールだとしても、こんな嘘はつきたくないよ…。


「ねぇ優月ちゃん…。私からこんな事を聞くのはおかしいかもしれないけど、どうして別れちゃったの…?」
「あれ…?新一から聞いてないの?」
「優作は聞いたんだけどね、どうしても私には教えてくれないのよー!だから悪いかなぁ?って思ったんだけど、気になってつい我慢出来なくて優月ちゃんに電話しちゃったってワケ!」


優作さんは、聞いたんだ…。


「…理由は、分からないの」
「え?わからない?」
「新一の口から、ハッキリと聞いてないから…」


私は往生際が悪い性格なんだなって、今更だけど気付いた。
新一があのレストランに蘭を呼び出したのは、告白とかそういうのじゃなく、何か他に事情があったからなんじゃないか…とか。
頭の中で都合良く解釈しちゃって、どうしても素直に受け入れられない。


「あ…ちょ、ちょっと待ってて?」


有希ちゃんがそう言った直後、電話の向こうでゴニョゴニョと話し声が聞こえた。
何を話しているかは聞き取れない。


「…ねぇ、優月ちゃん?」
「うん?」
「新一に別れようって言われた日、何をしてたか覚えてる?」
「えっ?…えーっと…。その日は確か…その、生理痛が酷かった日で学校を休んだくらいで、昼間はどこにも出掛けたりしなかったよ?」
「あらぁ、可哀想に!大丈夫なの?」
「う、うん。薬を飲んだら楽になったから…」
「他には何をしてたの?」
「えっ?他に?」


えーっと…。


「…友達に、ちょっと協力してあげたぐらい…かな」
「友達?協力?」
「うん」
「協力って何をしたの?」
「あ、別に大した事じゃないの。友達が好きな子に告白したいから、その練習相手になってくれって頼んできて…。それでご飯作ってくれたお礼も兼ねて、仕方なく付き合ってあげただけ」


今思えば、練習なんかした意味無かったのかもしれないけどね。


「でもそれがどうかした?」
「…うふふっ、何でもないわ。じゃあ、これから事件の捜査なんでしょ?頑張ってね、平成の女ホームズちゃん!」
「えっ、ちょ…有希ちゃん!?…切れちゃった…」


相変わらず有希ちゃんはテンションが高いなぁ…。


バサバサ


「…あれ?」


この鳥…快斗がこの前連れてきた美人な鳩さん…?
何で私の頭に乗っかってるんだ?


バサバサバサ


「…行っちゃった」


何だかいつもと違って変な朝だなぁ…と感じながら、電車を乗り継ぎ、みなとみらいまでやって来た。


「これが、レッドキャッスルホテル…」


確かに豪華だけどさ?
ピンク色のホテルって、何だか………ラブホ?


「おめでとうございます!あなた方が10万人目のお客様です!」


えっ!?


「ま、マジで!?」
「きゃー!チョー嬉しい!」


嘘…。
目の前でアウトとか最悪…。
今日はツイてないかもしれない。


「失礼ですが…」
「え?」
「花宮探偵でいらっしゃいますか?」
「あ、はい。もしかして高田さんですか?」
「はい、お待ちしておりました。早速こちらへ…」


私は高田さんに案内され、ホテルの中へと入った。


「…あっ!」


あそこのレストランでケーキバイキングやってる!!


「どうかしましたか?」
「あ、いえ…」


絶対後で行こうと心に決めて、私は高田さんの後ろを黙ってついて行った。


「どうぞ、お入り下さい」
「失礼しまーす…うわぁ〜、広いお部屋…」


でも工藤家のハワイの別荘の方が…。


「……はぁ…」


また思い出しちゃった…。
もう行く事なんて無いんだから、思い出したって仕方ないのに…。


「では、少々お待ち下さい…」


そう言って高田さんは部屋を出て行った。
それにしてもこの部屋、スイートだって言ってたっけ?
この広さは1人はちょっと落ち着かないかも…。


「…あれ?」


この椅子の肘掛けについてるパネル…。
もしかして、指紋認証装置…?
何でこんな物がここに…。


「花宮さん」
「わっ!ビックリしたぁ…」
「これは失礼致しました…。さぁ、こちらをどうぞ」


高田さんは、腕時計みたいな物を私に渡してきた。


「何ですか?これ…」
「そちらはミラクルランドのフリーパスIDです」
「フリーパス?」
「ええ、早く調査が終われば遊園地で遊べますよ」
「えっ、でも1人で行ってもつまらないし…」
「そんな事言わずに…。それがあれば、下のレストランでやっているケーキバイキングも無料で食べられますよ」
「むっ…!?」


無料!?


「ほ、ほんとですか!?」
「はい」


や、やったー!!
10万人目の客じゃないけれどすっごく嬉しい!
これは神様からのプレゼントなんだわきっと!


「それでは失礼して…」
「え?」


シャーーーーッ!!


「な、何!?」


何で急にカーテンが閉まるの!?
私がビックリしていると、突然モニターに人が写し出された。


bkm?

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