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Zauber Karte

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キミの真意


「俺、遂に決めたっ!」
「え?何を?」
「だからっ!青子に告るんだよっ!」
「…あれ?この前は保留にするって言ってなかった?」
「それがさ〜、事情が変わったっていうか何ていうか…」
「え?」


その急いで告らなきゃいけない事情を詳しく聞くと、何ともまぁ可哀想な事情で…。


「なるほど。青子ちゃんを狙う男の子が他にもいっぱいいて、その内の1人が近い内に告ると宣言したってわけねー…」
「そーなんだよ優月ちゃん!…まぁ青子可愛いしさ?仕方ねぇんだけどよー…。シクシクシク…」


鳩3匹に突っつかれながらテーブルに突っ伏して泣く快斗が何とも哀れに見える…。


「…で?何でそこで私に頼む事が出てくるの?」
「…練習」
「え?」
「俺、自分で言うのもなんだけど、純粋で恥ずかしがり屋で内気じゃん?告白の練習相手になって」
「……」


どーこが純粋で恥ずかしがり屋で内気よ!
アンタはただの変態で下着マニアでキザな泥棒でしょーが。


「ふーん?…どうしよっかなー」
「頼む!このとーり!」
「うーん……私、今お腹がヒジョーに痛いんだよね〜」
「じゃあ後で良く効く薬買ってきてやるから!俺そーゆーの詳しいし!」
「えっ…」


か、快斗が薬局で生理痛の薬買うとこ見たくないかも…。
てゆーか、何で男の快斗がそんな物に詳しいのか理解出来ないんだけど。
あ、あれだ!
仕事で変装してばっかりだから、そういう情報も入ってくるんだね。
……きっと。


「…まぁ、付き合ってあげてもいいけど?いつも快斗にはお世話になってるしさ」
「よっしゃあ!」
「きゃっ!」
「もうオメー大好き愛してるっ!!」
「だーかーら!気安く抱きつかないでってば!」
「これが抱きつかずにいられるかってんだ!」
「てかどうして青子ちゃんには出来ないのよ!?」
「それはそれ、これはこれ!」
「…もう!じゃあさっさとやろ?そろそろ新一来ちゃうし」
「よろしくーっ!」


ケンカ中に快斗がうちにいるの目撃されちゃったりしたら、間違いなく火に油を注いじゃう結果になるよね…
ま、今日は学園祭の後片付けだからあと2時間くらいは大丈夫かな…。
ってゆーか、何で告白するのにいちいち練習なんかする必要があるのかイマイチよくわからないけど…。


「じゃあいくぜ?」
「ほーい」


まぁ、ここは快斗に合わせて一芝居打ってあげようじゃないの。


「…ぐはっ!」
「……とまぁ、最後はこんな感じで抱きついてやろーかなぁ?と考えてるわけだ」
「あ、そ…」


たかが練習なのに入り込み過ぎだよっ!


「でもなーんかイマイチ入り込めなかったなー…」
「……」


いやいや、十分過ぎるほど熱演してたじゃん。


「あ、そうだ!いい物があるよ!」
「へ?」


えーっと…あった!


「…ねぇ快斗、変声機に青子ちゃんの声を覚えさせたいから青子ちゃんの声だして?」
「あっ、そーか!優月ナイス!グッジョブ!天才!」
「えへへ」
「コホン……キッドなんて、盗んだ物を捨てたり後でこっそり返したりしてる、ただの善人ぶった愉快犯なのよ!快斗ったら何でいつもキッドの肩ばっかり持つの?…こんな感じでいーか?」
「…」


善人ぶる…か。
端から見れば、キッドのやってる事はそう見えるのかもしれない。
けど、想いを寄せる相手にそんな事言われ続けて、快斗だって苦しいはずだよ…。


「いつも…そんな事、言われてるんだ…?」
「まぁな、毎日聞かされてるよ…」
「……」


快斗は自分が苦しくても、きっとそんなの関係ないんだ。
文句言ってる場合じゃない、自分がやるしかないって、亡くなった盗一さんの意志を受け継いで、自分の気持ちを押し殺して……。


「でもよー、キッドの悪口言ってる時の青子、めっっちゃくちゃ可愛いんだぜ?この前なんかさぁ…」
「……」


少しでも快斗を哀れに思った私がバカだった!


「じゃあダイヤルも合わせたし、練習しようか」
「っし!あ、ちなみに青子の1人称は、"青子"だからな!間違えんなよ!」
「あ、さっき感情移入出来なかった理由って、もしかしてそれ?」
「そうそう!じゃあやろーぜ!」


その後ちょっとの約束だった筈が、「青子の話し方はそうじゃねぇ!」とか言われながら指導され続け、結局夕方まで練習に付き合わされた私。
最後の方なんて、「快斗大好き」とか「快斗愛してるよ」とか、青子ちゃんボイスで強制的に言わされた。
…この人、私を何だと思ってるんだろうか。


「あー疲れた…。私に感謝してよね?親切に付き合ってあげたんだから…」


でも何だかんだで私も、つい時間を忘れて結構楽しんじゃったりしたワケで…。
理由は多分、さっき快斗が買ってきてくれた、アレの薬がよく効いてるから…かな。


「へへっ、まじでありがとな!お陰で緊張しねーで済みそうだ!」


満足そうに満面の笑みで言う快斗を見て、ふと気付いた。
…そっ、か。
私は快斗のこんな顔が見たかったから、協力してあげたんだ。


「ふふっ、どういたしまして」


友達にはなるべく笑ってて欲しい、って言った快斗の気持ちがよく分かる。
それは当たり前な事なのかもしれない。
でも、誰もが忘れてる事だと私は思う。
それを快斗は、気付かせてくれた。


「もしかして俺に惚れちゃった?」
「…………は?」
「だって優月ちゃん、さっきからずーっと微笑みながら俺の事見つめてくるから!」


…ヘラヘラ笑いながら玄関に向かうこの変態怪盗は、そんなつもりは微塵も無かったと思うけど。


「…大丈夫、安心して。天変地異が起きてもそれは有り得ないから」
「はうっ!俺のデリケートなハートに小さなトゲがあっ!」
「…」


いちいち相手にしてたらキリが無いのは百も承知。
こーいう時はスルーするのが1番いい。


「…それにしても、快斗もとうとう筆下ろしする日が来るのね〜」
「はい!早く下ろしたいです先生!」


先生って何よ、先生って…。


「…ま、気楽に頑張ってよ」
「おー!じゃあまたな!」
「うん、気をつけてね」


パタン、と扉が閉まり、部屋の中に静寂が戻る。


「さてと…うわ、もうこんな時間!夕飯の準備しなきゃ……ん?」


何か忘れてるような……。


「…あ、そういえば新一が来てない…」


どう、したのかな…。
クラスの人達に捕まって遊びにでも出掛けてるとか……?
……電話…して、みよう…かな…?
気まずいけど…。


プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル


「……」


なかなか出ない…。
何かあったのかな…。


「んだよ…」
「あ…」


聞こえたのは、コナンじゃなく、新一の声。
って事は、まだ薬の効果は切れてないんだ…。


「新一…?昨日さ、話があるって言ってたけど…何?」
「……」
「……」
「……」
「…ねぇ新」
「もう終わりにしようぜ…俺達」
「……え?」
「戻るんだよ…元の幼なじみっていう関係にな…」
「……」


電話越しに聞く新一の言葉が、ヤケに頭に響く。


「…じゃ」
「あ…ま、待ってよ!どうして!?何でなの!?私が快斗を庇ったから!?それが原因なら…私、謝るから…」
「……んな事、俺の口から言えるかよ」
「…え?」
「…じゃあな」
「……」


通話終了の音が耳に響く。
ケータイを支える力が抜けて、ゴトリと音を立てて落ちた。


「…どう、して?」


わかんない…
何で?何でなの?
そればっかりが頭を駆け巡る。
これは夢なの?
この前見た悪夢を、私はまた見てるの?


「…痛い」


頬をつねっても、痛みを感じる。


「痛い…何で?」


何度強く引っ張っても、頬を叩いてみてもジンジンと痛みだけが残る。


「どうして…?なんで…何で……夢じゃ、ないの…?」


不思議と涙は出て来なかった。


「……あ」


そういえば去年、新一が言ってた…。


−なぁ優月、知ってるか?人が涙を流す時っつーのはな、その出来事を受け入れたっていう証拠なんだぜ−
−じゃあ涙が出ない時は、その出来事を受け入れられないから…って事?−
−そーゆー事!−


「……受け入れられるわけ、ないじゃない…」


待ってたのに…。
新一は、私を手放さないって…。


「信じて、待ってたのに…」


−戻るんだよ…元の幼なじみっていう関係にな−


これが新一の、今までずっと…
考えてた、事…だったの…?


bkm?

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