smaragd | ナノ

Zauber Karte

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迷惑な優しいヤツ


あの後ドキドキしながら新一の様子を見に行ったけど、何故かコナンには戻っていなかった。
哀ちゃんに聞いたら、聞いたことのないありとあらゆる薬品名を並べ立てながら説明をし始めてきて、締めくくりは…。


「まぁ貴女に言っても理解出来てないでしょうけど、要は成分を大幅に変えたせいね。予期せぬ事態も想定内…。別に慌てる事は無いわ」


って言いながら帰って行ってしまった。
まぁ、無事に蘭にもバレずに済んだし、良かったとホッと胸を撫で下ろす。
で、私と新一はと言うと、急に気まずくなってしまい、一言も会話しないまま別々に学校を後にした。
新一はどう感じてたのかは知らないけど、私は少しだけ寂しさを感じていた。


「うっ…痛い痛い痛い…!」


そして今日。
哀ちゃんのメール報告によると、新一はまだ昨日と同じで元の姿のままらしい。
多分今頃は、蘭とコナン(哀ちゃん)と3人で仲良く登校してる時間…かな。
私はというと、言わずもがなベッドの上で月1でやってくる魔のレディースデーにひたすら耐えていた。
普段だったら薬を飲んで這いながら学校に行くのだけど、今日は新一が久し振りに登校する。
昨日の事もあるし、周りから冷やかされ、体調の悪い中周りの人達をうまく諌める自信も無いので、今日だけは遠慮なく蘭にレディースデー休みのメールを送った。
蘭は久し振りに3人で登校できるって楽しみにしていたみたいだけど、ちょっと今日はホントに行けない……無理!


「…あ」


そういえば昨日、新一が話があるって言ってたっけ…。
逃げるなって言われたけど、構わず帰ってきちゃった…。


「く〜〜っ!痛いよバカぁーー!!」


もう女子なんてやめたくなる…!
でも頑張って耐えないと…!


♪〜


「んあっ!?」


こ、この着信音は新一のだ!


From:新一
Sub:大丈夫か?
本文
放課後行くから


────END────


…相変わらずな淡白メールをどーも。
でも一応心配してくれてるのは嬉しかったりする。
放課後…か。
ほんと、話って何なんだろ…?
あの事謝ろうとしてるとか…?
でもそしたら、何でもっと早く言わなかったのよ…。
哀ちゃんの、今はその時じゃないって意味も気になるしなぁ…。


「……考えても仕方ないか」


とりあえずこの腰と腹に響く鈍痛から逃げようと思い、布団を被った。


「…ん…」


気が付かないうちに眠っていたみたいで、ふと時計を見ると、既にお昼などとっくに過ぎていた。
喉の乾きを潤しにリビングへ行くと、怪しい人影が1つ…。


「……あんた、人んちで何してんの?」


ソファーで鳩に話しかけながら寝転がって寛いでる不法侵入者を発見した私。
もうこの際、オートロックなのにー、とか、鍵はどこで?とか、この人に対してはそんな野暮な質問はしないでおく。


「お、やーっと起きたか!」


ポー、ポポー


「…学校は?」
「THE・サボリぃ!」


今日はアレなもんだから、と、親指を立ててニカッと笑いながら言う快斗にイラッと来てしまった。


「っていうか…」
「うん?」
「何で勝手に入ってきてんのよ快斗っ!…と鳩も!」
「まーまー、そう怒るなって!ちょーっとオメーに頼み事があってさ!」


ポーッポポッポポー


「……私、体調悪いわお腹が減ってるわでそれどころじゃないの。帰って。つか出てけ」
「ひゃー、怖い怖い。普段は優しい優月ちゃんも、さすがに乙女週間の時だけは修羅になっちまうんだなー」


ポッポポー


「は!?なな、何でわかんの!?」
「えー?だってさっきオメーの顔触っても熱くなかったし!」
「…」


もう返ってくる答えは大体予想がつくから、色々突っ込むのはやめておく事にする。


「でもそれだけじゃ普通わからな」
「変なところでクソがつくほど真面目なオメーが学校を休む時と言えば、高熱か生理か、もしくは極度の寝不足、って相場は決まってんだ。オメーの目の下には隈は無く、熱もない。っと来れば…」


ぽんっ!って音が快斗の手から聞こえた。
思わず視線を落とすと…。


「…快斗くん、快斗くん」
「んー?」
「何?このお金…」
「ついこの前借りてた5千えーん!俺優しい男だからきちんと返すんだぜ!えっへん!」


ポポー!


…つい、この前って、


「こんのバ快、斗っ!」
「いっ、てぇー!」
「半年以上前の事をついこの前だなんて表現しないわよフツー!」


物を盗み出す腕は天下一品だけど、人をイライラさせるのも天下一品だなこの悪党はっ!
……でも不覚にも、そんな快斗がまた新一に見えた。
でもそれは悪い事じゃないって快斗がこの前言ってくれたお陰で、特に罪悪感とかは無い。
無い、けど…。
ただ、ほんの少しだけ、新一が恋しくなった。


「そーいや学園祭どーだった?」
「…色々あったわよ。想定外な事がいっぱいね」
「えっ、マジ?詳しく教え」
「快斗」
「へ?」
「お腹空いた」
「…何食いたいんだよ?」
「んー…クリームパスタ!」
「へーへー」


私は快斗が作ってくれたご飯を食べながら、昨日の学園祭の事を話した。
その間ずーっと快斗は、相棒の白い鳩さん3匹(ちなみに全て雌。快斗曰く美人さんらしい)と戯れながら聞いてたんだけど…。


「…まぁ、そんなこんなで今に至るってワケよ快斗くん」


ポー


「ふーん…。じゃあオメーら、無事に仲直りしたってワケだ?」
「いやそれがまだ…」


ポッポー


「は?キスしといてまだ仲直りしてねーのかよ?」
「だってー!私と新一が交わした久しぶりの会話が、はい10円玉…だよ!?こんなんで仲直りしたって言える!?」


ポポポー


「いや〜わっかんねぇぞ?あの名探偵の事だしな。案外もう仲直りしたつもりでいんじゃねー?」


ポー、ポッポー


「それは無いよ。だって放課後、話があるからってうちに来るみたいだし…」
「ここに?」
「うん」


ポポッ…


「ふーん…なぁ」
「うん?」
「オメーの彼氏さ、」
「うん」
「案外、奥手?」
「…今更野暮な事聞かないで」
「…悪ぃ」


ポー


…鳩の事もあえて突っ込まないでおこう。
それより私は、正直新一が今何を考えてるのか全くわからない。
まぁそれも話を聞くまでの辛抱か…。


「あ、ねぇ…快斗の頼み事って何?」
「ああーーーっ!」


バサバサバサッ!!


「そうだよ、それそれ!すっかり忘れてたっ!!」
「ちょ!鳩の羽が舞ってる!」
「そんなの適当に拾っとけって!」


ポー、ポポッポー


何て"鳩"迷惑なヤツなの!!
お腹痛いのに、有り得ない程飛び散ってる鳩の羽を片付けるこっちの身にもなってよね!


「あ、そんな事より!」
「え?」
「片付けながらでいーからさ、俺の頼み事聞いてくれよ優月ちゃんっ!」
「……」


結局私が片付けるのかよ!


bkm?

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