「そういえば蒲田君、車のダッシュボード、ゴソゴソしてなかった?」
「ああ、免許証を捜してるって言ってたけど…」
免許証を?
「何か、思い出されましたか?」
「いえ…私達、蒲田君の車で来たんですけど、何か彼の様子がおかしかったなって…」
「ダッシュボードの中を探ってたりして…」
「高木くん、その車へ案内してもらって中を見てきてくれ。何か残ってるかもしれん」
「はい!」
なるほど。
あの人はわざと免許証を隠し、こんな展開になるように仕向けたんだ…。
でも、肝心の証拠がどこにも見当たらない。
あの人はどこへ隠したっていうの?
「…えっ?」
もう少し色々見てみる必要があるかもしれないな…って思ってたら、突然新一に腕をぐいっと引っ張られ、そのまま窓際へと連行された。
「ど、どうしたの…?」
「……」
「ねえ、ちょっと…」
「……」
もう、何よ無視しちゃって…。
悠長に窓の外なんか見てる場合じゃないじゃん!
っていうか、どうしてさっきから何も話さな……。
「…あれ?」
あの人…
何で雨が降ってる中で…
「…あっ!」
そうか!
そうだったのね!
真相が全てわかったわ!
「…優月」
「え…?」
「後で大事な話があっから、逃げんじゃねーぞ…」
新一はそれだけ言い残し、体育館を出て行ってしまった。
多分、証拠を探しに行ったんだと思うんだけど…。
何だろ?大事な話って…。
「警部!」
「高木くん!で、どうだった?」
「蒲田さんの車のダッシュボードからこんな物が…。恐らく、青酸カリではないかと…」
高木刑事の手には、小さな瓶が入ったビニール袋が握られていた。
「ご苦労。こっちにもさっき鑑識から連絡があったよ。4人の飲み物に毒物が混入された形跡はないとな…」
「それじゃあ…」
「ウム…これより我々は、本件を自殺と断定して」
「これは自殺じゃないわ!警部!」
「ど、どういう事だね優月くん!」
「どうもこうも、これはれっきとした殺人事件よ!」
「さ、殺人!?」
「そう…」
え…?
「極めて単純かつ初歩的なトリックによって、蒲田さんは毒殺されたんです…」
「あ…!」
体育館の入り口には、光を浴びることを許されない人物が立っていた。
「暗闇に浮かび上がった舞台の上で、日頃から持っている、たわいもない自らの嗜好を利用されて…」
キザなセリフにいちいち突っ込んでる場合じゃない。
みんなの前で目立ったりしたら…!
「しかも、犯人はその証拠を今もなお、所持しているはず」
「……」
まったく…。
事件の事になると抑えきれなくなるんだから!
どうなったって知らないからね!
「僕達の導き出したこの白刃を踏むかの様な、大胆な犯行が真実だとしたらね…」
「き、キミは一体…?」
「お久しぶりです、目暮警部…」
黒衣の騎士は、その正体を隠していた仮面を…。
「工藤新一です…」
とうとう、外してしまった。
「く…く…」
「工藤!?」
「ど、どーして!?」
「はぁ…」
あーあ…やっちゃった…。
しかもなーに?
「僕達」って…。
「おい、あれB組の工藤じゃねーか?」
「ああ、ここんとこ休学してたアイツか!」
「え?マジほんと?」
「じゃあ俺達、リアルにアイツらのキスシーン見てたって事か!?」
「くっそー!俺も騎士役やれば花宮とキス出来たのにーっ!」
「バッ、バカヤロ!そんな事したらお前、工藤に殺されてたぞ!」
「……」
隣には、その休学中で現在茶色いランドセルを背負いながら小学校に通っていらっしゃる新一さんがいるワケで…。
しかも何故かドヤ顔で私の肩に腕を回して来たワケで…。
うん、この人が何を考えて仮面を外したのかが分かったかもしれない。
「きゃー見て見て!工藤先輩よー!!カッコイイ〜!」
「やっぱりあの2人が並ぶとお似合いよねー!」
「生で夫婦推理劇が見られるなんてっ!」
「でもいいな〜花宮先輩…。私も工藤先輩にキスされたいな…」
「バ、バカ!そんな事言ったら花宮先輩に首の骨折られちゃうわよ!」
「…」
よく分かってんじゃん…。
ってゆーか何よ、夫婦(めおと)推理って…!
「「工藤っ!工藤っ!」」
「「花宮っ!花宮っ!」」
あーもううるさいなぁ!
何このコール!
やりにくいじゃないの!
「シッ!静かに…。祭りの続きは、この血塗られた舞台に幕を下ろした後で…」
「……」
カ、カッコいい…!
「っ、」
…じゃないわよ!
私のバカッ!
「し、新一…」
「ぁん?」
「ホントに新一なの…?」
「ぁあ?バーロォ、寝ぼけた事言ってんじゃねーよ…」
「じ、じゃあさっき優月とキスしたのって…」
「…俺だけど、何か文句あんのかよ?」
「…」
忘れちゃいけないのが、現在進行形で私達はケンカしてるワケで…。
かれこれ1ヶ月、いやもう2ヶ月?
よく分からないけど、何とも居心地の悪い空間に耐えられなくなった私は、真相を暴く為にそっと新一から離れた。
「平次くん」
「ん…?何や優月?」
「10円玉ちょーだい」
「は?何やいきなり…」
「ある?ない?」
「そら1つや2つやったら持ってるけど、そんなモン何に使…っ!?」
「…」
平次くんのこの笑み…。
何で私が10円玉を借りに来たのかが理解出来たみたいだ。
「…ええけど、高いでぇ?」
そう言いながら平次くんは、お財布から10円玉を取り出した。
「えへっ、おーきになぁ!」
「せやから、けったいな関西弁を使うなっちゅーとるやろ!ボケ!」
さてと…。
事件現場での公私混同は禁物…。
あくまで私は警察のサポート役だもの。
「はい、10円どうぞ」
「あ、あぁ…サンキュ」
なーにぎこちない態度とっちゃってんのよ…。
自分からキスしてきたクセに。
「く、工藤君に優月君。久し振りなところ悪いんだが…」
「「あ、はい」」
「亡くなった蒲田さんのカップからも他の3人のカップからも、毒物は検出されておらんのだよ?しかも蒲田さんは、中身をほぼ飲み干してしまっているし…。こりゃーどう見ても…」
「確かに、蒲田さんが自分で毒を飲んで自殺した様に見えるけど、ある物を使えばこの殺人は可能になるのよ」
「ある物?」
「そう。トリックの初歩の初歩、氷を利用すればね…」
「こ、氷だとぉ!?」
氷ってホントに良く使われるのよね…。
「…犯行に使われた毒物は、冷水に溶けにくい青酸カリ。氷に穴を開けてその中心部に青酸カリを仕込み、細かい氷で詮をし、再度凍らせた物を蒲田さんのカップに入れれば…」
「毒が溶け出すまでの間に、蒲田さんは中身をほとんど飲み干せるというワケですよ」
ま、周りの視線が痛い…!
「し、しかしそれでも彼のカップには溶け出した毒が残るはずじゃ…」
「蒲田さんのカップのフタ、開いてましたよね?何故だかわかりますか?」
「どーせ、毒を飲んだ後苦しくて握りつぶした拍子に…」
「バカモノ!だったらカップがひしゃげているはずだろうが!」
前から思ってたけど、小五郎ちゃんと警部の掛け合いって何だか私とラディッシュみたい…。
あまりにもおかしな推理を横から口出してくるものだから、1回だけガムテープで口を塞いだ事があるくらい、ラディッシュは結構騒がしい。
「氷が入った飲み物を飲んだ後、フタを開ける理由はただ1つだけしか無いわ。蒲田さんは毒を飲んだのではなく、食べたのよ」
「た、食べた?」
「そうか!ほら、警部もよく残った氷をガリガリ食べるじゃないですか!」
ふーん。
警部も食べるタイプなのね…。
「なるほど。蒲田さんのそのクセを知っていれば、確実に彼を毒殺する事ができ、尚且毒はカップに残らんというワケか…」
「そーゆー事!」
「それで?誰なんだ?そんな毒入りの氷を入れたのは…」
「カップを手渡しただけの三谷さんと野田さんには無理。飲み物を売っていた蜷川さんには、氷を入れる事は可能です」
「でも蜷川先輩は、蒲田さんが注文したアイスコーヒーをわざとコーラに替えているわ。返品しに来るかもしれない飲み物の中に毒を入れるなんて、まるで自分が犯人ですって言っちゃう様なもの。だから蜷川さんはシロね…」
「しかも、蒲田さんと同じアイスコーヒーを注文した人はもう1人いて、確実に彼だけを狙う事は不可能。50%の確率に賭けるのは、あまりにも危険すぎる…」
「そ、それじゃあ…」
「ええ、もうお分かりの通り…蒲田さんを毒殺した人物は…」
「飲み物を買い、皆さんの席に運んだ…」
「「鴻上舞衣さん。貴女しか考えられません!」」
「す、すげぇ…」
「息ピッタリだな…」
「ホントね…」
や、やりづらい…!